第283話 少しずつ近付いて来たXデー
12月に入ってから10日後に、美羽大学から合格通知が来た。スポーツ推薦の合格率が高いとは言え、無事に合格出来て良かったよ。
これで後は学生としての道を踏み外す事なく、真面目に生活していれば無事に大学生になれる。
一哉や和彦達も合格しており、俺達の残る授業はほぼ消化試合だ。早い段階で決まったので、気が楽で助かった。
これまで勉強に回していた時間を、今では美佳子との時間やトレーニングに回している。
早期に合格が決まったとしても、部活を引退して鈍った分を取り戻さないといけない。
スポーツ推薦は合格したら終わりではなく、入学後もスポーツで良い成績を残さないといけないのだから。
そもそも大学でも狙うべきは優勝であり、受かったのはスタートラインに立っただけ。
だから頑張るのは当然として、恋人との時間が大切である事は変わらない。特にクリスマスの様なイベントなんてね。
「見て咲人、凄い人だよ」
「平日でもこんなに人が来るんだ」
「まあ夜だからね。次の日に有給取れば良いし」
隣の市でやっている、自然公園のイルミネーションを2人で見に来ている。結構有名なイベントだからか、来場者はかなり多い。
実際とても綺麗だし、人が多いのも納得だ。正直雰囲気はかなり良い。クリスマスに恋人と過ごす場所として、相応しい空気が満ち溢れている。
俺達もそうだけど、沢山のカップル達がこの光景を堪能していた。木々やベンチなどを利用して、夜の公園が美しくライトアップされている。
自然とカラフルな光に包まれながら、美佳子と手を繋いで進んでいく。あんまり興味は無かったけど、いざ来てみると悪くない。
「綺麗だよね~」
「えっと、美佳子の方がとか、言った方が良いやつ?」
「それは流石にキザ過ぎかな~」
受験を気にしないで良くなったから、出来た余裕で恋人との過ごし方にも改めて意識を向けた。
3年目だからこその、進歩というか進化というか。何かしらは必要かなと思って色々と調べた。
もうすぐ大学生になるのだから、いつまでも高校生みたいな恋愛じゃあダメかなって。よりスマートというか、エスコート的な?
そういう所を気にすべきかなと思ったから。とりあえずは運転免許かなと思って、1月から教習所に通う予定だ。
今日もそうだしこれまでの様に、いつまでも美佳子だけに運転させるのもどうかなと思って。
免許が取れたら父さんの車で練習させて貰おう。美佳子の車は高級車だし、傷をつけるのが怖い。
「うわ咲人見て! 大きなツリーだ!」
「おお、凄い」
「せっかくだし写真撮らない?」
公園の中央に飾られた、巨大なクリスマスツリーが目の前にある。周囲を見れば皆がそれぞれ写真を撮影していた。
良さそうな場所を探して、2人でツリーに背を向ける。頬がくっつく距離まで顔を寄せあって、スマートフォンのインカメで撮影した。
他にも同じ様に撮影をしている人達が沢山居るし、ここは決して俺達だけの空間ではない。
俺達だけが撮った光景ではないけれど、この写真に写っているのは俺と美佳子だけ。
2人だけの想い出であり、これもまた特別な想い出だ。他人からすれば何が楽しいんだって、多分思うのだろう。
こんなに寒い中で、わざわざ人混みの中に行く。その通りなんだけど、本人としてはこれが楽しい時間なんだ。
「あれ? あそこに人混みが出来ているね? 行ってみない?」
「良いよ、行こうか」
「今度は何かな~」
21時過ぎと結構遅い時間だけど、まだまだ人が減る様子はない。多分この辺りで泊まって帰るのだろう。
俺達もそうだし、周辺のホテルはどこも殆ど満室だ。人によっては明日も仕事だろうけど、美佳子の言う様に有給を取ったのかな。
それともそのまま会社に行くのか。真相は分からないけれど、誰もが楽しそうに過ごしている。
幸せそうな人達が集まって出来た、幸せの空間が周囲に広がっていた。周りが楽しそうだとこっちも楽しいみたいな、お祭りの様な効果が出ている。
人混みの中心には、婚約指輪を出してプロポーズをしている最中のカップルが居た。なるほどこれを皆で見守っているのか。
どうやら悲しい結果にはならず、上手く成功したらしい。集まっていた全員から、祝福の拍手が送られた。
「ロマンチックだったねぇ咲人」
「うん……美佳子はさ、あんな感じの方が嬉しかった?」
「ボク達は婚約式までやったんだよ? 羨ましいなんて思わないよ」
つい気にしてしまったけど、こう言う所がまだ高校生の恋愛観なんだろうな。まだまだスマートな対応は出来そうにない。
自信を持って言動を取れたら良いんだけど、どうしても不安になってしまう。これで良かったのかとか、無理をさせていないかとか。
気にしないのもマズイだろうし、気にし過ぎも良くないだろう。ここの塩梅が未だに良く分かっていないんだ。
ネットで色々調べてみたけど、答えが一杯あって難しい。頭でっかちにならない様に、気をつけながら学んでいる。
美佳子の話も参考にしつつ、ステップアップを図りたい所。どうせならさ、やっぱりカッコイイと思われたい。
「咲人の良い所はさ、ボクがちゃんと分かっているから」
「でもほら、甘えてばっかりじゃダメじゃない?」
「……なるほど、一皮剥けたい男心だね?」
まあ一言で言ってしまえばそういう事だけどさ。高校生じゃなくなるという節目が近付いて、どうしても考えてしまう事だ。
法的な意味では成人として扱われる年齢だから、ちゃんとそれらしくしておきたいと言うか。
卒業の日がすぐそこまで来ているからこそ、相応の男になっておきたい。それはその……性的な意味とかもね? 一応ね?
そしてその後ホテルにて、ある意味幸せで同時に辛い我慢の時間を味わった。大学入学が決まっているのに、まだ高校生だから出来ないという修練の時間を。
どちらもまだ完全に卒業はしていないという意味で、正しく高校生をやるしかないんだよね今はまだ。
盆休みってなんだっけ? という1週間でしたねハイ。




