第236話 駅伝大会のメンバー構成
退院してから2週間が過ぎ、経過観察の為に通院していたが回復は順調。ようやく軽い筋トレも許可が下りた。
このままなら予定通り、10月の頭ぐらいには以前と変わらない生活に戻れそうだ。
そうなれば本格的なトレーニングの再開と、事故で失った時間を取り戻す日々が始まる。
和彦だって補習の為に時間を割かねばならなかったし、条件は違うけど俺だって負けていられない。
和彦になりたい東咲人ではなく、幼馴染として相応しい存在である為の優勝。その為に、そして自分の為に絶対諦めたくない。
「東先輩、これってどこに片付けるんでしたっけ?」
「体育倉庫に入ってすぐの右側だよ」
「ありがとうございます!」
未だに俺が男子陸上部の部長という立場なのは慣れないけれど、どうにか上手くやれているらしい。
今は自分のトレーニングを殆どやっていないからか、部員達を見る余裕が生まれている。
顧問の先生や前の部長は、こうやって皆を見ていたのだろうか? 今までに無い視点だからか、少し新鮮な気分がしている。
まだまだ9月中旬でグラウンドは暑いけれど、皆が熱心に練習をしていた。1人1人が自分の目標に向かって、それぞれ努力を続けている。
俺はこの部を背負っているのだから、情けない真似は出来ない。やるからにはしっかりと、俺なりに責任を持って過ごそう。
一哉が言うには、いつも通りの俺で良いらしいし。そうやって改めて決意をしていたら、顧問の勝本先生が俺の方にやって来た。
「東、少し良いか?」
「はい、大丈夫です」
「着いて来てくれ」
俺より少し背が低いけど、迫力があるスポーツ刈りの体育教師。見た目は厳ついけれど、優しい勝本先生。
入院中に何度もお見舞いに来てくれたいい先生だ。特に悪い噂も聞かないし、体罰等とも無縁の人だ。
先生に連れられて、体育館の方に向かって歩いていく。うちの学校の体育館には、体育教官室が併設されている。
疑うまでも無く行先はそこだった。クーラーが効いていてやや涼しい室内に入り、他の先生に挨拶をしつつ勝本先生の机まで移動する。
わざわざ体育教官室まで来て、一体なんの話をされるのだろうか? 練習メニューに関する話か? それとも駅伝大会に関する話か。
「次の駅伝大会から、予定通り新しいメンバー構成に変える」
「先輩達が引退しましたからね」
「本当なら1区を東に任せたかったが、今回は柴田に頼むつもりだ」
俺が怪我で練習を出来ていないから、こうなるのは分かっていた。元々俺が1区担当になる話は前から出ていた。
俺と柴田は1区の距離である、10kmのタイムはそう大きく変わらない。あいつになら任せても大丈夫だと思うし、俺も納得は出来ている。
悔しさは当然あるけれど、それはあくまで今回に限った話だ。次の夏までに、柴田に追い着けば話はまた変わって来る。
簡単には追い着かせて貰えないだろうけど、今から諦める理由にはならない。俺まだ、未来まで失ってはいないから。
美佳子と歩み始めた新しい東咲人は、まだまだ完成し切っていない。ここから俺は、新しい自分を作り上げる。
「3年の枠はほぼ2年で埋めるが、2区は1年の島津に変える」
「島津ですか、確かに適任でしょうね」
「そして東、お前には全国でのアンカーを任せたい」
かつての俺と同じ様に、1年生の有力な選手を投入する。後進を育てるという意味でも、重要な事だと理解している。
後輩の島津拓海は中学の後輩だから、あいつの事は良く知っている。実力的にも2区を任せても大丈夫だろう。
少し本番に弱い所は、フォローが必要だろうけど。そして2区だった俺が移動する先は7区で、勝敗を決める最後の5km。
事故の件を考慮して、4kmから1km増えるだけ。それなら本戦までに間に合うだろうと、先生は配慮をしてくれたらしい。
予選では1区の柴田で差をつけて逃げ切り、アンカーは代理を立てる予定で話が決まった。
「お前なら出来ると信じているが、構わないか?」
「はい、何とかやってみます」
「ならこの後、正式なメンバー発表を行う。全員に伝えておいてくれ」
やはり予選は正式メンバーに入れない。それは分かっていたし、覚悟もしていた。辛くもあるけど、何より勝たねば意味がない。
意地で俺が入っても、負けてしまえばそれまでだ。そうなってしまうよりも、年明けまでの期間でしっかりと自分鍛える。
1ヶ月の入院生活で落ちてしまった筋力と体力を戻して、最高の状態にまた戻さねばならない。
他の選手達とついてしまった2ヶ月分の差も含めて、全部をこれから取り返すんだ。
厳しい日々になるのは分かっているけれど、俺は1人じゃないから。辛い時に頼って良い仲間が居て、そして美佳子が居てくれるから。
「失礼しました」
先生達に挨拶をしてから、体育教官室を出る。グラウンドに戻って、駅伝大会のメンバー候補達に声を掛けて行く。
いつか来る3年生の引退は分かっていたから、各々が候補となっている区間を意識して練習を重ねている。
だから全国大会までに結果が出せなかった場合は、俺がメンバーから外れてしまう可能性はゼロじゃない。
予定日までに俺の調整が間に合わなかったら、当然ながら戦力外通告を受けてしまうだろう。
だけどそれだけは絶対に御免だ。理不尽な事故なんかに、負けて堪るか。もう悲しむ時間は終わって、今は前に進む時。
ここからもう一度再スタートをして、冬の全国大会で必ず優勝してみせる。それが俺と和彦の、男同士の約束なのだから。
WEB小説を書き始めて、確か3ヶ月ぐらいで左手首が慢性的な腱鞘炎になりました。そして2年で300万文字書いてやるぜ! とか考えていたら爆弾になりました。
最近では左腕の肘にも腱鞘炎の傾向が見え始めていたり。でも今はそんな事どうでも良いんだ。重要な事じゃない。
最近ギックリ腰を連続でやっておりまして、腰にも爆弾を抱えてしまいました。
こんなの今まで経験した事ないのに、これって一体どういう事なの?
はっ!? もしかしてこれって、老い?




