第260話 1期生達の饗宴が、まともな筈も無く
4月下旬の日曜日、俺は美佳子達と共に市内の自然公園に来ていた。新規コラボの打ち上げという名目のお花見だ。
それ自体は全然構わないのだけれど、圧倒的女性率なのが困り所だ。先ずは主催である美佳子と、VBでバイトを頑張っている田村さん。
3人目は美佳子の隣に住んでいる、寺町こなたを演じている稲森さん。ここまでは今日までに交流をして来たメンバーだ。
しかし問題は残りの2人で、今回ほぼ初めて会ったお姉さん達だ。先ずは美佳子の同級生でプロのイラストレーターもやっている女性。
春川エイラを演じている浅川晶さん。会うのは二度目だけど、あんまりコミュニケーションは取れていない。
腰まである長い黒髪と、低い身長が特徴的なお姉さん。多分だけど身長が150cmぐらいしか無さそうだ。
どこかオドオドとしていて、落ち着きのない小動物みたい。なる程これは美佳子も可愛いと表現する。守ってあげたいタイプが好きな男性に刺さりそうだ。
「あっ、美佳子それ私の……」
「え~~ボクが先に取ったんだからボクのだよ」
「くっ……ならそっちを貰う!」
良く分からないけど、俺が作って来たオードブルを美佳子と取り合っていた。やっぱり仲が良いなぁこの2人。
昔からこんな感じだったのかなって、微笑ましいやり取りを繰り返している。学生時代の美佳子を知れたみたいで嬉しい。
ただ悲しいかな浅川さんは超のつく人見知りで、まだ2回顔を合わせただけの俺とはあまり会話をしてくれない。
声を掛けてもビックリされてしまって、会話が続かないというのが正しいのかな? 晶が慣れたら大丈夫だからと、美佳子は言っていた。
2人の昔の話を聞きたかったのだけど、この調子だといつになるやら。少しずつでも仲良くなれたら良いんだけど。
そして残るもう1人の女性は、レオナ・バレンタインを演じているこれまた大人の女性。
見た目はゆるふわなお姉さんだけど、お酒が入ると結構容赦ない下ネタをかまして来る。
女性に年齢を聞く気にはなれなかったから、想像だけど美佳子よりは少し年下かな? 20代後半ぐらいじゃないだろうか。
ウェーブの掛かった長めの髪を紅く染めていて、初見のインパクトは結構すごい。基本的には優しいお姉さんだけど、まあまあ癖が強い。
身長は女性にしては結構高めだけど、美佳子よりは少し低い。多分160cm台の半ばぐらいかな?
名前は西島華恋さんというらしく、美佳子とはまた違ったタイプの美人だった。そして今俺は、その西島さんに絡まれている。
「ね~ね~咲人君、美佳子さんとはどこまで行ったの~?」
「いや、その、どこまでって、言うと?」
「もうやる事やっちゃった~?」
物凄く返答に困るので止めて欲しい。昼間から同級生の女子が居る場で、そんな質問に答えられるわけがない。
何と言うか、色々と複雑な空間に来てしまったらしい。深く考えずに同行をしてしまったけど、とんでもなくアウェーだ。
年上の女性が4人に、クラスメイトの女子が1人。とても肩身が狭くて落ち着かない。せめて聡が来てくれていれば良かったのに。
事前に美佳子が彼氏を呼んでも良いよと、田村さんに提案をしていた。でも聡はお邪魔だろうから行かないと、ハッキリ断ったらしい。
そりゃ聡はVBとは関係がないけれど、気にせず来てくれれば良かったのに。また美佳子が飲み過ぎない様にと、見守るつもりで来たのは失敗だったか?
「どうして美佳子には恋人が出来て、私には出来ないんだよおおおおお!! 部屋の汚さは変わんないのにぃぃぃぃ!!」
「あはははは! 晶のその顔おもしろーい!」
「ホンマにもう。相変わらず騒がしい人らやわ」
「凄い! 1期生が集まると、リアルでもこうなるんだ……」
何だかもう、皆が自由に楽しんでいた。そして俺は西島さんの追求をどうにか躱しながら、コーラをチビチビと飲み続ける。
途中で記念写真を撮ってみたり、VBメンバー達の苦労話を話し合ったり。箱推しをやっている田村さんは、そんな彼女達の話を楽しそうに聞いていた。
綺麗な桜が舞い散る中で、これまでの歩みを振り返るVtuberの中の人達。それぞれが色んな苦労を続けて来たからこそ、今この時間があるのだなと。
ちょっとした社会勉強として、いい学びになったと思う。人生の先輩達から、沢山の話を聞く事が出来た。
たまにエグい内容の恋愛話も飛び出したけど。西島さん、見た目はゆるふわなのに凄い恋愛経験をしているな。
そして浮気は絶対にしない様にしようと、改めて心に誓った。浮気男の話題については、ちょっと女性陣が怖かったから。
ちなみにこの打ち上げに1期生しか居ないのは、2期生があまりにも個性的過ぎるからだ。4人全員が引きこもり気質で、外出嫌いらしい。
まあその……何と言うか、多様性? インターネットがあればお金を稼げる時代に、引きこもりが必ずしも悪い事だとは言い切れない。
人それぞれに合った生き方が、自由に選べる良い社会って事かなと。そしてそれよりも、今は気になる事が。
「ねぇ美佳子、浅川さんもだけど飲み過ぎじゃない?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! ねぇ晶~?」
「…………ゔっ」
ああ、浅川さんがマーライオンに……。今日はそっちがやっちゃうのか。本当にこの2人は良く似ているなと、しみじみ思った。
学生時代からずっと一緒に居る友達と、行動や趣味って似て行くものなのか? もしかして気付かない内に、俺も一哉みたいになっているのか?
和彦に似ているという話は、既に夏歩からされている。という事はもしかして、今の俺は一哉に寄っている?
高校生になってから、一番付き合いが長いのは間違いなく一哉だ。いや待てよ? 過ごした時間の長さで言えば、トップは美佳子だよな?
だから俺は今もこうして、もらいゲロをしている美佳子を見ても全く引いていないのだろうか?
むしろ見慣れてしまっている俺が居て、完全に染まってしまったのかなって。それはそれとして、大人の女性2人がリバースしているこの地獄をどうすれば良いんだ?
ゲロインは2人居た!
美佳子と晶、お好きな方の汚部屋暮らしゲロインを選んでね!




