第250話 二度目のクリスマスと初めまして
今日はクリスマス当日。今年ぐらいは配信を休めとファンから言われてしまった美佳子は、お言葉に甘えて夜の配信を休む事にした。
午前中に部活を終えた俺は昼過ぎに美佳子の家へと向かう。せっかくだからとニアも連れて遊びに行く事にした。
別の猫と接する事で社会性を学ぶらしいから、この冬休みの間に友達を作ってあげようかなと思って。
家に放置も可哀想だし、外の世界を知る良い機会だ。それに美佳子の家に慣れてくれたら、預かって貰う事も出来るし逆にマサツグを預かる事も出来る。
「美佳子~? 来たよ」
「やあ咲人、今ちょうど配信が終わった所だよ」
「見てよ、この子がウチのニア」
防音室から出て来た美佳子に、我が家の猫を紹介する。外出用のキャリーからニアを出して胸に抱く。
いきなり知らない家に出されても不安だろうから、先ずはこうして知っている人間と居る方が良いだろう。
美佳子の側に行ってニアを見せると、美佳子がニアに手を伸ばす。いきなり触らずに鼻先に指を伸ばすだけ。
興味を持ったニアが、美佳子の指をちょっとだけ嗅ぐ。まだ初対面だからか、それ以上のリアクションはしなかった。
そして肝心のマサツグは、じっとこちらを見ている。動物病院以外では、初めて出会う同族だ。
ニアの方もマサツグを見つめており、興味を示した様子を見せる。俺の腕の中でモゾモゾと動き始めた。
「猫同士だし、やっぱ気になるのかな?」
「1回降ろしてみたら?」
「ちょっと試してみるよ」
俺はそっとリビングの床に座って、ニアをゆっくりと床に降ろした。アメショは社交的で人懐っこい性格で、マサツグも近い性格をしたペルシャ猫だ。
ちょっとマイペースではあるけど、一度気になったものには深い興味を示す。結構積極的な所があるからか、ゆっくりとこっちに近付いて来た。
ニアも結構好奇心が旺盛だから、近付いて来るマサツグの動向に反応している。スッと近付いたマサツグが、ニアの匂いを嗅ぎ始めた。
そしてニアの方は、前脚でマサツグの体を軽くタッチし始めた。険悪なムードではなく、お互いを確認し合う様に触れ合いをしている。
「良かった、仲良くはなれそう」
「ペルシャもアメショも優しい性格だからねぇ。好戦的なタイプじゃないし」
「このまま友達になれたら良いなぁ」
今の所は穏やかな接触というか、どちらかと言えばマサツグの方がやや押され気味な様子だ。
見知らぬ女の子が思いのほか積極的で、パシパシと叩かれていた。相手が子猫だと分かっているからか、邪険にはせずに受け止めていた。
生意気な妹と穏やかな兄の様な関係っぽい。ずっとこのままかは分からないけど、とりあえずの初対面としては良い感じだ。
もしこの2匹がくっついたら、マサツグが尻に敷かれそうなファーストコンタクトだけど。まあそれでもお互いに友達が出来たので良しとしよう。
「マサツグ用のケーキがあったから、ニアちゃんにも分けてあげるね」
「あ、本当? ありがとう」
「じゃあボク達もケーキを食べようか」
俺達のクリスマスケーキは、既に美佳子がオンラインで購入済みだ。今朝の内に宅配便で美佳子が受取り、冷凍庫に入れられている。
取り出して食べやすいサイズに切り分け、お皿に移してリビングに運ぶ。そしてマサツグのケーキから半分分けて貰って、ニアにも猫用のケーキを与える。
初めて見た猫用のケーキに、ニアは興味津々らしい。俺の膝に乗ったまま、器に入ったケーキに夢中だ。
美佳子が買っているのはちょっと良いヤツだから、高いのしか食べなくならないと良いけど。まあそうなった時は父さんに頑張って貰おうかな。
「よーし。じゃあまだお昼だけど、メリークリスマース!」
「メリークリスマス!」
「また咲人と2人で過ごせて嬉しいよ」
「それは俺だってそうだよ」
2度目のクリスマスを迎えられたという事は、それだけ交際が続いている証拠だ。大変な時期もあったけど、こうして楽しい時間を過ごせている。
今年1年は本当に色々とあったな。良い事も悪い事も、どちらも大きかった。ずっと平坦な日々ばかりではないと、改めて思い知らされた年だった。
だからこそ得られた経験は、きっとこれからに活きて来る筈だ。俺達が乗り越えないといけない問題は、まだまだ沢山あるのだから。
来年の4月に俺は18歳になり、学年も3年生に上がる。そうなれば受験に向けて、本格的に動かないといけない。
「今年も早かったよね」
「本当だよ~激動の1年だった」
「来年もさ、また一緒にクリスマスをしたいね」
ちょっと気が早いけど、来年もまたこうしていたい。きっとまた来年は来年で忙しくて、色々とあるんだろう。
どうこう言っている間に、全国大会だってやって来る。そして最後の夏があって、引退して受験に集中しないと行けなくなって。
そうして気が付く頃には、年末にまたこうしていたい。美佳子と2人で、大変だったねと笑い合いながら。
友人達と今年もお疲れって、楽しく笑える日々を送りたい。この日常の大切さを、尊さを俺は良く知っているから。
簡単に失われてしまうかも知れない、穏やかな日常というものはとても価値がある。刺激のある日々だけが、特別なわけじゃないから。
「にゃあ」
「シャー!」
「こらこらニア、それはマサツグの分だぞ」
思ったより神経が太いらしいウチのニアと、マサツグが戯れる姿を美佳子と眺めながら和やかな時間を過ごした。
あまりに居心地が良かったから、ちょっと長居をし過ぎてしまった。お陰でクリスマスに父さんが、夜遅くまでぼっちだった事については本当に申し訳ないと思う。
あと5話で5章を終了し、6章に入る予定です。
6章はファンディスク的な内容にするつもりです。2年目冬本戦→数話挟んで結婚した2人で終わらせる予定だったのを、伸ばした分出来た余裕を活かそうかなと。




