第270話 誰にでも嫉妬心ぐらいはある
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夏休みに入ったのを利用して、雄也が言っていた少女漫画のアニメ版を一気に通しで観てみる事にした。
美佳子も認知はしていたけどまだ観ていないらしく、良い機会だから2人で美佳子の家で視聴している。
原作である『恋する距離は』という漫画は、有名な漫画家の方が書いた大ヒット作らしい。
既に実写ドラマ化も決まっているみたいで、まだまだこれからも人気が続いて行きそうだ。
内容はそこまで変わった内容ではなく、主人公の平凡な女子が陸上部のイケメン男子に好かれるという話。
ちょっとした切っ掛けで仲良くなって、主人公の女子が対応に困るという王道なストーリー。
ただ話の内容がしっかりしているので、ありきたりな物語だとは思わない。王道だからこその面白さが詰まっていると思う。
「なるほどねぇ~。このイケメン、ちょっと咲人に似ているね」
「えっ!? 髪型が近いだけで、こんな美形じゃないけど!?」
「現実に変換したら、咲人に近くなると思うよ?」
そうなのかなぁ? 女性向けアニメだからか、メインの男子はキラキラしたイケメンとして描かれている。
俺は自分が似ているとは思わないけどなぁ。髪型は確かに似ているけど、それ以外は全然だ。
性格だってこんな完璧ではないし、俺なら失敗する様なシーンでも上手くやっている。
料理が得意って所は親近感が湧くけれど、陸上部では短距離ランナーだしやっぱり違うかな。
似ている要素があんまり無いし、否定する要因の方が多いと感じているけれども。それでも美佳子は、俺と似ているという評価は変わらないらしい。
「ほら、ここ! 好きな人の前だから背伸びをしていて、本当は滅茶苦茶頑張っていただけっていう所とかそっくりじゃん」
「いやそれは……ちょっと否定出来ないけど……」
「ボクから見た咲人って、ほぼこんな感じだよ?」
高く評価してくれていると考えると、悪い気はしないけど複雑でもある。俺は今まで知らなかったのに、このキャラを意識して今の髪型にしたみたいで。
なまじ同じ陸上部なだけに、そう思われる可能性は否定出来ない。陸上に興味を持つ生徒が増えた事は感謝するけど、この意図しない共通点はちょっとね。
この作品が生まれる10年ぐらい前から、俺は陸上部を続けて来たしモテたくて始めたのではない。
でもそういう勝手な邪推をされてしまうのは、俺としては少々歓迎し辛いかな。残念だけどそうやって、勝手な決めつけをする人は居るから。
漫画には何の罪もないし、俺だって真似をしていないのだから本来は気にしなくても良い事だ。
けどまあ、髪型ぐらいは変えようかな。この作品を通して、俺のイメージを決められたくはない。
ただそれはそれとして、良いなぁこのイケメン。結構共感出来る所が多いぞ。主人公も可愛いけど、イケメンの彼も中々好感触だ。
「うわ~分かるなぁ。好きな人の1番であり続けたいって男心」
「へぇ~咲人って、そんな風に思ってくれてるんだ~?」
「そりゃそうだよ、当たり前でしょ」
1番でありたいのは女性だって一緒だとは思う。ただ女性の場合は、1番愛される側で居たいという気持ちが強いんじゃないかな。
そして俺が思っているのは、1番大きな好意を向けている存在でありたいという意味だ。
美佳子を好きだという気持ちは、世界で俺が1番であり続けたいんだ。俺のそんな気持ちと、画面内の彼は同じ事を思っている。
そこに凄く共感が出来るというか、全力で応援したくなる。このキャラが現実に居たら、きっといい友達になれそう。
陸上に懸ける想いだって凄く熱くて、その方向でも良い話し相手になる。滅茶苦茶友達思いの良いヤツで、性格も良いし不快感が全く無い。
ちょっとキザかなとは思うけど、好きな人の前で格好をつけたい気持ちは良く分かるし。
「そりゃあ咲人に好意を向ける子も増えるよねぇ。この作品がこれだけ人気なんだから」
「あっ、いや、それに関してはその」
「咲人のせいじゃないのは分かってるけどさ~ボクだって嫉妬心ぐらいあるからね?」
その件については申し訳ないというか、誰が悪いという事でもないと言うか。強いて言えば、直接明かした俺が悪いという所か。
ただそれについて、黙っておくのも気が引けた。美佳子には全て秘密にして、話さずに居るのは本当に誠実なのだろうか?
黙っているのはマズイ気がして、相談も兼ねて話したというのが正直なところ。後で何らかの形で知ってしまう方が、不愉快じゃないかなって。
ああでもそうか、これもちゃんと話し合うべき事なのか。今までこういう経験が無かったから、今までその機会が無かっただけだ。
「その、美佳子はさ、俺が告白されたとか、知りたい?」
「咲人はモテるって分かっているからね。無い方がおかしいし、どうせなら知りたいよ。ちょっと病むけど」
「そ、そっか。そうなんだね」
とても美佳子らしい回答を頂いた。ちょうど同じタイミングで、主人公の女子が同じ様な悩みを抱えていた。
相手がモテるイケメンだと分かっているのだから、ライバルが多くてモヤモヤしている描写が入る。
こういう事だよと言わんばかりに、美佳子が視線を送って来た。主人公は気の強いタイプじゃないから、積極的に男の子の所に自分からは行けない。
そして美佳子の場合は積極的だけど生徒じゃないから、俺が学校に居る間はどうしても会えない。
立場は違うけど、状況としては似ていた。俺が今までちゃんと理解出来て居なかった、美佳子の気持ちが学べた気がする。
性格が全然違うから、この主人公と同じ様に悩みはしないだろう。だけどモヤモヤする気持ちは美佳子だってあるんだ。
「何かその、ごめん。こうして不安に思う事だってあるよね」
「そうだよ。ボクだって誰かに咲人を盗られたら嫌だなって、思う気持ちぐらいあるよ」
「俺はずっと美佳子しか見てないよ」
「じゃあ安心させて欲しいな」
まだまだ未熟な俺だけど、流石にこういう時にどうしたら良いのかぐらい分かる。隣に座っている美佳子を優しく抱き寄せて、軽めのキスをした。
こんなに美人な美佳子でも、不安やモヤモヤを抱える事だってある。それも10代の女子を相手に。
だからこそのケアを、ちゃんとやらないといけない。その考えを改める良い機会になったのかなと、今なら思う事が出来る。
やっぱり告白を断るのは辛いけれど、これも前に進む上で必要な経験なのだと覚悟しておこう。
今更ですけど、面倒くさい女性って可愛いよね! という精神で書いているのですけど、着いてこれてますかね?
位置共有アプリ強制の女友達すらNGな超束縛系メンヘラでもどんと来いですよ可愛いね。




