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第244話 東咲人と柴田聡の関係性

 時間の流れは早いもので、気が付けば11月になっていた。あれよあれよと球技大会や体育祭、文化祭を経てもう年末に向かっている。

 残された大きなイベントと言えば駅伝の地方大会と、クリスマスに大晦日ぐらいか。

 どうやら夏休みの後半を病院で過ごしたせいで、時間の間隔がこれまでと若干狂っていた。

 去年とは違い新しい東咲人()の視点で見ていたからか、どのイベントでも感じた事がそれぞれ違っている。


 文化祭では演劇をしたけれど、クラスメイト達の有難さを改めて感じた。入院中に来てくれた友人達と、新しい事に挑戦するのは楽しかった。

 体育祭や球技大会も同様で、クラス対抗リレーやサッカーを通じてクラスの結束を深められた。

 明るい気持ちで過ごせたのは、間違いなく皆のお陰だ。だからこうして、毎日のトレーニングも頑張れている。

 決して楽ではないけれど、大会でアンカーを務める為に体を整えて来た。今では5kmもそれなりに良いタイムで走れていた。

 俺が校門前で少し息を整えていると、同じく走り込みをしていた柴田(しばた)が戻って来るのが見えた。


「お疲れ柴田」


「……ふう……(あずま)もお疲れ」


「調子は良さそうだな」


 1区を担当する柴田は10kmを何度も走り込んでいる。俺だって色んな距離を走っているけど、どう足掻いても柴田のタイムには届かない。

 マラソン大会では良い勝負まで持って行きたいけど、今のままではちょっと厳しい所かな。

 そんな柴田は夏休み明けからもずっと絶好調で、頼りになる第1走者をやってくれている。


 陸上だけじゃなくて、プライベートの方も充実しているみたいだ。一哉(かずや)が文化祭の配役で悪ノリをして、柴田を王子役にして田村(たむら)さんをお姫様役にした。

 余計な事はするなと止めたけど、意外とそれが上手く作用したらしい。あれから2人は、更に良い雰囲気になっていた。

 今では仲の良いグループ内で、全員から応援されている2人になった。交際を始めるのも、そう遠くない未来かも知れない。


「俺が言うのもなんだけど、頼むな柴田」


「分かってる。大丈夫」


「俺も大会には間に合わせるからさ」


 あんまり口数は多くないけど、クールでカッコイイ友人。だいぶ慣れて来た今となっては、一哉と変わらないぐらい仲が良い。

 と俺は思っているのだけど、柴田の方はどうだろうか? あまり自分の気持ちを話さないから、その辺りが分かり難い。

 この半年ぐらいで気安い関係にはなれたと思うけれど、俺が勝手にそう思っているだけかも知れない。

 和彦(かずひこ)を目指さなくなったからか、些細な事を気にしてしまう様になった。夏休み前までなら、大して意識していなかったんだけどな。

 どうにも俺の弱い部分は、こうして残っているらしい。だけどそれも含めて俺だって、美佳子が認めてくれたから落ち込みはしない。


「なあ東」


「うん? 何?」


「俺は信じているから、お前の事を」


 これは、柴田なりの激励なのか? あんまり感情を見せない友人が、珍しく自分から感情を覗かせて来た。

 真剣な表情で、こんな風に言われたのは初めてかも知れない。案外柴田の方も、それなりに仲が良い相手と思ってくれているのか?

 これまで育んで来た仲間意識は、ちゃんと俺達の間に在ったと言う事なのだろうか。もしそうなら俺は嬉しい。

 友人として、仲間として、そして良きライバルとして。良い関係をこのまま重ねていけたら、そんなに光栄な事は無い。

 1人のランナーとして、尊敬出来る友人が俺を信じてくれるなら。それは美佳子や和彦とはまた違った、別の嬉しい関係性だ。

 だったら俺も、もう少し踏み込んでみよう。親友と書いてライバルと読む様な、そんな関係になりたいと思うから。


「なあ柴田、その、(さとる)って呼んで良いか?」


「良いよ、俺も咲人って呼ぶ」


「ふっ、そっか! これからもよろしく!」


 一哉に澤井(さわい)さん、そして聡の様な友人達が居てくれて、俺は本当に恵まれていると思う。

 やり直す為のエネルギーも、モチベーションを維持するエネルギーも決して無限じゃない。

 どこからでも勝手に湧いて来るものじゃないんだ。こうして周囲の友人達の存在があるから、頑張ろうという気持ちが保てる。


 皆と一緒に歩んで行こうって、思えるからこその部活動だ。しかも駅伝というチーム戦では、信頼関係が絶対に必要だ。

 その第1走者とアンカーの俺が、こうしてお互いを信じ合っている。だったらきっと、優勝だって無理じゃない筈だ。

 いや、違うな。絶対に優勝してやるんだ。俺達が皆で、1つの目標に向かって走り抜けてやろう。


「なあ聡、帰りにまた一哉とラーメン行かない?」


「良いよ」


「よっしゃ決まり! 行こう!」


 こうして過ごす俺達の日常が、積み重ねが未来へと繋がって行く。次の走者に襷を渡して行く様に、全てが続いて行くのだから。

 何気ない毎日を無駄にしない様に、1日1日を大切にして行こう。その大切さを改めて知れたのは、皆が居てくれたから。

 例え2ヶ月を失っても、俺はまたこうして走る事が出来ている。これまでに積み重ねた経験が、関係性が俺の支えになってくれているから。


 ちょっと強引に立ち止まらされたぐらいで、俺達の未来は失われない。俺が走り続ければ、手を伸ばし続けたら届くから。

 それが分かったからには、もう余計な迷いを持つ必要がない。一度は辞めようと思った陸上は、こうして失わずに済んでいる。

 まだまだこれからも、ずっと俺達の日常は続いて行くから。そんな毎日を満喫しながら、望みを叶えてやるんだ。


「なあ一哉ー!」


 俺が頑張る理由は、こんなにも沢山ある。自分の為だけじゃなくて、周りに居る皆の為に頑張れる。

 ただ美佳子(みかこ)に良い所を見せる為だけじゃなくて、友人達や仲間の為に努力を続けている。

 去年に美佳子から言われた事。皆の期待なんて、気にしなくて良いという言葉。今になって、その本当の意味が分かった気がする。

 誰かの為に頑張るという事の意味が分かっていなければ、そもそも背負う事なんて出来ない。

 背負えるだけの人間でなければ、誰かの期待なんて正しく背負えない。多分きっと、そういう事だったのかな。

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