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第226話 甲子園の決勝戦

 甲子園球場では、夏の戦い最後の試合が行われていた。馬場和彦(ばばかずひこ)が所属する高峰(たかみね)学園と、柴嶺(しばみね)高校が決勝戦で熾烈な争いを続けている。

 柴嶺高校は宮城県仙台市にある超有名な強豪校だ。何度も優勝をして来た実績を持ち、今大会も優勝候補として最も注目されて来た。

 プロ野球選手を何人も輩出して来た優勝の常連校を相手に、高峰学園はリードを広げていた。

 7回の裏が終わって9対5と、悪くない点差がついていた。しかし4点差というスコアは、高校野球では安心出来る領域にない。

 甲子園には魔物が棲むと言われており、あっという間にひっくり返る可能性があった。8回の表に入り、実況席もかなりの熱が入っていた。


『今年こそ優勝を狙う、高峰学園がリードを広げたまま8回に入りました』


『ベストエイト入りなら常連ですが、優勝となると10年ぶりですからねぇ』


『高峰学園としては、ここで優勝したいでしょう』


 実況を務める男性アナウンサーと、解説の元プロ野球選手がこれまでのハイライトと共に語っていく。

 注目度が高いのはやはり、高峰学園の4番でキャプテンの高橋宗司(たかはしそうじ)と馬場和彦だ。初打席でホームランを打った和彦は、その後も長打を放っている。

 そしてキャプテンの宗司による活躍も大きい。4回の裏で放ったスリーランホームランは、高峰学園の良い追い風となった。


 やはり全員の士気が高い事が影響しているだろう。和彦が語った咲人(さきと)の話は、彼らのやる気に大きく影響をしていた。

 同じスポーツマンとして、到底許せない出来事。もし自分がそうなっていたら、どんな想いをするか簡単に想像できる。

 だからこそ彼らは、いつも以上の闘志を胸に試合に挑んでいた。同じ高校ではなくとも、同じ土地にすむ仲間の為に。


『おーっと! ここでゲッツー! 高峰学園、守備の堅さが8回になっても揺るぎません!』


『これは、柴嶺高校としては非常に手痛い流れですね』


『8回の表、早くもツーアウトに追い込まれました!』


 4点差というリードに甘えず、堅実な野球を崩さない高峰学園。キャプテンを務めるショートの宗司が、鋭い打球を綺麗にゲッツーで捌いた。

 レフトに抜けていたかも知れなかった強い当たりは、内野ゴロとして処理されてしまった。

 一切の隙を見せない守備を続け、長打が出ても失点には繋げない。そのまま抑え切って8回の表は終了する。

 続く8回の裏は、再び5番打者から始まる高峰学園の定番パターン。5番打者が出塁し、6番打者がバントで1アウトランナー2塁。

 そしてバッターボックスに立つのは、7番打者の和彦だ。この夏の甲子園で、最高の成績を更新し続けている男がバットを構える。


『先ずは第1球……おっとこれは、外角高め。ノーストライク、1ボールです』


『やはり馬場選手は、かなり目が良い様ですね』


『キャッチャーとしての経験が活きているのでしょう』


 1打席目からホームランを打って見せた和彦は、かなりの警戒をされている。高峰学園の7番は、他の高校からは要警戒対象だ。

 決勝戦までの間に、8本のホームランを放っている。これは高校野球の最多本塁打数に届いており、1打席目で9本目となり最多記録と並んだ。

 そして迎えたこの打席、まさかまだ記録が伸びるのではないか。そんな期待も集まった中で迎えた、5球目が投げられた。

 1ストライク3ボールで迎えた、ど真ん中へのストレート。焦りから生まれた甘い球に、和彦が渾身のスイングを合わせた。


『あぁーーーーっと! レフト諦めたーーー!』


『いやぁ、見事な打撃でしたねぇ』


『夏の最多本塁打数を更新する、駄目押しのツーランホームランだぁー!』


 ホームランを確信出来る強烈な打球を放った和彦は、余裕の表情で1塁へと向かって行く。

 リードしている高峰学園側は大いに盛り上がり、逆に柴嶺高校の方はかなり厳しい空気になっている。

 11対5と点差は6点にまで広がってしまった。良くない空気を感じた柴嶺高校のメンバーは、一旦ピッチャーマウンドに集まって声を掛け合う。

 全員で励ましあって、どうにか立て直しを図る。流石に決勝まで来た優勝の常連校だけに、ここで簡単に崩れたりはしない。

 続く8番9番の打者を抑え切り、柴嶺高校は逆転を狙う最後の攻撃。9回の表に入った。


『泣いても笑ってもこれで最後、本大会の勝者が決まります』


『6点差は逆転不可能ではありませんから、諦めずに最後まで戦って欲しいですね』


『さあ柴嶺高校の攻撃です!』


 流石は強豪校というだけあって、激しい攻撃が高峰学園を襲う。これまでの疲れもあったので、ノーアウトのまま1点を失ってしまう。

 尚もランナーは居る状態で、柴嶺高校の4番バッターを迎える。初球打ちで放った打球が宙を舞う。

 深めの位置に居たセンターが前進してキャッチするも、タッチアップで3塁ランナーがスタートを切る。

 位置的には浅かったので、ギリギリ送球が間に合うか微妙なタイミング。センターからセカンドを挟んで、ボールはキャッチャーの和彦へ。


 そのガッシリとした体でしっかりとブロックし、ここで更なる失点を防ぐ事に成功する。

 追加でソロホームランを打たれて合計2点を失ったものの、何とか守り切り高峰学園の優勝が確定した。

 和彦の活躍は非常に大きく、画面の向こうで見ている幼馴染に強い影響を与えた。ヒーローインタビューでは、当然和彦が呼ばれる。


「今の気持ちを誰に一番伝えたいですか?」


「そうですね……両親とか好きな子とか、色々居ます。でも今は、親友です。次はお前の番だぞ!」


「それは何か、特別な意味があるのですか?」


 満面の笑みで和彦は、誇らしげに宣言した。地元の病院で見ている筈の、和彦の相棒で親友。東咲人へ向けての、激励のメッセージとして。

PL学園時代の清原選手による最多記録を更新する内容にしたのですが、きっと現実が創作を越えて行くんだろうなって思います。

だってもう、あのデッドボールでキレない大谷選手の時点でもうね。

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