第235話 園田マリアの恋愛相談⑥
美佳子が園田マリアとしての配信を一時的に休止していた事で、相談事や懺悔のストックがかなり溜まってしまっていた。
配信のペースは戻っていても、消化が少し追い付いていない。その対応も含めて、本日は日曜日のお昼から配信枠を取っている。
3時間程の予定で、恋愛相談のロングバージョンを配信していた。いつもの日曜朝と夜に追加で取った昼の枠。
日曜日のお昼頃は家でゆっくりしている人も多く、学生や社会人など様々な層が配信に集まっている。
恋愛相談は女性リスナーの割合が上がるので、夜でもないのに視聴しているリスナーは開始時点で5千人を超えていた。
「いやー色んな相談があるねぇ。1時間やったけどまだまだあるよ」
『皆恋してるんやなって』
『俺には無縁過ぎる』
『恋する乙女達がんばれー』
『他人の恋愛話っておっさんになっても面白いよなぁ』
『もう1時間か、体感30分だわ』
バッサリ行くタイプの相談もあれば、全力で応援される相談もある。いつもの調子で配信は続いて行く。
次の相談者は、婚活に励む30代の男性からの相談だった。年収は500万ほどあり、1人暮らしをしていてマイカーも所有。
しかし自分の容姿が他人より優れていないので、どうにも婚活が上手くいかない日々が続いている。
見た目で第一印象が決まると言うので、私の様なフツメンがこのまま頑張っても無駄だろうか?
婚活で知り合う女性達と会話していても全然楽しくないし、好みのタイプも特にいない。
そろそろ私は疲れて来ました、と言う内容が書かれていた。園田マリアの配信では、わりと良く見る婚活に関する相談だ。
「あのさぁ……よし。ちょっとここで、モテない人が何故モテないのか教えるね」
『あっ(察し)』
『バッサリモードやw』
『相談者さん強く生きて』
『いやでもこれは斬られるって分かるやろ』
『新規リスナーかな?』
そこから始まる美佳子の恋愛理論。見た目で決まるのはただの第一印象であり、恋愛はそれだけで全てが決まらないもの。
恋愛や結婚においては、必ず中身も重要となる要素である。イケメンや美女でも、性格が最悪だと結婚は難しい。
何故なら夫婦生活とは、毎日を共に過ごす関係であるからだと説明を続ける美佳子。見た目だけで日常生活は成立しない。
ただ所有欲や性欲を満たす目的だけでなら、見た目だけの存在でも異性に選ばれる事はある。
相手の本性が見抜けなくて、騙されて結婚まで行く事もある。ただしその先に待っているのは、必ず不幸になる未来以外にはない。
結局中身と恋愛は切って離す事が不可能で、そこを無視出来るのは承認欲求や性欲を満たす時だけだと語る。
「大体この人が間違っているのは、女性と会話しても面白くないって所だよ。貴方が楽しませる側なの。なんで自分が接待される側って考えているの?」
『あ~何となく感じる上から目線それか』
『自分が婚活をしないと結婚出来ない人間って自覚がない』
『このスペックなら見た目アレでも普通結婚出来るやろ』
『結婚出来ていないって事はねぇ』
『これ顔だけが問題じゃないでしょ』
更に美佳子の説明は続いていく。例えば容姿が50点の人が居て、中身も50点なら総合100点になる。
容姿が優れていなくて30点でも中身が優秀で70点なら、その場合も総合点は100点に届く。
だけど容姿が30点で中身が20点の人は総合点が50点しかなく、ここまでに例えた総合100点の人には絶対に勝てない。
ましてや容姿70点で中身10点の性格があんまり良くない人にすら、総合点では完全に負けてしまう。
恋愛で起きているのはこの総合点の競い合いで、大人になるとここに収入や生活能力等も追加される。
だから容姿のせいでモテない、何であんなクズが顔だけで評価されるんだ! 相手側の性別は、やっぱり容姿で選んでいるんだ!
そんな風に考える中身の点数を磨かなかった人間は、永遠にモテないとバッサリ斬る美佳子。
異性にモテる努力をする事を、そういう人は男に媚びるとか女に媚びるって表現するよねぇと締めに入る。
「恋愛は相手を尊重し合う行為なの。ギブが出来ないテイク待ちの人では先ず無理だよ」
『ちょっとグサッと来た』
『切っ先が鋭利過ぎる』
『でも本当にそうだよね』
『流石容姿100点で収入100点の女、説得力がある』
『マリアは家事能力0点でも、トータルは優秀だもんなぁ』
それらの説明をした後、根底から考え直す様にアドバイスをして終了した。続いて紹介された相談は、彼女が居る高校生からの相談だった。
半年前から交際している彼女が、何度言っても男友達と2人で遊びに行くのを辞めてくれない。
彼女本人はただの友達と主張するものの、メッセージのやり取りは絶対に見せてくれないと言う状況。
しかもその相手と遊びに行く頻度も結構高めで、その事が理由で凄くモヤモヤしているとの事。
どうやったら彼女に辞めさせる事が出来るか教えて欲しい。そんな思春期男子からの相談だった。
「うーーーーん。ごめん、二股されているかキープだね。彼女さんはモテている今が、楽しくて仕方ないんだろうねぇ」
『悲しいなぁ』
『心が苦しくなって来た』
『脳が破壊されてしまう』
『友達の彼氏に手を出すタイプはコレ』
『別れろ別れろ! もっと良い子探そう!』
貴方の事を大切に想っているなら、やって欲しくない事は普通やらないからね。そう諭しながら慰めの言葉を幾つか送る美佳子。
この様な悲しい事件は、世の中に溢れている。ただの友達だから、妹みたいなものだから。
そんな説明で誤魔化されて、浮気や二股をされる男女があちこちに居る。生殖本能や承認欲求が、理性に勝ってしまう人は決して少なくない。
だからこそ浮気や不倫という行為が、この世から消えないのだろう。悲しい被害に遭ってしまった男子高校生を、リスナーと共に励ます時間が暫く続いた。




