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第212話 寺町こなたの懺悔室

 美佳子(みかこ)咲人(さきと)が大変な目に遭ってしまい、急遽園田(そのだ)マリアの一時的な活動休止宣言が行われた。

 それは咲人が事故に遭った日の翌日だ。そもそも美佳子自身が死にかけた日でもあるので、あの日は配信予定も全てドタキャンした形だ。

 当日の時点では、また泥酔して路上に倒れているのではないかとファン達の間では噂になっていた。

 その翌日の事でファン達は驚きはしたものの、VB(ブイビー)所属のライバー達がフォローを行った。

 病気だとか妊娠だとか、そういう類では無いと発信されてざわつきは収まった。長期の休止でもない事から、殆ど好意的に受け止められた様子だ。


 元からたまには休めと散々言われていたのもあって、ファン達からの心配する声が大半を占めていた。

 またVB所属のライバー達が、園田マリアの代わりにある程度企画を代行する事も告知される。

 社長が困っている時だからと、メンバー達が申し出たのだ。結果その第1弾として、寺町(てらまち)こなたによる懺悔室が配信された。

 いつもの様に白髪のシスターではなく、黒髪ロングに舞子衣装の釣り目京美人が教会を背景に配信を開始した。

 標準語で話すマリアとは違い、ネイティブな京都弁が流暢に発された。


「ほな今日はね、うちのリスナーだけやなく、マリアさんのリスナーも一緒にやっていきます。喧嘩はしたらあきまへんよ」


『はい!』

『マリアファンの皆さん今日もよろしく』

『今更喧嘩なんてしないよw』

『お邪魔しまーす!』

『邪魔するんやったら帰って~』


 同じ事務所のライバーである為、これまでに何度もコラボという形で一緒に配信をして来た。

 VB所属ライバー全員での配信も定期的にやっており、それぞれのリスナーにどういう傾向があるのかは良く理解されていた。

 園田マリアのリスナーは、ライバーとの煽り合いが多くて面白さ重視。寺町こなたのリスナーは、容赦のない発言に喜ぶ人々が多い。


 要するにドのつくマゾ気質の人や、強い女性がズバッと言う所が観たい人達だ。寺町こなたのリスナー層も男女比はマリアと同じで、男女がほぼ半々である。

 そんなマリアファンとはまた違ったリスナー達も参加しており、コメント欄が盛り上がりつつあった。

 両方のファンが集まった関係で、普段よりも同接数は多くなっている。開始時点で7千人も集まっている。


「マリアさんから懺悔の投稿は預かってますから、早速始めましょか」


『代理の人選として有りよな、こなたって』

『マリアより容赦が無さそう』

『もうこれドM専用配信やろ』

『VBのバーサーカーだしな』

『果たして投稿者の心臓がブレイクせずに済むのか』


 情け容赦のない発言で有名な配信者である為に、バッサリと切り捨てる方向性で期待されている様子だ。

 記念すべき最初の1発目、そして第1の犠牲者……もとい投稿者の懺悔が紹読み上げられる。

 匂いフェチの男性からの懺悔であり、満員電車に乗っているとつい近くに居た女性の匂いを嗅いでしまう癖がある。


 ダメだと分かっているのにやってしまう。やめないといけないのは分かっているのに、気が付けばやってしまうとの事。

 迷惑なのは分かっていても、やめられない。どうしたら良いですか? という1人目からだいぶハードな投稿だった。

 これなら犠牲者でも別に良いかも知れない。ネタである事を願うリスナー達のリアクションが目立つ。


「頭おかしいんとちゃいます? 普通に痴漢やし、気色悪いわぁ」


『罵倒きちゃーーーーーwww』

『初手キショイは大草原不可避』

『いやこれは投稿主がヤバすぎる』

『きっっっっっっ』

『いやガチで警察案件やん』


 こなたによる痴漢は許されないという、ガチめのお説教が入り1人目は終了。いきなりからとんでもない投稿で始まった為、コメント欄がざわつき始める。

 色んな意味で盛り上がる中、続く2人目も中々に濃い様子が最初の1文目から出ていた。

 最近のVtuberは調子に乗っていると思います。こっちの方が面白いと思う事を指摘しても、全然聞いてくれません。

 せっかく配信者の事を考えて教えてあげているのに、一体どういうつもりなのでしょうか?

 という典型的な指示厨厄介ファンを匂わせる投稿者だった。2件目も違う方向でぶっ飛んでいたので、コメント欄がさらに加速していく。


「アホとちゃいます? 自分の方がおもろい事を考えられると思わはるんやったら、企業に就職してマネージャーやらはったら? まあ受からんやろうけど」


『バッサリの2連撃w』

『やっぱこなたはこうじゃないと』

『てかヤバイ投稿来すぎw』

『マリアって普段からこんなモンスターから投稿来るんや』

『人気配信者の苦労と闇』


 変なの来たなぁと受け流す篠原美佳子(しのはらみかこ)と、容赦なく晒上げる稲森美桜(いなもりみお)という演者の違いが明確に出ていた。

 この辺りは現役大学生と、社会経験のある大人との差もあるのだろう。元々の性格の差も大きいのだろうが。

 こんな感じで容赦なく切り捨て続ける事30分ほど、今度は空気が変わって思春期らしい相談が来ていた。

 中学生の女の子からの投稿で、好きな男子にどうしても素直になれないという話だった。

 つい冷たい態度を取ってしまったり、厳しい言葉を使ってしまったり。上手く彼と接する事が出来ないと懺悔が届いていた。


「あら可愛らしいなぁ。思春期やねぇホンマに。それぐらいの頃やとねぇ、そういう事もあるわなぁ」


『温度差エグイって』

『うわぁ急に真面目になるな』

『突然浴びせられるアオハル』

『企画の進行にまで滲み出る横暴さ』

『でもそれが良いブヒィ』


 先ずは肩肘張るのをやめて、自分の気持ちに素直になるところからスタートをしなさい。

 深呼吸をして気持ちを落ち着けて、冷静になってから対応する様にすれば如何かという回答で返す美桜。

 バッサリ切り捨てるばかりでなく、合間に真面目な投稿も交えながら配信が進行していく。


 美佳子のスタイルとはまた違った内容となり、これはこれで有りかとマリアのリスナー達は思った。

 そして良く訓練された一部のドMなこなたのリスナー達からは、毎日これをやってくれと懇願が入る。

 彼らのあまりの必死さに、気色悪いの一言で返されたが本人達は喜んでいた。なんだかんだで結構盛り上がり、この配信は2時間ほど続けられた。

当初は200話想定で考えていたので、VB所属ライバー達の配信風景は出さない予定でした。主人公とヒロインのイチャラブな日々を優先していたので。

だからこそ5章でこの展開を入れました。元々は4章200話想定を6章300話以上に変えたので、だったら書いても良いかなと。

本来は咲人君の事故展開と6章で書く話は、4章にもっとコンパクトに収める気でした。田村さんも延ばしたからこそ生まれたキャラですね。

その分より詳しく丁寧になったのかなぁと思えば結果オーライ?


これから4話おきぐらいで、園田マリアではないVBライバー達の懺悔室をしんどい展開の休憩タイムとして入れて行きます。


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