第267話 友人達と周囲の変化
もうすぐ夏休みになるというタイミングで、仲の良い友人達とボウリングに行く事になった。
女子と男子の混合で、色んなメンバーが集まっている。例えば同じクラスのギャルコンビ、斎藤さんと松下さん。
斎藤さんは3年生になってから、茶髪にオレンジ色のメッシュを入れてより派手な感じになっている。
相変わらずストレートな性格で、ハッキリとした物言いは健在だ。美人だけどその真っ直ぐな性格から、体育会系以外からは敬遠されがちだ。
3年生になってもそこは変わっていない。友達は多いしモテてもいるから、周囲の目はどうでも良いのだろうな。
そんな斎藤さんは服飾系の専門学校に行くらしい。とても彼女らしい納得出来る進路だった。
「お母さんちょいどいて~」
「はいはい」
「ごめんね~」
2年生の時から同じクラスだった松下さんの影響で、斎藤さんまでお母さんと呼び始めた。
もう慣れたから別に良いんだけど、学校の外でもそう言われると変に見えないだろうか? いちいち他人の言動を気にする人は少ないとは思うけど。
そもそもの元凶でもあるダンス部の松下さんは、トレードマークでもある金髪のサイドテールを揺らしながら投球していた。
背は低めだけど明るくて元気な彼女は、やっぱり斎藤さんと同様に体育会系男子から人気の女子だ。
見た目こそ派手だけど、親しみがある所が良いのだろうな。彼女は当然ダンスで有名な専門学校に行くみたい。
将来人気のダンサーになったりするのかな? 友人から有名人が出たら誇らしい。綺麗にスペアを取った松下さんに続き、一哉がボウリング球を持ってレーンに向かう。
「っしゃあ!」
「坂井の癖にストライクとか生意気~」
「俺、ボウリング超うめぇからさ」
中学の頃から付き合いのある、斎藤さんと普段通りのやり取りをしている。相変わらずの扱いだけど、また新しい彼女が出来たらしい。
山崎さんはどうしたんだと思ったけど、本人の自由だから突っ込むのは止めた。相変わらず明るく染めた茶色い長髪が、恐ろしい程に似合っている。
俺は明るい髪が似合わなそうだから、髪色で遊べる人達が素直に羨ましいよ。そんな一哉も推薦枠で、俺と同じく美羽大学の体育学部に行くそうだ。
どうやら一哉とは、長い付き合いになりそうだ。気心が知れた相手が居るというのは新しい環境でも心強い。
ストライクを取ってドヤッていた一哉の次は、雄也の番が回って来る。1年の時は俺と変わらない髪型だった雄也は、今ではベリーショートに変えていた。
サッカー部のエースであり、顔も良いので良くモテる男だ。ボウリングをプレイするだけでも様になっているから凄い。
「あっ! しまった!」
1投目で左端の1本を残した状態だったけど、狙い過ぎて2投目がガーターに吸い込まれた。
最下位は全員にジュースを奢るというルールでやっているので、こういう小さなミスは地味に痛い。
普通にやれば女子が負けてしまうので、女子には50点のハンデをつけてスタートしている。
女子は70点を取れば120点になるので、結構な余裕があるけど男子の方はそうはいかない。
少なくとも110点は行かないと負けてしまいそうだ。俺は他人に自慢が出来る程、ボウリングが得意ではないから結構ギリギリだ。
言い訳臭くなってしまうけど、最近やっていなかったから自信はない。おまけに1番手だから、最初に点数が分かる位置に居るのも少し辛い。
やっちまったという表情で雄也が戻って来たけれど、コイツそれでも1位争いをしているんだよなぁ。
「はぁ~ミスったなぁ」
「それでも点数良いじゃないか」
「いやそれがさあ、140点を狙ってたんだよ」
それはもう大会とか出られる人の領域じゃないのか? そこまでボウリングに詳しくないから知らないけど。
あれか? 球技系は大体得意なのか? 思い返せばその傾向があったなコイツ。毎年球技大会で、何らかの活躍をしているしなぁ。
恐らくは球技の神に愛された男、雄也は卒業したら関東の大学に行く。大学側から誘いがあったらしく、強豪校に行く為の上京だ。
雄也とは物理的な距離が出来てしまうけど、地元から応援しておくよ。もしもプロになった時は、サインを書いて貰おうかな。いやむしろ、今の内に貰っておくか?
「サッカーだけじゃなくてボウリングまで上手いとか、モテる男は違いますな」
「……ほう。そう言えば咲人君、誰かさんが最近1年生に告白されたらしいぞ?」
「…………さ、さぁ、知らないなぁ」
ダレノハナシカナァ、シラナイナァ…………いやだってさあ、何でだろうね本当にさあ?
夏は告白が増えるとかどうとか、そういう迷信みたいな噂を聞いた事がある。そりゃあそのまま成立したら、2人で夏休みに突入するわけだし?
方針というか計画というか、考え方は分からなくもない。タイミングについては理解出来るけど、何でまたその対象が俺なの?
良く知らない1年生の女子から急に声を掛けられて、人の少ない校舎裏で告白をされた。
全く接点が無かったから、どうして好きになったのか思わず聞いてしまった。その子が言うには、前回の全国大会を観ていたらしい。
「しかも1年の間じゃあ人気の女子らしいんだよ」
「そ、そうなんだ。へぇ~~」
駅伝大会が切っ掛けで俺に注目する様になって、気付けば好きになっていたという。気持ちは嬉しいけれど、俺には美佳子が居る。
丁寧に恋人が居るからと、お断りする以外に選択肢は無かった。しかもかなり可愛い女子だったから、尚更意味が分からない。
余裕で相手を選べる可愛い子だったし、カッコイイ男子なんてこの集まりだけでも俺以外に沢山居るのにさ。
まあ偶々だろうとこの時は思っていたけれど、そうでは無かったと知る事になったのは翌日の事だ。
ちなみにボウリングの最下位は、50点のハンデをやると言い出した一哉だった。無駄に調子に乗るからだぞ。容赦なく奢っては貰うけどね。
1年生までには美佳子の噂が行き渡っていないので、そういう子が出て来るという話です。
257話で置いていた前振りの回収を始めます。




