第262話 トラック競技と選手権大会
本日は県の選手権大会に、俺達美羽高校が参加している。大会の内容はトラック競技とフィールド競技が合計で約20種目。
県内で各種目の1位を決める大会であり、美羽高校陸上部としては出来る限り多くの競技で優勝を狙う。
俺達が特に狙っているのは5000m走と100mと200m、それから各リレーとハードル走の2種。
そして砲丸投げとやり投げで良い成績が期待出来る。それらの種目を主軸に、総合優勝も積極的に狙って行く方針だ。
トラック競技の方は俺と聡、そして一哉が主な主戦力となっている。フィールド競技の方は澤井さんを筆頭に、女子の方に有力な部員が多い。
他にも期待出来る部員達は多く居るから、今年の夏が始まる前にしっかりと美羽高校の実績を積んでおきたい。
各競技の進行と結果を確認しつつ、一哉と状況を窺う。今回の成績はインターハイにも関わるので、1つずつ見直す事は重要だ。
「ほんと男子400mは惜しかったなぁ」
「しゃーねぇよ、まだ坂本は2年だしな」
「夏のインターハイでリベンジして欲しいよ」
一哉が目を掛けている2年生の後輩が、惜しい所まで進んだけど400m走で優勝を逃した。
1位と2位が3年生だったから、こればかりは仕方がない。どちらも県内の強豪校であり、そう簡単に勝てる相手では無かった。
けれどもタイム的には劣っていないので、勝てる可能性はまだ残っている。僅差での敗北だから、夏に逆転する可能性はある。
そうなれば全国までの切符を手にする事が出来るだろう。期待の後輩にも目を向けつつ、次の競技にも意識を向ける。
既に短距離競技は全て終了しており、残るは長距離競技のみ。これから始まるのは男子1500m走の決勝。
こちらには中学からの後輩である島津拓海が出場している種目だ。順調に勝ち進んで、決勝まで駒を進めてくれた。
「さて、拓海がどうなるか」
「島津はなぁ、もうちょい自信を持って欲しいわ」
「あれでもマシになったんだぞ? 中学時代はもっと酷かったし」
実力はちゃんとあるのに、何故か無駄に不安がる。冬の駅伝大会では、負傷しながらも走り切るという良いガッツを見せていた。
走り出せば結果を残す奴なんだけど、それまでがどうにも弱いんだよな。俺達が引退するまでに、もう少しメンタルを鍛えてやりたい。
成績は間違いなく良いのだから、後は自分に自信を持つだけだ。今回の大会で、少しでも良い方向に心が向いてくれれば良いんだけど。
トラックに姿を現した決勝1組目の拓海は、緊張して表情をしていた。さっき励ましておいたけど、果たして大丈夫だろうか?
いつも通りのタイムを出せれば、優勝だって不可能じゃない。
「島津―! 頼むぞー!」
「拓海―! 自信持てよー!」
客席から大声で激励をしておく。反応はしていたので、言いたい事は伝わった筈。順番に選手が所定の位置に着き、スタートの瞬間を待っている。
会場のアナウンスで、順番に所属する高校と選手の名前が呼ばれて行く。地元のテレビ局が撮影に来ているから、決勝を走る選手達にカメラが向けられている。
一連の流れが終了し、後はスタートを待つのみだ。撮影スタッフがコース上から外れてから10秒ほど経ち、選手全員がスタートの姿勢を取った。
そして始まった男子1500m走の決勝で、拓海は先頭集団の良い位置につけている。1500mは400mのトラックを3周と、追加で300mを走る競技だ。
「良いぞ島津―!」
「冷静にだぞー!」
最初の1周目で先頭をキープし続けて、2周目に入る。途中で近くの選手が転倒してしまい、巻き込まれかけたけど無事回避。
2位につけて3周目に突入した。徐々に開いて行く後続との差と、伸びて行く1位と2位の拓海。
3周目の途中から拓海のペースが上がって行き、1位と並び並走が続く。3周目最後のコーナーでまた順位が入れ替わるも、残る300mで拓海が盛り返す。
1位に躍り出て更に速度を上げていく。残る距離は僅かであり、タイムも3分35秒と40秒台でのゴールが見えている。
見事1位でゴールをした拓海は、3分41秒という中々に良いタイムを残した。
「うっし! ナイスだ島津!」
「やってくれたか拓海!」
タイム的には優勝は堅そうに思う。次の2組目が走り終われば、優勝した選手が決まる。
続いてトラックに現れた2組目の選手達が、1組目と同様に紹介されてからスタートした。
拓海と競い合いそうな強豪校の選手も居るけど、決勝までのタイムを見る限り抜かれないと思う。
内心ではヒヤヒヤしながらも、競技の行く末を見守る。1位でゴールした選手のタイムは、3分43秒で拓海の優勝が確定した。
これでまた美羽高校の優勝した競技が1つ増えた。総合優勝もだいぶ現実的になって来たな。推移を見守っていた俺達の下に、聡が声を掛けに来た。
「咲人、ちょっと早いけど俺達も行こう」
「分かった! じゃあ一哉、俺行くから」
「頼むぞ部長さん!」
今から俺と聡を中核に、5000m走の競技に挑む。決められた集合場所に早めに向かい、待機して入場を待つ。
この時間が俺は結構好きだ。これからここに居る選手達と、本気で競い合うのだなと実感出来るから。
全員がライバルではあるけれど、同時に同じ競技を本気で走る同志でもある。俺と同じ様に、走るのが好きな人達がこんなにも居るのだなと。
それを知れるのは素直に嬉しい。駅伝大会にも出ている他校の顔見知りが何人かおり、軽く挨拶を交わしておく。
彼らも優秀な選手であり、同じ区で競い合った事もある。皆も凄い選手だと知っているけど、同時にでも負けないという気持ちが浮かぶ。
この感覚はスポーツ特有なのか、そうでないのかは分からない。どちらにせよ俺は、この関係性が嫌いじゃない。
お互いの本気をぶつけ合うのは、清々しい気持ちになれるから。集まって来た沢山のライバル達にも意識を向けながら、競技が始まるのを待ち続けた。
陸上をやっていたのはかなり昔なので、選手サイドのあれこれが今は結構違うかも?
駅伝大会以外での咲人君はこんな感じです~というお話です。次で選手権大会は終わります。




