第243話 ブームは一定周期で回って来る
部活やトレーニングで忙しい日々が続いているけど、何もそればかりでは無かった。
美佳子と過ごす時間だって大事だから、デートが出来る時はちゃんと2人の時間を過ごしている。
今日だって日曜日の昼間から、少し遠出をして繫華街に来ている。事故の記憶がまだ強く残っているから、流石に美羽駅前に行くのは少し躊躇う。
だからいつもと違う、少し大人向けの街に繰り出した。以前にペアリングを作った店がある所だ。
学生よりも大人が中心の街なので、周囲にいるのも大人のカップルが多い。10月下旬はまだ暑いからか、薄着の女性が沢山いる。
それは美佳子だって同様で、ピッチリとした黒いTシャツにへそ出しのスタイルだ。美しいくびれが堂々と晒されていて、少し目のやり場に困る。
「どしたの咲人?」
「え、ああその、美佳子ってY2K似合うよね」
「そりゃあねぇ。ボクが10代の頃に流行ったファッションだし」
それもそうかって、今更ながらに思う。Y2Kファッションは今現在の若い世代の流行だ。
Y2KというのはYear2000の略称であり、2000年問題ってのが騒がれた時に出来た言葉らしい。
流石にそんな語源までは知らなかったけど、歩きながら美佳子が色々と背景を教えてくれた。
10代向けのファッション雑誌にコラムを書いているだけに、こういう話題について美佳子はとても詳しい。
女性のブームは少しサイズの小さいTシャツを敢えて選び、へそ周りを露出させるのが定番だ。
下は少しダボっとした大き目のパンツで、ボーイッシュさと女性らしさが共存している。スウェット等も人気らしい。
美人でスタイルの良い美佳子がこの格好をしいていると、あまりにも似合っている。少し大きめのサングラスも着けているので尚更だ。
「韓流アイドル達の間で流行ってね。そこから逆輸入した結果が今のブームだね」
「そうだったんだ。K-POPはあんまり詳しくないからなぁ」
「その割に咲人もちゃんとY2Kじゃん」
いやまあそれはね、俺だって見た目には気を遣っているから。美佳子の家でバイトを続けて来たお陰で、父さんに頼らなくても服が買える。
自分で買うのだから、ちょっと良い物を選んだ。大学生が買う様な中堅ブランドで、格好いいなと思った服を集めた。
今日はバスケで使うメッシュ素材のタンクトップとTシャツの組合せに、美佳子と似た大き目のジーンズだ。
靴はバスケットシューズで、外履き用として使っている。俺はそこそこ身長があるから、厚底シューズは買っていない。
女性にしては背が高い美佳子だけど、俺が厚底を履くと流石に身長差が大きくなってしまう。
今ぐらいの10cm未満の身長差が理想的な俺にとって、これ以上大きくするのは望ましくない。
「咲人は背が高いから、こう言うの似合うね」
「そ、そう? なら良かった」
「うん、とてもボク好みだよ」
好みだと言って貰える事が凄く嬉しい。髪型を変えようか最近悩んでいたから、これで良いと言うなら暫くツーブロックのままで良いか。
メイクの方も結構慣れて来たから、最近はちょっと自信もついて来た。最初は眉毛を描くだけでも苦労していたけど、今ではサッと描く事が出来る。
小さな事でしかないけど、確かな成長でもあって。そういう積み重ねが大切なのはファッションも陸上も同じだ。
俺が俺らしく、美佳子に相応しい男であり続けたい。その為にはこっち方面も頑張り続けないと。
そしてその為には、もう変な見栄は張らないと決めたから。だから素直に分からない事は美佳子に聞く。
「似合うか分からなくて悩んでる服があるんだけど、見て貰っても良い?」
「うん良いよ! じゃあ次は咲人の買い物だね」
「ありがとう。こっちだよ」
大人や大学生を対象にした店が多いエリアなので、俺が良く買っているブランドの実店舗がある。
普段は公式オンラインショップで買っているけど、今は現地に居るのだから実物を見ながら相談出来る。
俺よりも美佳子の方が遥かに優れたセンスを持っているから、こう言う機会に見て貰った方が絶対に良い。
彼女に服を選んで貰うのは格好悪いなんて、考えていたのでは成長出来ないと思うから。
そもそも美佳子は元モデルで、教えを乞うには最高の相手だ。ただの高校生が無理して選ぶよりも絶対に良い。
だから俺は、目的のブランド店に美佳子を案内する。到着した店の中からは、有名な洋楽が漏れ聞こえて来た。
「ああ『Needless』ね。昔から有名なストリート系だねぇ」
「やっぱり美佳子なら知ってるよね」
「ボク達ぐらいの世代の男性は、大体コレ系だったからねぇ」
20年ぐらい前に流行ったストリート系。ラッパーの人達が着ている様な服装を差すジャンルだ。
少し大きめのサイズを着るのが特徴で、美佳子達女性陣とは少し違って上も下も大きめだ。
あとはロックバンドのロゴ入りTシャツなんかも定番で、色んな店で良く売られている。
実際俺が今タンクトップの下に着ているのは、洋ロックバンドのロゴ入りTシャツだった。
何となくサブスクで聴いてみたら、見事にハマった。もうそのバンドは活動を終えてしまっているのが残念だけど。
最近自主トレの時に良く聴いている。そんな最近の流行が反映された売り場を周り、目的の商品が置かれている棚を見つけた。
「これこれ。こういうのって、厳つい人じゃないと似合わないかなって」
「ダメージジーンズね。全然咲人でも似合うと思うよ」
「そうかな? じゃあ、ちょっと試着してみようかな」
店員さんにお願いして、試着室に案内して貰う。俺が購入を躊躇ったのは、太股や脛の辺りに破れた跡が残っているダメージジーンズ。
こういうのは俺の容姿と合わないのではないかと思った。だけど美佳子が言う様に、案外履いてみたらそこまで違和感は無かった。
美佳子に見て貰っても、やっぱり回答は変わらず。だったらと、他にも悩んだ服を色々と美佳子に相談した。
結局美佳子にウケが良かった諸々を購入する事に決めた。3万円はそこそこの出費だけど、良い買い物が出来たな。
Y2Kファッションが流行るの嬉しい。
腰パンにウォレットチェーンの時代が戻って来たの大歓迎ですよ。




