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第268話 謙虚も過ぎるとただの思い違い

 友人達とボウリングに行った日の翌日、放課後にまた知らない1年生の女子に声を掛けられた。

 その理由はこの前と同じで、どうして俺なのか分からないけど告白をされた。もちろん丁寧にお断りをして、どうにかその場を治める事に成功。

 何が起きているのか分からないけど、立て続けに二度もこんな事になっている。そしてこうなった事で、良く分かった真実が。

 友人達がモテているのを羨ましいと思った事だってあるけど、今はもう羨ましいとは思わない。


 だって見ているのが凄く辛いんだよ、悲しい気持ちを頑張って隠しながら帰っていく女子の姿が。

 どうしても脳裏に、あの日の夏歩(なつほ)が浮かんでしまう。好意を向けられるのは嬉しいけど、女子を悲しませたくはない。

 告ハラなんて言葉が出来た理由も、今なら少し理解出来る。告白を断るのって、凄くしんどい。

 少なくとも俺はこれで、モテモテだなんて思えないよ。その事を相談したくて、美佳子(みかこ)田村(たむら)さんの休憩中に話してみた。


「クッ……やっぱり出て来たね。流石は思春期女子、フットワークが軽い」


「う、うーん、私には難しい話かなぁ」


「あ、あれ? 何か思ってた反応と違う」


 美佳子なら学生時代からモテていただろうし、分かってくれるんじゃないかと思っていた。

 田村さんだってただ大人しいタイプというだけで、男子からの受けは良さそうなタイプだ。

 実際に(さとる)と付き合い出す前から、結構男子に声を掛けられていたし。話してみたら結構面白いし、小動物系の可愛い女子だ。

 そんな2人なら分かってくれると思ったけど、どうも想定とリアクションが違った。おかしいぞ、共感やアドバイスを貰えるかなと思っていたんだけどな。

 おかしいと言えばもう一つ、何故まともに話した事もない俺なのか。どんな人となりかも分からないのに、告白しようなんて思うものかなぁ?


「大体何で俺? 話した事もない女子に、俺が好かれる理由が分からない」


「「…………はい?」」


「え、何でそんなリアクション?」


 またしても思っていた反応ではない。今まで向けられた事のないタイプの視線を向けられている。

 俺はそこまでおかしな事を言っただろうか? 碌に話した事もない男を、好きになるなんて少し変じゃない?

 1人ぐらいなら偶然かと思ったけど、2人目が出て来てしまった。一目惚れっていう概念があるのは分かる。

 でもそんな簡単に起きる事か? しかも俺を相手にして。大学の人気者だった母さんと結婚出来た父さんの子供だから、見た目が悪いって事はないとは思う。

 だけど上には上が幾らでもいるじゃないか。学校だってそうだし、芸能人や配信者にも沢山カッコイイ男性は居るのに。


咲人(さきと)ってさ、恋愛方面の自己評価だけ凄く下手だよね」


「え? そ、そうなのかなぁ? 普通はこんな感じじゃないの?」


(あずま)君って、そういう所は年相応なんだね」


 何故か俺が間違っているという方向性で話が進んで行く。どうしてだろうか? そこまで変なジャッジをしてはいない筈だ。

 小学生の頃から特別仲が良いと言えた女子は夏歩だけだし、中学で拗れた後はそういう相手は居なかった。

 女心が分からなくて、やや距離を置いていたのも無関係ではないだろうけど。でもだからと言って、俺がおかしいのは変じゃない?

 俺ってモテモテだぜ! とか思っている奴がいたらヤバイだろう。そういう奴がたまに居るから怖いんだけどさ。

 全然モテてなんかいないのに、勘違いしているヤバイ男子。ああはなりたくないと、シビアに自分を見ているつもりだ。


「良い咲人? スポーツで活躍していて、高身長で明るくて顔も良い。これでモテないわけないじゃん」


「あ、え? だって、そんなの他にもいるし」


「東君、自覚してないんだ……」


 クラスメイトの女子に呆れられてしまった。何でだよ? 俺はそこまで変な思考をしていない筈なのに。

 それだけでなく、接する相手とは適切な距離を取って思わせぶりな態度は取らない様にと怒られた。

 だから何で? 不必要に女子と絡んだりはしていないのになぁ。どうにも理不尽な意見の様に思えて……あ、これ似た様な事を澤井(さわい)さんにも言われたぞ。


 もしかしてこれ、俺の認識が間違っているのか? 現状3人の女性陣から言われていて、違和感を覚えているのは俺1人だけ。

 念のために夏歩にも聞いて……いや止めよう。物凄く呆れた顔の夏歩が脳裏に浮かんだ。

 今思えば雄也(ゆうや)の言っていたのは、こういう意味だったのか? 大変だというのはこういう事か?


「咲人は超優良物件なんだよ? そこはちゃんと理解しないとダメ」


篠原(しのはら)さんが居るから諦めた同級生って、多分きっと多いと思うよ?」


「……はい。認識を改めます」


 実感が無かったから分かっていなかったけど、俺はそれなりにモテるらしい。田村さんが言うには、俺の居るグループの人気がそもそも高いそうだ。

 周囲に凄い連中が固まっていたから、気付いていなかっただけじゃないか? というのが美佳子の分析だ。

 俺があんまり学校でのモテを、強く意識していなかったのもあるのかな。1年生の時点で美佳子と付き合い始めたから、正直そこまで興味は無かった。

 人生で一度で良いからモテてみたいという、薄っすらとした浅い希望なら多少はあったけどさ。


 でもモテようと必死になる事は無かったし、美佳子が居るからとどうしても最後には思ってしまう。

 結局気にしている様で、わりとどうでも良いと根っ子では思っていたのかな。どうあれ今まで以上に女子との間で、しっかり線引きをしようと思った。

 それはそれとして、嫉妬した美佳子を宥めるのは大変で。重いと言っていただけはある。

 いつも以上に沢山の撫でを要求され、30分ぐらいずっとそうしていた。クラスメイトの前でという羞恥プレイ付きで。

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