第240話 園田マリアと春川エイラの結婚相談所
10月半ば、園田マリアと春川エイラによる新企画が始まった。それはリスナー達との間で起きた、とあるやり取りを元に考案された企画だ。
出会いの場が欲しいというリスナー達の希望に応えつつ、面白おかしく楽しむ為の配信。
その記念すべき第1回は『マリアとエイラの結婚相談所』と名付けられた。基本的にはマリアとVBメンバーの誰かが、2人で配信の進行をしていく。
内容としては事前に募集したリスナー達のスペックと全身写真を見て、恋愛対象として有りか無しかをアンケート機能で集計する。
写真の方は顔を隠した状態で、普段着姿を見せてもらう意図があった。中身は嘘で誤魔化せても、服装や雰囲気までは誤魔化せない。
下手に中身を過剰に盛ってしまうと、写真の方でバレるぞという意味も込められている。
「はいというわけで、早速やって行こうね~」
「何で私が呼ばれたの? こなたかレオナで良いじゃんか」
『仲良し同級生コンビ良いぞ~』
『安定の組合せ』
『そう言いつつも出るんだよなぁ』
『汚部屋同士の同志やもんな』
『結構攻めた企画だよなコレ』
画面には白髪で清楚っぽい見た目のシスターと、ゆるふわで茶髪なお姉さんが映っている。
しかし綺麗なのはアバターの見た目だけで、2人共が汚部屋の住民をやっている似た者同士。
非常に残念だけれども中学時代からの友人なだけあって、2人の会話の嚙み合い具合はかなり高い。
スムーズにオープニングトークを済ませると、早速1人目のリスナーが紹介される。20代半ばの会社員をやっている男性だった。
オタク趣味があって、昔からアニメとゲームが大好きな人。恋愛経験は無く、見た目は気にしているつもり。だけれども、特に女性との接点は無い。
年収などの情報は、美佳子が作ったフォーマット通りに記載されていた。私服姿はどこにでも居そうな、黒髪短髪のオタク男性だった。
「ねぇエイラ、なんでオタクの人って皆揃って黒い服を着るの?」
「良いだろ別に! いつも黒で悪いか! 安牌を選んでるだけなの!」
『あっあっ』
『やめてそれは刺さる』
『もっと言ったれエイラ!』
『センスがあったら陰キャしてないので』
『自分に似合う色とか分からんちん』
何故オタクは黒い服なのかについて、無駄に白熱していた。一通り話終わった所で、マリアとエイラが恋愛対象になるかを判定する。
マリアの方は無しで、エイラの方は有りだった。マリアの評価としては、もう少しファッションに気を遣って欲しいというアンサー。
エイラの方は、真面目そうで女遊びもしなさそうという回答だった。そしてリスナーへのアンケートの方は、有りと無しがほぼ50%という結果に終わる。
続いては10代の女子高校生で、私服姿は良い所のお嬢様っぽい服装のスラっとした女子だった。
小学校からエスカレーター式の女子校育ちで、男子との出会いが無いので応募したのだと言う。
「ボクは共学だったけど、女子校ってどうなの?」
「私だって高校だけだよ? でも確かに出会いなんて無かったなぁ……今もないけど」
『草草の草』
『悲しいなぁ』
『それよりこの子絶対可愛いよな』
『オジサンで良いなら幾らでも付き合うよ』
『友達に欲しい! 服の趣味合う!』
この企画では女性リスナーが女性のジャッジをする時は、自分は男性になったつもりで判断する。
そして男性リスナーが男性を見る時は、女性になったつもりで判断するというルールだ。
2人目のお嬢様系女子高校生は、81%が有りと判断する人気ぶりだった。続いて紹介されたのは、色々と突っ込みどころのある30代の男性だ。
職業の欄には魔法少女と記載されており、人気アニメシリーズであるプリティメイジシリーズのコスプレをしている写真が添えられていた。
写真とプロフィールが公開されるなり、コメント欄が一気に盛り上がる。ネタに全力で走っているが、見苦しくはない。
「という訳で、自称魔法少女のおじさんです」
「うんまあ、良いんじゃない個性的で。やたらスタイルが良くてムカつくけど」
『勇者やなぁ』
『男性って分かってなかったら危なかった』
『異様に似合ってて笑う』
『私より足が細くて横転』
『今日はこれで良いや』
意外にもコスプレが似合っていた事からか、リスナーアンケートとは有りが20%近くもあった。
もちろんマリアとエイラの回答は、どちらも無しである。結果が発表されて若干ざわついたものの、すぐに落ち着いて次のリスナーへ。
20代半ばのOLで、マリアやエイラと同じ汚部屋女子だった。年収や性格、10の質問に書かれている事はどれも変な所はない。
しかし1つだけ、聞き逃せない情報がマリアによって齎された。マリアがとある発言をした途端、リスナー達に激震が走る。
この女性は写真だけなら美女風ながら、かつてリスナーのお部屋を見学する企画で有名になった人物だった。
「あれって4年ぐらい前だよね? 就職出来てよかったねぇ」
「部屋の掃除って大変だし面倒だよねぇ。気持ち分かるなぁ」
『これ伝説の床カビネキってマ?』
『この見た目で自室の床にカビ生えてるの?』
『詐欺やろこんなん』
『付き合って彼女の家に行ったら、部屋がマリア級なんだよね』
『もう俺には女子の事が分からないよ』
写真の彼女は大学生だった時に、マリアと大差がないえげつない汚部屋を披露した伝説のリスナーだ。
マリアのファン達の間では、床カビネキと呼ばれて来た有名人だ。私服の姿はフェミニンなワンピース姿で、スタイルも良さそうに見える。
しかし彼女の自室は超絶汚いゴミ屋敷だ。リスナー達が大混乱の中、マリアとエイラは揃って有り判定を下す。
リスナー達からは汚部屋仲間だからって、評価が甘すぎるのではないかとツッコミが大量に入る。
しかし彼氏が掃除をしてくれたら、それで解決じゃない? という実に美佳子らしい反論でリスナーの反応が変わる。
結果としてアンケート結果は34%が有りで、66%が無しという結果に終わった。そんな調子で、この新しい企画の配信は続いて行った。
実はこの床カビネキ、1章7話の園田マリアの雑談配信①で存在だけは仄めかされていた人です。
これまで小出しにして来た、女性ファンにいる美佳子の同類女性Aです。
どこかで何らかの形で使いたいな~と思っていたのですが、使いどころがやって来ました。




