第257話 3年目の春
この春から3年生に進級した俺は、新たなクラスメイト達と学校生活を過ごす事になった。
2年まで一緒だった一哉と澤井さんが別のクラスになり、聡と田村さんは同じクラスのまま。
お馴染みの2人以外にも、ダンス部の松下さんが2年生の時から同じクラスで変わっていない。つまり3年生の間もお母さん呼びが確定している。
色々とスキー教室の時にあった、雄也と河田さんも同じクラスだ。同じく1年生の時に同じクラスだった、ギャル系女子の斎藤さんが再びクラスメイトになった。
他にも何人かは、1年の時と同じ顔触れが居る。先週の金曜日に始業式が行われて、3年1組の顔合わせだけは済んでいた。
土日を挟んで本日から、授業や部活が本格的に始まる。だけど進級なんてもう慣れたもので、1年の頃みたいに雄也と朝から雑談を始める。
「よぉ咲人、おはよう」
「おはよう雄也。河田さんは、一緒じゃないのか?」
「真奈美は廊下だよ。斎藤達と話してる」
去年の夏に入院した時も2人でお見舞いに来てくれたし、今も変わらず仲良くしているみたいだ。
流れでそうなったとは言え、2人の仲を取り持つ事になった身としては、出来るだけ長く関係が続いて欲しい。
似た関係である聡と田村さんにも、同じ事を思っている。そっちは殆ど一哉や美佳子の功績だけど、一応関わりはしたからね。
少なくとも高校を卒業するまでは、周囲の友人達が幸せであってくれれば良い。そういう意味では、和彦と夏歩も上手く行ってくれれば良いんだけどな。
中学時代とは違って、夏歩も考え方が変わっただろうし。なんて事を考えるぐらいに、俺も随分と変わったみたいだ。
1年生の時には、友人の恋愛には関わらない様にしていたというのに。美佳子のお陰で、恋愛について考える余裕が出来たからかな?
「そう言えば雄也、今年のサッカー部は調子が良いんだって?」
「今年はっていうか、去年の冬からだな」
「サッカー部も全国行きだもんなぁ」
美羽高校の運動部は現在、陸上部とサッカー部に、バスケ部とバレー部が全国行きを果たしている。
テニス部と野球部は苦戦しているらしく、県内の予選を突破出来ずにいた。俺達が駅伝大会で優勝をして来たので、他の運動部も活気づいて来ているらしい。
その中でもサッカー部が、特に気合が入っていると聞いている。今目の前に居る雄也も、サッカー部でレギュラーを張っている1人だ。
もし全国行きをするならば、応援に行くのも吝かではない。お見舞いだって来て貰ったし、今の俺には多少の時間的余裕が出来ている。
夏のインターハイで都合がつくなら、お礼も兼ねて見に行こうかな。俺はサッカーを語れる程に得意ではないけど、見ているのは好きだ。
「そういう咲人達だって、全国優勝をして来ただろう」
「いやまあ、そうなんだけどさ」
「お前ら、結構有名だぞ?」
そんな事を言われても、特に実感はない。どうしても高校の部活と言えば、サッカーやバスケの方が人気は高い気がする。
言うまでもないけど野球部もだし、バレー部辺りもやっぱり人気だ。言い方が悪いかも知れないけど、モテる部活ってその辺りだと思う。
一哉とか聡の様に、容姿に優れていたら話は違うのだけど。俺の方は特にこれと言って、変化は起きていない。
今まで通りの日常で、今まで通りの学校生活だ。進路指導の先生から大学のスポーツ推薦に関する話なら来ているけど、華やかな話題なんて何もない。
やっぱり走っているだけってのは、見ていて派手さは無いからなぁ。サッカー等の球技系なら、激しい攻防があって見応えがあるだろうけど。
「有名って、特に何もないぞ? やっぱりサッカー部の方が注目度高いって」
「お前、知らないのか?」
「え? 何が?」
知らないのかと言われても、何の話か分からない。3年生になったばかりにも関わらず、何かあったというのだろうか?
俺が不思議そうにしていると、雄也がその答えを教えてくれた。どうにも一昨年ぐらいから、『恋する距離は』という少女漫画が流行っているらしい。
その内容は陸上部が絡む話らしくて、10代の女子に陸上部の注目が集まっているらしい。
対して最近流行ったサッカー漫画は特に無く、バスケや野球も同様だ。メジャーなスポーツではあるけれど、特別何かがあった訳では無い。
逆にその少女漫画はアニメを最近やっていたらしく、陸上部男子に需要が生まれているそうだ。
「いやでも、漫画は漫画だろ?」
「バカ、そんな単純な話じゃねぇって」
「そうなのかなぁ?」
そりゃ流行ったものがある程度影響する事もあるだろうけど、漫画やアニメと現実は違うと思うけど。
イケメンランナーがオリンピックに出たとかなら、中学や高校の陸上部に影響が出るのも分かる。
だけどそういう事でも無いのなら、そう大きな効果があるとは思えない。実際今の男子陸上部で、ここ最近モテているという話は聞いた事が無い。
雄也の気のせいか、考え過ぎだと思うけどね。仮にそれが本当なら、新入生の入部希望者が増えて欲しい所だ。
いやでも、不純な理由で始められても続かないか。その辺りのバランスが難しい所だなぁ。スタートが不純でも、好きになれば真剣に取り組むだろうし。
「咲人はこれからが大変だと思うぞ?」
「俺が? 何で?」
「……その内分かるよ」
もしかして本当に、入部希望者が増えるのか? 少女漫画が切っ掛けで、そんな未来がやって来ると?
既に新入生の間で、そんな流れが出来ているのだろうか? 生憎と新1年生との間に交流はなく、知っている後輩が居るのかどうかもまだ分からない。
もし中学時代の後輩が陸上部に入部して来たら、そんなブームが今の1年生にあるのか聞いてみよう。
ついでに2年生も増えてくれないかなぁとか、俺はそんな事をこの段階では考えていた。
しかしどうやら雄也の言っていた事が、そういう事では無かったと知るまでに、それ程時間は掛からなかった。
個人的なモテる部活のイメージですが
■Tier1
野球部・バスケ部・サッカー部・バレー部・ダンス部
■Tier2
ハンドボール部・テニス部・ラクロス部
■Tier3
陸上部・水泳部・格闘技系(剣道除く)
■Tier4
剣道部・卓球部
みたいなイメージがあります。学校や地域にもよるとは思いますが。
後は学校外でフィギュアスケートを習っているとか、中々な強者の風格を感じますね。




