第273話 高校最後の部活動
8月に入って最初の部活動が始まった。それは練習というよりも、消化試合に近い内容で。
駅伝大会もインターハイも終了した、俺達3年生にとっては最後の部活動。今日で俺達は引退をして、本格的な受験モードに入る。
長かった様で短かった様な、2年ほどの陸上部としての日々。沢山の仲間達と過ごして来た時間は、とても良い経験になったと思う。
1年生の春に入部して、一哉と仲良くなった。それから澤井さんとも仲良くなって、女子部員の友人も一気に増えたっけ。
聡や他の男子部員達とも、良く学校帰りに間食を食べに行ったな。学校のトレーニングルームで、100kgのバーベルを持ち上げられるか皆で勝負なんて事もした。
「今日で最後なんだよな」
「何だ咲人、感傷に浸っているのか?」
「まあ、そんな感じかな」
部長と副部長として、一哉と2人で部員達の様子を見守っている。近くには澤井さん達女子の部長と副部長も揃っていた。
夏の熱気に包まれたグラウンドは、もう散々見慣れた光景でしかない。端の方にある樹木の下が、良い休憩場所になっていたよな。
この辺りの高校ではトップクラスの広さを誇るグラウンドからは、美羽高校の校舎が並んでいる景色が見えている。
毎日の様に練習で使ったこの場所と、これで暫くお別れになる。後はもう体育の授業ぐらいでしか、この場所を利用する機会はない。
何度となく踏みしめた砂の感触が、何故か名残惜しく感じてしまう。どこにでもある様な、ありきたりなただの砂でしかないのに。
「ま、いつかはこうなるんだよ咲人。高校は3年間しか無いんだから」
「そうなんだけどさ、終わるんだなぁって」
「気持ちは分かるけど、陸上自体を辞めるわけじゃねーべ」
もちろんそれは分かっているし、大学に行けばそっちでまた始める。ただ少し寂しい気持ちを覚えてしまうだけなんだ。
一哉はこういう性格だから、スパッと次へ行けるのだろう。俺だってそこまで引き摺っている訳じゃあないさ。
ただ今日という1日を、大切にしたいなと思っているだけで。良い形で後輩達に引き継げるから、やり残した事も特にない。
後は新しい部長にバトンタッチをするだけだ。それに引退をするとは言っても、一切運動をしなくなるのではない。
スポーツ推薦で大学に行くのだから、鈍ってしまわない様にトレーニングも当然続ける。
ただ皆でこうして、集まって活動するのが最後になってしまうというだけだ。そんな事を考えながら練習をこなして、最後の締めに新しい部長と交代する。
「次の部長は島津拓海、お前だ」
「ええ!? 俺っすか!? 本気ですか東先輩!?」
「お前は周りをしっかり見られる奴だからさ。成績も良いしな」
俺から部長を指名して、一哉が副部長を指名する。同じ様に女子の方も発表されて、部長と副部長の交代が終了した。
拓海は本番に弱い所がまだ残っているけど、人付き合いはとても上手い。全国で良い成績も出ているから、特に文句は出ていなかった。
事前に他の後輩達にも確認は取っているしね。顧問の勝本先生にも相談済みで、特に異論は出なかった。
去年の様に俺が入院するというイレギュラーさえなければ、こんな感じで引き継がれるんだなと少し興味深く感じた。
ともあれこれで俺達3年生の役目は終了し、新しい日々へと向かっていく。いつかは皆が離れ離れになって、新しい人間関係を構築していくのだろうな。
「ねぇ東君、ちょっと良い?」
「澤井さん? どうしたの?」
「この後さ、暇だったら寄り道しない?」
澤井さん達女子部員と俺達男子部員のグループで、駅前のドーナツ屋に行く事が決まった。
来られないメンバーも結構出たけど、最終的には10人ちょいの大所帯に。まあ人気チェーン店だしスペースは広いから、多分この人数でも大丈夫だろう。
陸上部最後の日ぐらい、こんな風に皆で集まるのも悪くはない。今日は家事代行のない日だし、美佳子には遅くなるとだけ連絡しておこう。
着替えた俺達は夕方の通学路をぞろぞろと、制服姿で雑談をしながら歩いていく。懐かしい話題が色々と出る中で、澤井さんから話を振られた。
「お互い部長として、上手くやれたかな?」
「どうだろうなぁ、少なくとも下手は打ってないんじゃない?」
「結構色々と悩まされはしたけどね」
馬が合わない部員同士の仲裁とか、それはもう色々とあったよ。活動内容の細かい変更とか、悩みの種は沢山あった。
事あるごとに2人で相談し合って、色々な事を考えて来たっけ。大きな失態は犯していないけど、正解かは微妙なラインの出来事もそれなりに経験したな。
時には副部長も含めた、4人でのプチ会議も結構やっていた。苦労した事は多いけど、やって良かったなと思う。
この経験を通して、より深く澤井さんの人柄を知る事も出来たし。きっと彼女は将来、とても素晴らしい男性と結婚するんだろうな。
勝手な想像だけど、そんな気がしている。だってそう思わせるぐらいに、優しくて素敵な女子だと思っているから。
「澤井さんが居てくれて良かったよ。凄く頼りになった」
「それはこっちのセリフだよ。ありがとうね東君」
「お互い競技は違うけどさ、大学でも頑張ろうね」
澤井さんは先日のインターハイでも、女子走り幅跳びで優勝していた。とても優秀な選手だから、将来オリンピックに出ているかも知れない。
もしも彼女が有名になったら、友人として誇らしいと思う。そしてそれは、陸上部員だった全員に同じ事が言える。
今こうして歩いているメンバーの中から、有名な選手として将来名を馳せる誰かが出る可能性は全員にあるんだ。
もしそうなった時、皆の前に出ても恥ずかしくない選手になっておかないと。これから優先すべきは受験だけど、俺達の本懐は陸上選手だ。
いつかまた何処かで、こうして語り合える日が来るのを願って。俺達の部活動を、本日をもって終わりにしよう。
正直大人になった澤井さんがメインヒロインのラブコメも書きたいし、阿坂先生がメインヒロインも書きたいし、浅川晶がメインヒロインの作品も書きたいなぁと思っています。
それぞれどういう方向性にするかは決まっているのですよ。
でも同時に、幼馴染or友人の母親がヒロインの作品も書きたいと最近思っているので複雑です。書きたい年上ヒロインモノが多過ぎる。




