第269話 園田マリアの恋愛相談⑦
学校によっては夏休みに入り始めた頃、園田マリアの恋愛相談が配信されていた。普段通り夜21時頃から開始し、2時間程の枠として予定されている。
30分ほど進んだ所で幾つかの相談が終了し、リスナー達も温まって来た。やはり夏だからこそか、告白を悩んでいる相談が多めだ。
この時期に付き合って2人で海やプールへ、というのは定番コースだろう。多くのカップルは海やプールに一度は行く。
花火大会や各地で行われるお祭りなど、カップルで過ごすのに丁度良いイベントが夏は多い。
どうしても恋の悩みが発生し易い時期であると言えるだろう。そんな中で届いた、思春期らしい相談が来ていた。
付き合って1ヶ月の初めて出来た彼氏にプールに誘われたけど、水着姿を見せるのが恥ずかしいという悩みだ。
相談者の女子高校生は体重が60kgあるので、彼氏に太っていると思われないか不安だと言う。
「あのさぁ~身長162cmで60kgって太ってないから! それで太っていると思う彼氏なら、さっさと別れた方が良いよ」
『身長が160超えてたらそれぐらい行くよ』
『50kg台でデブとかいう男は滅べ』
『普通だよねそれぐらい』
『初彼氏だと恥ずかしいよね~分かる~』
『おっさんはお口チャックしとくね』
女性達のリアルな体重事情と、男性が思う女性の基本的な体重には認識のズレがある事は多い。
特にインターネット上ではその傾向が顕著で、60kgという数字を見ただけで太っていると判断する男性は少なくない。
何故か40kg台を普通だと思っている、謎認識の男性達が一定数居る。しかし現実的には女性の平均体重は50kg台半ばであり、60kgは肥満体とは程遠い。
そもそも女性の身体的特徴である、胸の脂肪は結構な重量がある。この相談者の様に、162cmで60kgならば間違いなくそうだ。
高い確率でスタイルの良い女子か、男性が好む傾向にある発育の良い体型である可能性が高い。
スタイルの良い女性と交際して肉体関係を結んでいれば、胸の重さが相当なものだと知る事が出来る。
だが世の中にはそんな経験がない男性の方が多いので、この数字の錯覚を起こしてしまうのだろう。
「女性の胸ってEカップを超えていたらさ、それだけで2kgぐらいあるんだよ? まあリスナーの男性達は触った事も無いだろうけどさ。重いんだよマジで。ホント肩凝るの」
『なんで今刺した?』
『俺ら大人しくしてたじゃん!』
『はい事実陳列罪』
『謝れ~! 童貞に優しくしろ!』
『だったら揉ませてよ! 知る機会をくれよ!』
スタイルが良い女性特有の悩みを零しつつ、男性リスナーとの茶番バトルもこなしつつ、この相談は終了した。
続いて来たのは20代男性からの質問だった。園田マリアの配信を観て、色々と努力をしてみた。
外見に気を遣って、スキンケア等も続けている。変な勘違いもしない様に努めて来たけど、全くモテない。
一体モテるというのはどう言う事なのか、モテる男性とモテない男性の違いは何なのか教えて欲しいという相談だった。
今までにも似た様な話が配信内で行われて来たが、今回美佳子が出した回答は今までとはまた違った視点からのもの。
これまでに伝えて来た事も前提で聞いてねと前置きしてから、美佳子は自身の経験から来る答えを出した。
「余裕が無いからじゃない? モテたい! 彼女欲しい! みたいな欲求がモテない原因だと思うよ。あのね、モテる人って皆揃って余裕があるんだよ」
『あ~分かるかも』
『カッコイイ人って言われてみたらそうかも』
『余裕とか言われましても』
『どういう事???』
『先生―! 男子達が理解出来てません!』
少し抽象的過ぎたかと、美佳子は更なる解説を続ける。例えば頼んでも無いのに、やたらと荷物を運ぼうとするとか。
大して仲良くもないのに、頻繫に話し掛けて来るなど。傍から見て不自然なアピールが多い人は、とても必死に見えてしまうという話を追加した。
その辺りから理解を示す男性リスナーが増えて行く。要約するなら露骨過ぎて下心が隠せていないのだと、美佳子は簡潔にまとめた。
モテている人だって、性欲が全くない訳ではない。ただ出して良い時とダメな時を理解して、日々の行動に反映しているのだと説明する。
「意識してやっている人と、無意識で出来ている人のパターンに分かれるけどね。YSPとかしちゃう男性は、前者に多いんじゃないかな?」
『マリア先生! 難しいです!』
『彼女が欲しいのに、欲しいって思っちゃいけないの!?』
『どうしたらええねん!』
『両立させるの難し過ぎて草』
『意味は分かるが実践出来んて』
一見矛盾している様な内容に、リスナー達から苦情が入る。その反応に対して美佳子は、それが自然と出来る様に自分を作り上げて行くんだよと返答する。
彼女よりも先に、そもそも女性と仲良くならないといけない。友達にもなれない様な男性では、女性が魅力的に感じる事はないよ。
下心無しに女性と接する事が出来る様に、紳士的な内面を育てていくしかないんだよと美佳子は続けた。
モテたければモテようとする意思を抑え、スマートな対応を心掛けねばならない。とても難しい課題だけど、これが出来る人から交際相手を作っていく。
今日までにも内面こそが大切なのだと訴えて来た、美佳子らしい解説になっていた。
安易にモテようとする男性ほど、下手な手を打ってしまうもの。似合ってもいない派手な格好をしてみたり、無駄に高い車を買ってみたり。
外的要因でどうにかなるのは表層だけで、一番重要な中身が薄っぺらいと恋愛対象には見て貰えない。
真面目で優しいと自分を評価していても、挑戦はしないから恋愛市場にずっと立てないまま。
舞台裏からずっと表に出ていない事に気付けない、そんなオチにならない様に注意してねと美佳子は締め括った。
モテるとは何か。その本質的な部分を解説する切り抜きは、またしても猛烈な勢いで伸びるのだった。
YSPの意味を知らない人も居るかなと思って、ルビとして意味を書いておきました。




