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第280話 スポーツ推薦枠の受験

 スポーツ推薦での選考は、大体秋ごろに行われる事が多い。これは高校受験ともそう変わらないらしく、大学でも同様の動きとなっていた。

 美羽(みう)大学は出願が10月末までで、11月の上旬に面接や小論文などのテストが実施される。

 選考と試験は全て美羽大学内で行われ、12月中に合格発表が行われる予定だ。そして今日はその選考の当日であり、俺は美羽大学に来ていた。

 同じくスポーツ推薦で受験をする一哉(かずや)和彦(かずひこ)も一緒に気ているが、当然試験なので別々に行動している。

 俺は面接の為に会場となっている会議室の前で、順番待ちをしている最中だ。暫く待って居たら俺の番が回って来た。


「次の方!」


「はいっ!」


 呼ばれたのでサッと立ち上がり、練習通りに一声かけてから入室した。ドアを閉める時は後ろ手に閉めないで、しっかりと体ごと向きなおってと。

 静かにドアを閉めて、ポツンと置かれた椅子の横に、真っ直ぐ綺麗な姿勢で立つ。座る様に言われてから、ハッキリとした返事をして着席する。

 ここまでの流れでマズイ点はどこにも無い筈だ。面接の練習自体は2年生の時から行われていた。

 何度も練習したし、父さんや美佳子(みかこ)にも確認を取った。変な事はしていないと思う。後は質問に対する受け答えをしっかりするだけだ。


「それでは(あずま)さんに質問です。当大学を選ばれた理由はなんでしょうか?」


「はいっ。御校は近年、駅伝大会での成績が非常に優秀で、近隣の大学と比較してもその実績は明らかに高いと思います」


「なるほど、続けて下さい」


 社員第1号を雇う為の美佳子が行う面接から、有益な情報を得る事が出来た。ある意味俺にとっても良いタイミングで募集を始めてくれた。

 個人情報はもちろん聞いていないけど、どんな回答があったかのサンプルを教えて貰えた。

 どういう受け答えが落とす基準になるのか、二次面接に進めようと思えた人の特徴はどんな感じだったのか。

 そんな方向性から、色々と勉強する事が出来た。学校での練習と合わせれば、結構良い対策になったと思っている。

 何度も練習をして来たので、緊張はしていても変な焦りはない。こんなの何日も放置された美佳子の家に入る時と比べれば、感じるプレッシャーはたかが知れている。


「それではこれで終了となります。ありがとうございました。」


「ありがとうございました!」


 失礼しますと断りを入れてから、来た時と同じ様に丁寧に退室する。面接で言いたい事は大体話せたと思う。

 先ずは面接が終了し、後は国数英の基本3教科の学力テストと、出されたテーマで小論文を書くだけだ。

 自分の受験番号に従って、用意された教室へと移動する。先ずは通常の学力テストの方から始まる。

 俺が入った教室では、最終的に30人程の受験者が集まった。この中から全員が合格するとは限らない。

 あまりにも成績が悪ければ、不合格とされてしまう場合だってある。去年の美羽大学のスポーツ推薦でも、15人程が落とされていた。


 成績が理由なのか面接が理由か、もしくは私生活で何か問題を起こしたのか。原因までは分からないけど、甘く考えていては危険だろう。

 学力テストでは満点とまでは言わないけど、8割ぐらいは抑えておきたい。理想は9割で、最低目標は8割という感じ。

 今日まで続けて来た勉強は、決して無駄にならないと思う。これまでの高校生活では、自分なりに勉強をして来たつもりだ。


「それでは始めて下さい」


 テスト用紙が配られて、時間通りに学力テストがスタートした。回答はマークシート方式で、ただ鉛筆で正しい回答を選んで行くだけ。

 気をつけるべきは1列ズレてしまったとか、そういう凡ミスだろう。案外これが馬鹿にならず、やってしまう人がそれなりに居るみたいだ。

 下らない失態で不合格なんて、とてもじゃないけど格好がつかない。他にも名前を書き忘れたとか、しょっぱいミスに注意しつつテストを進めていく。

 予定通り3時間程で学力テストは終了し、残るはネックである小論文だけだ。そこさえ乗り越えれば、後は合格発表を待つだけ。


「15分間の休憩に入ります。お手洗い等に行く場合は、遅れない様に気をつけて下さい」


「ふぅ……」


 一旦休憩に移行したけど、カンニング対策でスマートフォンは預けたままだ。この僅かな時間で、美佳子と連絡を取る事は出来ない。

 スポーツ推薦は合格率が高いとは言え、万が一という事だってある。まだ油断は禁物。この受験には俺だけでなく、美佳子の未来も懸かっているんだ。

 留年なんて絶対に出来ないし、卒業出来なかったら色々と困る。主に美佳子との関係性の問題で。


 順調に未来へ向けて歩む事だって大切だけど、思春期男子的な意味でも卒業は重要な意味を持っている。

 俺が高校生じゃなくなれば、法的な意味で美佳子との間にある壁が消えるのだから。だいぶ俺、頑張っただろう。

 1年の頃から、俺はずっと耐えて来たんだ。もう許されても良いだろう。駅伝大会とかも当然出たいけど、俺にとって大学生になる事は特別な意味も持っている。


「それでは全員揃っている様ですし、用紙を配ります」


 残された最後の試練、小論文の時間がやって来た。危うく煩悩に飲まれてしまう前に始まって良かった。

 というか試験会場で考える事じゃないだろうに。軽く両頬を叩いて気合を入れ直す。これが終わるまで、余計な事を考えるのは止めにしよう。

 俺はまだ合格した訳じゃないのだから。さあ小論文のテーマは何だ? 出来る限り時事ネタについて学んで来たぞ。

 変なのだけは止めてくれと願いつつ、教師や試験官の手によって配られた裏向きのA4用紙を睨む。


 始めという言葉と共に、問題用紙を表に向ける。書かれていたテーマは、eスポーツがオリンピック競技に選ばれている事について、あなたはどう考えるか。

 あれ? 見間違いでは、ない…………やった! これならまだ書けるぞ! 園田マリアの配信を沢山観ておいて良かった!

 eスポーツに関する俺の思いと考えを、用意された原稿用紙にスラスラと書き進めて行った。

まあ合格しても、まだ卒業じゃないので我慢ですけどね。


それからジュラシックワールドをレイトショーで観て来ました。もしかしたら感想で1本書くかも知れないです。

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