第264話 園田マリアプレゼンツ『最強決定戦! 汚部屋バトルロイヤル』
園田マリアが配信で行う企画の中で、異様な人気を誇っているものがある。それが『最強決定戦! 汚部屋バトルロイヤル』と呼ばれている企画だ。
リスナー達から自慢の汚部屋の写真を送ってもらい、ナンバー1を決めようという内容で偶に行われる。
配信者にリスナーが似るのか、似た者同士が集まっているのか。どちらかは分からないが、開催を告知されると毎回ドギツイ写真が投稿されて来るのだ。
インターネットがあるお陰で、自分だけじゃないと思える人達が居る。インターネットがあるせいで、見なくて良い世界を見せられている人達も居て。
そんな感想の分かれる地獄の企画が、再び開催されていた。そしてここ最近の汚部屋バトルをする際は、必ず春川エイラも呼ばれるのが定番だ。
「いや~~今回も一杯集まったねぇ。ボクのお気に入りも幾つか既にあるよ」
「良くもまあ、こんなに毎回違う人が集まって来るわね」
『汚部屋の住人が俺の職場にもいるのかなぁ?』
『毎回女子率が高いのマジでホラー』
『男性かと思ったら化粧品が落ちてんだよな』
『女性の部屋に夢見すぎ』
『いうて皆も大概やって』
土曜日の夜21時から開始され、人気の企画故に同時接続者数が開始から9千人を超えていた。
先週の内から開催が告知されていたので、リスナー達から送られた部屋の写真は沢山ある。
我こそは自信ありという、日本全国に暮している汚部屋の住人達が集まって来た。何も誇らしい事ではないのだが、堂々と汚れ切った自室の画像を送った者達。
そのトップバッターが、遂にリスナー達の目に映る。必要な物かも分からない紙束が床に散らばり、牛丼チェーン店の容器があちこちに転がっていた。
通販で買ったらしいロゴ入りの段ボールが塔を作り上げ、ミネラルウォーターのペットボトルが洗濯籠に大量に詰め込まれている。
入り切らなかったペットボトルが、周囲に散乱して滅茶苦茶だ。しかしこれでもまだ序の口、床が見えているだけマシという事実。
「最初だからね、先ずは軽めを選んだよ」
「これなら私の部屋より綺麗じゃん」
『これが軽めマジか』
『綺麗かな? 綺麗、か?』
『牛丼の容器大丈夫これ? G居ない?』
『床が見えたら綺麗というまさかの価値観』
『こうはなりたくないなぁ』
辛うじて擁護するならば、一応ゴミを捨てる意思を感じさせる地域指定のゴミ袋の存在か。
どうみても分別は出来ている様には見えないものの、捨てるつもりはあるらしい。溜まったパンパンのゴミ袋が、部屋の中に複数転がっていた。
汚部屋の住人は何故ゴミ袋を貯めるのか、これが分からない。捨てろよというツッコミが殺到した1人目は終了し、続く2人目の写真が表示された。
1人目と似た様な雰囲気だが、大きく違う点があった。散らかっているのは間違いないが、メインはそこではない。
恐らく天井から剥がれたと思われる大きな板がぶら下がり、ベッドの横にある窓には養生テープがびっちり貼られている。
「事件性を感じるよね。泥棒にでも入られたのかなぁ? 投稿者さんは特に何も書いてないけど」
「泥棒がこの部屋に入っても、金目の物は見つからないんじゃない?」
『どういう事?』
『地震が起きた直後とか』
『何でこうなる?』
『地震被害なら保険使ってくれ』
『破損の謎は残るけど、しっかり部屋は汚いんだよな』
美佳子に事件性を感じさせた汚部屋は、汚部屋バトルに参戦するだけの汚さがあった。
エナジードリンクの空き缶が転がり、ハンバーガーチェーン店の紙袋が床に放置されている。
脱ぎ散らかされた衣類の山に、人気キャラクターのぬいぐるみが巻き込まれているのがとても可哀そうだ。
どうにも室内の損壊箇所に目が行く2人目は謎を残しつつも終了し、続いて3人目へと移行する。
映された写真は、既に床が見えない。恐らくはコスプレイヤーと思われるウイッグが、室内に幾つか飾られている。
転がった衣類とそれらから、女性のリスナーだと思われる参加者だ。乱雑に置かれた衣服は綺麗系なのに、部屋は全然綺麗じゃない。
化粧台の上に乱雑に置かれたメイク用品と、コードが差しっぱなしのヘアアイロンが妙な自己主張をしていた。
「コメントでコード抜けってあるねぇ。ちなみにボクも差しっぱだよ」
「だよね~。いちいち抜くのだるいじゃん」
『毎回片付けないのか』
『足に引っ掛けないの?』
『配線がぐちゃってなるのイラっとせんの?』
『アイロンは別に良くない?』
『どうせ毎日使うんだし』
ヘアアイロンを片付けろという派閥と、別にそれぐらいは良いだろうという論争が起きた。
片付けるべきはそれよりもゴミの方だが、配線警察も参加して趣旨がズレていく。色々と議論が交わされた後、3人目は終了した。
そして訪れた4人目、美佳子がお気に入りだと言い放ったその一発目。そこに広がっていたのは、カオスの一言に尽きる。
本来ベッドだったと思われる土台の上には衣類が積み重なり、その上にゴミ袋が転がっていた。
ベッドだった物体の目の前には、本来そこに乗っていた筈のマットレスが敷かれている。
それだけならまだ良いとして、マットレスの周りに電子レンジと炊飯器が並べられていた。
床に直置きではなく、通販で届いた段ボール等を台にしているのが救いか。もちろん当たり前の様に、床は見えずゴミが散乱している。
「いやぁ~良いよねぇ。食べて寝るまでの最適化だよ。ボクは好きだなぁ」
「頭良いなぁ。私もベッドの横に電子レンジ置こうかな」
『頭が良い人はこうならんやろ』
『怠惰の極み』
『ここでメシは食えんて……』
『何故ゴミを捨てないのか』
『ひえっ……』
リスナー達に不快感と恐怖を与える汚部屋が開示され、悲鳴に似たコメントが大量に流れて行く。
この状況下で虫の卵じゃないかと思われる、白い物体が付着したコンビニ弁当の食べ残しが発見された。
更なる恐怖と嫌悪感、そしてリスナー達の悲鳴と共に最強決定戦! 汚部屋バトルロイヤルは続いて行く。




