第211話 咲人の目覚め
ふと気になってなろうの検索でゲロインと入れました。
本作を含めて37作品しかありません。これはどういう事でしょうか?
ゲロインは一般性癖ですがねぇ? 親のゲロより浴びたゲロとコメントをしたら、もっと親のゲロ浴びろと返ってくる。そんな世界にしていきましょう。
俺は……寝ていたのか? あれ? 美佳子と出掛けて、どうやって帰って来たんだ?
あんまり昨日の事が思い出せない。それに何だか、体の調子が変だし着ている服に違和感がある。
この時期の俺は、Tシャツと短パンで寝ているのに。徐々に意識が浮上し始めて、だいぶハッキリとして来た。
でも何だかいつもより目覚めが悪い。俺はそこまで朝が苦手でもないのに、妙に瞼が重くて体の自由が効かない。
どういう事だ? 何とか目を開けてみたら、明らかに天井が俺の家と違っていた。
「なんで?」
「咲人っ!!」
「あれ? 美佳子の家でねちゃっ……は?」
美佳子の声に反応して、頭を少し動かすと分かった。自分の置かれた状況が、物凄い勢いで脳に訴えかけて来た。
俺は今明らかに病院のベッドに寝かされていて、右足がどうやら固定されているらしい。軽く布で宙に釣られているみたいだ。
どうりで俺の体に違和感があった訳だ。悲痛な表情で涙を流す美佳を見て、俺は困惑してしまう。
置かれた状況は理解出来ても、今何が起きているのかが分からない。まるで俺が大怪我をして、入院しているみたいじゃないか。
何がどうなって、こうなったんだよ? まるで記憶がなくて、現状が分からない。誰か説明をしてくれない?
「なあこれどういう、いてててて」
「駄目だよ咲人、大人しくしないと」
「これどういう状況? 何にも覚えてないんだけど?」
困惑する俺に、美佳子がこれまでに起きた事を説明してくれた。先日俺は美佳子と出掛けて、暴走したバイクから美佳子を庇い大怪我をした。
そして暫く意識がないままで、今やっと目を覚ましたという事だ。なるほど? そう言われると、何となく記憶が蘇って来た。
浜屋に行って昼飯を食べて、その後変なバイクが突っ込んで来た。とっさに美佳子を突き飛ばして、その直後にドンッと衝撃を受けた所までは思い出せた。
見た感じ美佳子には特に怪我が無さそうだ。ただ心配を掛けたからか、随分と疲れた顔をしている。
「良かった、美佳子が無事で」
「良くないっ!! 凄く心配したんだよ!!」
「あ、ご、ごめん。そうだよな」
俺が逆の立場だったら、何も良い事なんてない。美佳子が大怪我を負って、ただ意識が戻るのを待ち続けるだけなんて辛い。
その想いを美佳子にさせてしまったと考えたら、とても申し訳ない気持ちになる。その少し後に父さんもやって来て、無茶をするなと怒られてしまった。
そりゃそうだよな、つい先日1人にするなと言われたばかりだ。母さんの時を焼き直すかの様に、息子まで交通事故なんてさ。
きっとトラウマものだっただろう。俺だって父さんの立場なら怒りたくもなる。もちろん一番悪いのは事故を起こした側なんだけどさ。
ん? あれ? 俺って、何日寝てた? 待てよ、今は何月何日だっ!?
「美佳子っ! 今いつだ!? 駅伝大会はっ!?」
「…………さっき、終わったよ」
「そん……な……」
終わった? さっき? 俺の夏が終わってしまった? 噓だろ? 混乱する俺に、美佳子がここ数日の話をしてくれた。
事故にあった日から丸2日の間、俺は意識が戻らなかった。顧問の勝本先生や、一哉達と部長が一昨日来てくれたらしい。
俺に変わって2区を務めたのは3年生の松田先輩で、美羽高校は3位で終わったらしい。なんだよ、それは……寝ている間に終わった?
俺の苦労は何だった? 俺の毎日は? 今度こそ奪還したかった区間1位は? 今日まで皆と頑張って来たのに? 俺は……俺は……。
「咲人が目覚めたと、警察や学校に連絡して来ます。篠原さん、少しお願いしますね」
「はい……」
「俺っ……は……」
ああ良かったさ美佳子が生きていて、俺も死なずに済んだ。確かに良いかもしれないが、俺のこの気持ちはどうしろって言うんだ!?
わけの分からない信号無視のクソ野郎に、怪我をさせられて俺の夏は終わりだと? 何だよそれっ!! こんなのあるかよ!
俺はルールを守らないヤツに母親を奪われ、今度は大事な夏の大会を奪われた! なんなんだよアイツらっ!?
何で俺がこんな目に遭わなければならないっ! どうして美佳子が危険な目に遭わないといけないっ!!
悪いのはアイツらの方じゃないかっ!! 俺はっ! 俺はっ!! 気付けば思わず握った拳を、ベッドの手すりにぶつけてしまっていた。
「そうだよねっ、悔しいよねっ」
「俺はっ! なんでっ!!」
「咲人っ」
美佳子に抱きしめられているのに、こんなにも気分が晴れないのは初めてだった。でも美佳子が居てくれただけマシだった。
こんなの1人だったら、暴れていたかも知れない。解消しようのない怒りと悔しさを、色んなものにぶつけただろう。
涙を流しながら、美佳子が俺を抱きしめ続ける。アイツのせいで、美佳子が泣いている事も余計に腹が立つ。
ろくでもない人間のせいで、俺達の夏は滅茶苦茶にされてしまった。まただよ、また俺はこうして大切なものを奪われる。
身勝手な連中の迷惑な行為のせいで。どうしてこうも理不尽なんだよ!
「クソっ! ……待ってくれ、俺っていつ退院出来る?」
「グズッ……1ヶ月後だよ」
「いっ……かげつ……」
そんなにも俺は、ベッドで寝ていなければならないのか? その間に俺の肉体はどんどん鈍っていくというのに。
一線級の選手たちと、差は開くばかりだ。今回出場出来ていても、1位を取れたかは結果次第だったと言うのに。
取る自信はあったさ、でも取れたかどうかは別の話だ。それにもう……お世話になった先輩達に、金メダルをプレゼントする夢は叶わない。
絶望的な現実だけが、俺の前に提示されていた。病院の先生が来て診察したり、警察が来て事情聴取をされたりした。
でもそんな事はもう、俺にはどうでも良い事でしかない。美佳子との夏休みも、無くなってしまったのだから。
ここから暫く、咲人君は不安定です。
そして9歳の時とは違うので、流石に怒ります咲人君でも。
あと次回ですが、休憩タイムです。




