第251話 穏やかなお正月
新しい年を迎えて初詣も済ませた1月3日の朝、年始の買い出しも済ませて美佳子の家で軽く家事を済ませる。
12月31日と1月1日の配信で結構盛り上がっていたのもあって、溜まったゴミはそこそこあった。
主にタバコの吸い殻とビールの空き缶で、生ゴミの類は殆ど無かったので掃除は楽だったけど。
美佳子が朝の配信をしている最中なので、俺は配信をスマートフォンで確認しつつお雑煮を作り始める。
先ずはダシを取って、料理酒を少し入れておく。具材の人参と大根、小松菜とカットした椎茸を入れて煮ていく。
野菜を欲しがったマサツグには、カットした人参を渡しておく。今日はニアを連れて来ていない。父さんとまったり家で過ごしている。
『それじゃあ今日はここまで! 皆もゆっくり過ごしてね~』
「あ、もう終わりか」
『バイバ~イ!』
美佳子の配信が終わったから、切り餅をオーブンに入れて5分に設定。餅の焼き加減に注意しつつ、お雑煮を仕上げていく。
野菜が良い具合に煮詰まったから、白みそを溶いて行き最後の味付けを行う。丁度良い濃さになったのを確かめて、若干膨らみ始めた切り餅を取り出す。
煮詰まったお雑煮をお椀に移し、焼いた餅を入れて完成だ。焼き餅単体も食べるだろうから、オーブントースターをリビングに持っていく。
同じタイミングで防音室から美佳子が出て来た。昨日は配信を休んだからか、今朝から体調は良さそうだ。
「おはよう美佳子」
「おはよう~! 咲人のお雑煮は~?」
「もう出来てるから、ちょっと待ってて」
キッチンに戻ってお雑煮を運び、ついでに餅と醤油に用意しておいたきな粉も取って来る。
三が日の朝食に相応しい食卓が完成した。美佳子はお節料理を買わないタイプだから、俺達の目の前に重箱は無い。
逆に父さんはお節を買う人なので、今頃ニアと一緒に朝食を食べているだろう。俺はどっちでも良いので、特に気にはならない。
強いて言えばだし巻き卵とタラコの煮つけが好きだけど、それぐらい自分で作れるしね。食べたいと思ったらいつでも作れる。
そもそもお節料理として出て来るメニューは、殆ど自分で作れるから特別感もあまり無い。
有名な料亭のお高いお節と、全く同じ味は再現出来ないけどね。そこまでの腕前があったら、とっくに料理人になれている。
「よし! それじゃあ頂きま~す!」
「頂きます」
「…………はぁ、美味しいねぇ咲人のお雑煮」
喜んで貰えて何よりで。去年は関東風のすまし汁を作ったから、今年はおばあちゃんに教わった関西風にしておいた。
どちらかが特に優れているとは思わないけど、あくまで俺の好みで言えば関西風の方が好きだ。
俺が単に汁物は味噌味を好んでいるだけで、醤油ベースのすまし汁も美味しいと思っている。
関東と関西では、ダシや汁物が結構違っているよなぁ。うどんや蕎麦の違いなんてド定番だし。
俺はどの料理も基本的に東西どっちの味付けでも作れるけど、全体的に関西風を好む傾向がある。
そこは母さんの影響なんだろうな。まあどっちにしろ、美佳子が喜ぶなら何でも良いよね。
「焼き餅も食べるでしょ?」
「うん食べる~」
「きな粉と醤油、好きな方を使って」
醬油差しとボウルに入ったきな粉を示す。美佳子は両方好んで食べるけど、俺は醤油一択かなぁ。
甘いお餅っていうのが、どうにも好きになれない。嫌いとまでは言わないけど、何か違うと思ってしまう。
きな粉そのものが苦手なわけでもない。何だろうな? わらび餅は全然平気なんだけど。味の好みって、本当に人それぞれだよなぁ。
関西風と関東風の違いもそうだけど、お正月の料理だけでも色々と違うのだから面白い。
そう言った細かい違いを知る意味でも、料理動画を出して良かったな。沢山の多分主婦と思われる人達から、色んなアドバイスや味付けを教えて貰えた。
そんな事を考えながら、穏やかな朝を美佳子と過ごしている。お正月特有の、のんびりとした空気に包まれながら。
「あっ、美佳子、口の横にきな粉ついてる」
「え? あ、本当だ……咲人が取ってくれても良かったんだよ?」
「俺にそんな少女漫画みたいな事は出来ないよ」
ありそうなシーンだけどね、少女漫画にそういうの。でも残念だけど、俺は彼らの様な超絶イケメン達のスパダリムーブは出来ません。
出来たらカッコイイのかも知れないけど、ちょっとキザ過ぎる気もするしね。冗談なのは分かっているけど、そんな事をする俺の姿を想像してみる。
うーん…………似合わないな間違いなく。イタズラやネタとしてやるにしても、ちょっと微妙かなぁ。
スマートな対応が出来る様にはなりたいけど、そういう方向性は違う気がする。クール系のイケメンな、聡だったら似合いそうだけど。
「え~そうかな? 少女漫画には、咲人みたいなタイプも居るよ?」
「でもそれって、大体横恋慕する系の男子じゃない?」
「そうそう! ボクはそっち系の男子の方が好きなんだよねぇ」
報われない元気系の幼馴染とか、夏歩が好きだった少女漫画に良く居たなぁ。え、てか俺ってそのタイプに見えているの?
お腹空いた~とか、良く言っている感じの体育会系ライバルキャラみたいな? 俺って別にそんなに言う程、沢山食べているかなぁ?
大体俺は自分で作っているから、タイプが違うと思うんだけどな。体育会系っていう所ぐらいしか、合っていないと思うけど。
そんな俺の疑問が発端となって、少女漫画原作のアニメをサブスクで観る流れになった。
最近またリバイバルされると噂が出ている、美佳子が学生時代に大人気だった作品から観る事に。
結果から言って、とても面白かったよ。ただ放送当時に主流だったのが携帯電話で、スマートフォンじゃないからちょっと不思議な感じがしたけどね。




