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第245話 園田マリアの恋愛相談特別編

 最近の美佳子(みかこ)はかなり忙しくしている。と言うのも新しい企画が進行しているからで、正式な発表は暫く先になる予定だ。

 今はまだ企画を持ちかけて来た企業とのやり取りが中心で、打ち合わせを繰り返している状況だ。

 それもあって事務仕事が非常に多くなっており、必然的にバイトの田村(たむら)さんも忙しくなっていた。

 ちょうど俺が退院して少し経った頃から動き始めており、2人共毎日の様に書類や資料作成に勤しんでいた。

 こう言う時に俺が出来る事はそう多くないけど、出来る限り手助けをしようと決めている。


「クッキー焼いておいたから、2人共これで糖分摂ってね」


「ナイス咲人(さきと)!」


「ありがとう(あずま)君」


 2人でパソコンに齧りついて、コラボ相手に渡す資料を作っているらしい。付き合いの無かった企業だから、丁寧な資料が必要だとか。

 新しい企画では全員分の新衣装も発表されるらしく、その衣装をどうするかのコンセプトを決めている途中だと聞いた。

 結構な規模で展開される予定らしく、衣装の方向性は絶対に外せないと美佳子が言っていた。

 正直俺も楽しみにはしているので、どんな風になるのかワクワクしても居る。そんな俺より遥かに熱意を持っているのは、古参ファンである田村さんだ。

 絶対に良い企画にするんだって、滅茶苦茶意気込んでいた。本当に美佳子の助手として、最高の人選だったなと改めて思う。

 ファンとしてこれから先の展開を知った事よりも、如何にしてこの企画を成功させるかに重点を置いていた。


「こらこらマサツグ、今は邪魔しちゃダメだぞ」


「んなぁ~~」


「俺が遊んでやるから」


 絶賛資料作成に奮闘中の、2人の邪魔をさせる訳にはいかない。構って欲しがったマサツグを連れて、リビングの端に向かう。

 キャットタワーの近くでマサツグを撫でまわし、おもちゃで遊んで満足がいくのをただただ待つ。

 散々遊んだら満足をしたのか、キャットタワーを登って眠り始めた。ちょうどその頃には作業が落ち着いたのか、2人は軽い休憩に入っていた。


 良いタイミングだから、コーヒーを淹れて来よう。自分の分も含めて、コーヒーメーカーでホットコーヒーを3人分用意する。

 今の美佳子の家には、赤い美佳子のカップと黒の俺のカップ、そして田村さん用のピンクのカップが置かれている。

 田村さんも随分とここに馴染んだなぁ。詳しくは知らないけど、漫画家のアシスタントとか、こう言う感じなのかな?


「はいコーヒー。2人共、大丈夫?」


「だいじょばなーい! ぎゅーしてぎゅー!」


「はいはい」


 田村さんがバイトを始めて間もない頃は、彼女の前であんまり恋人らしい事はしない方が良いかと思っていた。

 だけどむしろ見ていたいらしく、良く分からないけど普段通りの対応をする方向に変えた。

 癒しとハグを求めた美佳子を、満足するまで抱き締める。何故か興奮している田村さんのリアクションも、今となっては慣れてしまった。

 これで良いのだろうかと、今でもたまに思う。同級生のこんな姿を見て、何が良いのか俺には分からない。

 田村さんも喜ぶし、美佳子も喜ぶからこれで良いのか? まだまだ俺には、女子の心を理解出来ていない様だ。


「良いなぁ、彼氏が居るって」


「え? でも田村さんには(さとる)がいるでしょ?」


「あわっ!? さ、聡君とは()()そういう関係じゃ……」


 ()()、なんだね。という指摘は敢えて言わないでおく。良い加減付き合えば良いのにと思うけれど、外野に過ぎない俺が口出しをすべきではない。

 せめてアドバイス出来るぐらい、恋愛経験が豊富だったらまた違うのだろうな。協力なら出来る限りしてあげたいけどね。

 残念ながら俺は美佳子しか交際経験が無いから、まともなアドバイスなんて全然出来ない。

 そもそも告白した経験だって俺には1回しか……いや一応2回か、両方とも美佳子だけどさ。

 まあそんな現状では、為になる意見なんて思い浮かばない。時間が解決するって、良く聞くやつで良いのかな?


「おやおや美沙都(みさと)ちゃん? 恋愛相談特別編が必要かな?」


「あ、そっか。ここで美佳子に聞けば良いんじゃない?」


「えあっ、いや、その……」


 配信外だけど、これぐらい許されるだろ。悩んでいるならここで、3人だけの恋愛相談をやれば良い。

 同級生で男子の俺に聞かれたくないなら、適当にゆっくりと30分ぐらい風呂掃除でもして来るしさ。

 だけど結局俺も居て欲しいと言われたので、そのまま園田(そのだ)マリアの恋愛相談特別編(オフライン)が始まった。


 田村さんは駅伝大会の予選を見て以来、聡の事を男性として興味を持ち始めていたらしい。

 それからも毎日の様に趣味の会話を続けて、気が付けば惹かれていた。そして一哉がお節介をした文化祭で、本格的に聡に好意を抱いたと。

 ただ聡はあんまり気持ちを表に出さないので、自分がどう思われているのか分からない事が悩みだと田村さんは話した。


「そっか~~感情が分かり難い相手なんだ」


「確かに気付き難いよなぁ」


「東君から見てどう、かな?」


「うーん…………あくまで俺の意見だけど、聡は田村さんが好きなんじゃないかなぁ」


 あくまでも美佳子としか交際経験がない人間の、という部分を忘れずにしっかりと強調しておく。

 ただ一哉(かずや)澤井(さわい)さんもそう思っているし、仲の良い連中は全員同じ感想だ。それを思えば大丈夫だと思うけど、分かり難いんだよなぁ聡の感情って。

 決して意味不明ではないけど、読み難いっていうか。でも案外感情を見せる事も分かって来たから、ストレートに伝えてみても良いかも知れない。


 そう言った状況についても俺から話した後に、美佳子がオススメの確認方法を教える事にした。

 感情を表に出さないタイプから、上手くリアクションを引き出す方法を伝授する美佳子。

 田村さんは驚いていたけど、頑張ってやってみると決意を新たにしていた。俺と美佳子は田村さんを応援し、彼女を送り出す。

 結果が出たのはその数日後で、田村さんと聡は交際を始めた。美佳子の古参ファンと親友が、幸せになってくれて俺は嬉しいよ。

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