第278話 受験勉強と幼馴染達
夏休みも終わり学校が始まってからは、何だか時間の流れが早い様に感じる。模試を受けに行く頻度を、春頃よりも増やしたからだろうか?
それとも勉強する時間を増やしたからだろうか? あっという間に1日が終わり、1週間が過ぎて1ヶ月が経っている。
学校の空気も以前とは違って、少し硬い感じがするというか。殆どの生徒が進学するから、3年生は微妙にピリピリしている。
空気が悪くなる感じではないから、それ程気にはならないけど。大会の会場とかと比べたら、闘志の様なものがない。
ただ人生が懸かっているからか、真剣さの様なものは感じ取れる。そんな空気の学校から離れて、俺は幼馴染達と地元のファミレスに来ていた。
「へぇ、和彦と夏歩も美羽大学なんだ?」
「もって、咲人もなのか?」
「うん、そうだよ」
美羽高校もそうだし、美羽大学もスポーツに力を入れている。流石に体育大学ほどではないけれど、美羽大学は有名なプロ選手を何人も輩出した学校だ。
それだけではなく、大物芸能人も在籍していた過去があるそう。この辺りでは有名な話で、知らない人は早々居ない。
もしかしたらと思っていたけど、和彦にも推薦の話が行っていたみたいだ。俺に来ているのだから当然行くか。
夏歩はスポーツ推薦ではないけど、成績が優秀だから推薦は受けられるらしい。3人揃って推薦入学とは、めでたい話だ。
陰ではタバコを吸っていたとか、馬鹿な行動を取らなければまた3人で同じ学校に通えそうだ。
推薦だからこそか、先生達からは何度も言われている。喧嘩などの不祥事、学業の成績不振は無い様にと。
「夏歩の志望は? 文学部とか?」
「それも考えたけど、外国語学部だよ。通訳とか興味あって」
「え、じゃあ英語を教えてよ」
「俺も頼む」
高校受験の勉強をやっていた頃は、こんな風に過ごせなかった。だけど今はこうして、幼馴染同士で勉強会が出来る。
こうしてワイワイやっていると、昔の事を思い出す。夏歩は勉強が得意だったから、いつも和彦と俺は教わる側だった。
九九の勉強なんか、結構な頻度でお世話になったっけ。あの頃から変わらない光景が、随分と懐かしく感じる。
しかし夏歩が通訳の仕事を目指すのか、まあ違和感は特に覚えないかな。頭の良い夏歩らしい未来の目標だと思う。
読書が好きな面もあったから、てっきり文学部かと思ったけどね。小説家や出版社への就職を目指すのかなって。
「夏歩だから本が作りたいって言うかと思ってたよ」
「あ~確かに。俺も咲人と似た事を思ってた」
「まだ完全に諦めた訳じゃないよ? 翻訳本の仕事だってあるじゃない?」
夏歩の進路と和彦の進路は大体分かった。こうして語り合った未来が、そのまま実現するかは分からない。
俺は世界陸上に出られるのか、和彦はプロ野球選手になれるのか。夏歩が望んだ未来に進めるのか、そこまでは不確定だ。
大学生活だってまだ、ハッキリとはイメージ出来ていない。オープンキャンパスには行ってみたけど、何となくの雰囲気が分かっただけ。
いざ大学生になったら、どう感じるかなんて今の俺に分かる筈がない。でも一哉だけでなく2人が居てくれるなら、これほど心強い事はない。
その内2人にも一哉を紹介しよう。合格したら、頻繫に顔を合わすのだから。ああでも、一哉には夏歩に手を出すなと言っておかないといけないか。
あいつは人の彼女にわざわざ手を出しに行くタイプではない。軽薄ではあるけど、クズな男ではないからね。最初に言っておけば大丈夫だ。
「ほら2人とも、見てあげるから始めよう」
「お、おう!」
「ありがとう」
せっかく勉強しようと集まったのだから、時間を無駄にしている場合ではない。幼い頃から良く利用していた場所で、3人揃って受験勉強に勤しむ。
親達に連れられて、幼い俺達は良くこうして集まっていた。それが今ではこうして、受験勉強をしている。
不思議なものだなと思いつつ、夏歩の教えで英語の勉強を1時間ほど続けた。小休止を挟んでから、数学の勉強へと移る。
同じ様に1時間ほど数学を続けてから、国語の勉強と進めていく。16時頃から始めた受験勉強だったけど、気が付いたら19時を回っていた。
流石にそろそろ帰らないとマズイか。お店側もここから稼ぎ時だろうし。これ以上の長居は流石に邪魔だろう。
「そろそろ出ない?」
「おお、そうだな」
「もうこんな時間じゃない」
俺達は会計を済ませて、ファミレスから出る。10月になってもまだ少し暑く、この時間になっても快適とは言い難い。
ほんのりと蒸し暑い中を3人で歩きながら、自宅へと向かっていく。これもまた懐かしい感覚がしてしまう。
俺達の関係が修復されてから、こうして3人で行動する機会が増えた。ただお互いに高校で出来た友達も居るから、昔の様に毎日一緒ではないけど。
だからこそ今の様な時間が、どうしても懐かしく思ってしまう。それも大学に行けば、また日常になって懐かしさも感じなくなるのかな。
どうであろうと、俺達の時間はまだまだあるという事だ。中学時代は途中で拗れてしまったけど、これからの俺達は何十年と続いて行く。
「スポーツ推薦だからって、サボったらダメだからね2人とも!」
「分かってるよ」
「俺達を信じろって」
こうして夏歩に小言を言われるのも、これからの日常に戻るのだろう。学部が違うから、毎日一緒に登校はしないだろうけどさ。
それでもきっと、楽しい時間がまた過ごせるのは間違いない。美佳子との未来だって大切だけど、友人達との日々だって重要だ。
美佳子だけが居れば幸せだって、言い切れたら格好いいのかな? だけど俺はそう思わないし、友人達だって居て欲しい。
その有難さを実感するタイミングは、これまでに何度もあった。特にこの2人は、俺の中で重要度がとても高い。
美佳子とどちらか選べと問われたら美佳子を選ぶけれど、親友と恋人って比べる対象ではないからね。
求める意味が全然違うし、関係性も同じではない。ある意味では美佳子と同じぐらいに大切な2人と、これからの人生をまた一緒に歩めたらな。
そんな風に考えるのは、少し大袈裟だろうか? とにかくそれぐらい大切な幼馴染達と、協力し合って受験に挑む日々がこうして始まった。
この展開があったので、甲子園に関する活動報告を前回書きました。
ここ20年ぐらいのスポーツに力を入れている学校は、喫煙などの不祥事に厳しい目が向けられます。そうなっていないのは、普通ではありません。
問題が起きていない学校には注目が行かず、不祥事が起きた学校ばかりに注目が行くので誤解が生まれてしまっています。
大谷選手やイチロー選手にいじめられたって人、出て来てないでしょう? あの桑田投手も、暴力は良くないと仰っていたでしょう?
一流は仮にいじめや暴力を受けても、誰かに同じ事をやりません。自分がされたから、自分もやって良いなんて考えません。
プロにまでなっていないから、そのせいで知られていない精神が一流のアスリート達は大勢居ます。愚直に何十年も、スポーツマンシップを守り続けている人達が沢山居ます。
その事を知って頂けたらなと、私は思っています。




