第277話 3回目となる彼女の誕生日
先月に美佳子との交際が3年目に突入し、美佳子の誕生日も3回目を迎える。夏休みが終了間近の8月29日、美佳子が34歳を迎えた。
これぐらいの年齢になると、女性としては微妙な気分になるらしい。俺から見たら全然若々しいし、気にしなくても良いと思うんだけどな。
でも女性にはお肌の悩みだとか色々あるらしく、男の俺がどうこう言える事ではないのかな。
子供産むには35歳が節目となっているから、その年齢に近付いたという意味は女性にとって大きいのかも。
やっぱり産む側ではない俺の感覚は、女性の気持ちとはズレてしまうのかな。男性と女性では、お互い分からない事はそれなりにある。
だけど美佳子が生まれた日だというのは大事だし、今までの様に誕生日を祝うのは変わらない。
ただどこかに出掛けてまで、盛大に祝ってくれなくて良いと言われた。それなら俺がやる事は1つ、食事もケーキも全力投球で作るだけ。
午後から調理を始めて、晩御飯に間に合った。今日は美佳子の家でこのまま食べるので、父さんは外食でお願いしてある。
「という事で、美佳子の好きなものフルコースです!」
「わぁ! 凄いね!」
「一品毎の量は少なくして、色々食べられる様に作ったよ」
一口サイズ小振りなハンバーグや、中華料理の盛り合わせ。和食のプレートなんかも作ってみた。
全て美佳子が好むメニューばかりで、好きなものだけを取って来たバイキングの様になっている。
たまに美佳子がホテルのランチに連れて行ってくれるので、そこからヒントを得た形だ。
色んな料理を少量ずつ作るのは大変だったけど、これもまたいい練習だと思って頑張ってみた。
もし自分が料理屋をやるとしたら、こういうやり方も有りか? いやでもそれって、採算が取りにくくなるのかな? その辺りはちゃんと勉強しないといけない。
「それから今年のプレゼントはこれ」
「Violの袋? 咲人、無理してない?」
「大丈夫、滅茶苦茶高いものじゃないから」
今回買っておいたのは、美佳子が好きなハイブランドの商品。中身は美佳子が欲しがっていたルームフレグランスだ。
リードディフューザーというポピュラーなタイプで、小瓶に細い木の棒を差すオシャレな部屋に良くあるアレ。
小瓶は片手に収まるぐらいのサイズだけど、お値段は2万円というザ・デパコスの世界。
ハイブランドの商品では珍しくない価格帯だけど、普通に考えたらそこそこ高い買い商品だ。Violの中では高くないという表現に困る価格。
普段からあんまり無駄遣いをしていないから、俺の場合はこうしてポンと買えているだけ。
散財癖のある女子だと、キツそうだなといつも思う。美佳子ぐらい収入がある人なら、これぐらいなんとでもなるんだろうけどね。
「あ、これ欲しかったヤツだ。ありがとう!」
「今年も実用性のある物の方が良いかなって」
「凄く嬉しいけど、これより高いプレゼントは社会人になってからにしてね」
背伸びのし過ぎは良くないと、阿坂先生からも教わった事だ。ただ今年はこれより良いプレゼントが思い浮かばなかった。
美佳子のお陰で、高校生にしてはお金を持てている方だろう。ただこれを当たり前だなんて、思ってはいけないと理解している。
好条件のバイトを出来ているから、こんな事が出来るだけ。そこについての認識は、いつも忘れない様に心掛けているつもり。
それに来年から同棲を始めたら、もう家事がバイトでは無くなる。美佳子はお金を出すと言ったけど、それは既に断った後だ。
済む場所も食費も何もかも、美佳子が持つ事になるのだからバイト代なんてとても貰えない。ここで俺も暮らすのだから。
結婚したら尚更の事だし、高校生の間だけと区切りを決めた。その高校生最後の誕生日だから、高いプレゼントにしたのはそういう意味も含んでいる。
「うん、もちろん。今回だけだよ」
「咲人が居てくれるだけで嬉しいんだから」
「それは俺だってそうだよ」
結局一番嬉しいのはそこなんだけど、それを言い出すとプレゼントが用意出来なくなってしまう。
世間のカップルや夫婦たちは、どうしているんだろうね? 俺が調べた限りだと、新婚とか付き合い立ての頃は皆しっかり用意するらしい。
だけどこうして2年や3年付き合ったカップル、そして10年以上の夫婦関係がある人達は意見がバラバラだ。
何が正解なのか、俺には良く分からない。美佳子が30代だというのも、無関係ではないのかも。
10代や20代だとプレゼントを欲しがるみたいだけど、30代からは意見が微妙な感じだった。
俺が調べた幾つかのサイトに限った話だけど。大体恋人へのプレゼントって、何をあげたかではないよな。
「やっぱり気持ちって事だよね」
「そうだね~ボクは気持ちがあれば十分だよ」
資金的な余裕があるという面も無視は出来ないけど、元々の性格からして美佳子はこういう人だ。
高校生を相手に、過剰な要求なんてしない。多分きっと料理だけだったとしても、美佳子は不満に思わないだろう。
それは分かっているけれど、だからって甘えて良いとは思わない。コスパという観点で見れば、美佳子は凄く付き合い易い性格だ。
でもそれは美佳子がそうだというだけで、俺が彼女の誕生日にどうするかは別の話だろう。
ただでさえ資金面で美佳子に劣るのだから、記念日とか誕生日は大切にしたい。結婚記念日を忘れる夫にだけは、絶対にならない様にするつもりだ。
「さあ、先ずは食べようよ」
「そうだね~冷めちゃう前に食べないと」
「今年もケーキがあるからね」
今年はちゃんと当日に祝えて良かった。去年は散々だったからね。こうして何事もなく彼女の誕生日を祝える事に感謝をしつつ、貴重な2人きりの時間を満喫する。
受験期間中でどうしてもこういう時間が減ってしまっている。だからこそ大事な場面では、しっかりと楽しんでおく。
夏休みがもうすぐ明けて、言っている間に冬がやって来るだろう。大学受験までの時間は、もうそれ程の余裕は無いのだから。
現在起きている甲子園に関する話について、活動報告に書いておきました。本作内で扱っているので、どうしても無視出来ませんでした。




