表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/306

第208話 訪れた転機

 3日後には全国駅伝大会の本戦が待っている。水道管の事故で延期になったので、8月開催になってしまったけど問題は無い。

 結局7月にやるか8月にやるかの違いだけ。やる事は何も変わらないし、確かな手応えを感じてもいる。

 今回こそ区間1位を奪還し、先輩達と優勝の金メダルを持って帰るんだ。陸上部の駅伝メンバーも全員が良い調子で、皆で1位を狙う気満々で今日まで来ている。

 あとは3日後までに風邪でもひかない様に注意するだけ。無駄にエアコンの温度を下げ過ぎたり、遅くまで起きていたりしなければ大丈夫だ。


「ごめん咲人(さきと)、お待たせ」


「大丈夫だよこれぐらい」


「女子トイレって混むからさぁ」


 美羽(みう)駅前のショッピングモールに、美佳子(みかこ)と2人で買い物に来ている。色々と買い物が必要になったから、じゃあいっその事お昼でも食べに出ようかとなった。

 必要な小物や、デスクワーク用のアイテムも少し購入した。左利きの田村(たむら)さんに合わせて、左利き用のハサミ等が主な購入品だ。

 ついでに美佳子の家で減って来た、いくつかの日用品や食料品も幾らか買い足しておく。

 とりあえずはこれぐらいで良いかなと言う所で、一旦お昼にする事になった。駅前は飲食店が豊富にあるので、何を食べるか悩まされる。


「美佳子は何が良い?」


「ん~ボクは軽めが良いかなぁ」


「暑いもんなぁ今日も」


 有難い事に今日も快晴で、太陽から厳しい熱気が照射されている。本日の気温は39℃と見事に人間には辛い陽気だ。

 こうも暑いと、食欲もあまり湧いて来ない。でも食べないと夏バテになるという悪循環に陥る。

 それもキツイんだよなぁ、夏バテもスポーツ選手としては大敵だ。気を付けないと、許容値以下の体脂肪率になってしまう。

 男性は女性より脂肪が付きにくく落ちやすい。美佳子の健康管理もだけど、俺の体重維持という点でもやり難い季節だ。

 とりあえず選ぶとしたら、喫茶店辺りか? サンドイッチの美味しい個人経営のお店があるんだよな。


浜屋(はまや)は? 喫茶店の」


「悪くないね、そうしよっか」


「じゃあ行こう」


 喫茶店の名前と思えない店名だが、地元では人気のお店なんだ。どっちかと言えば洋食屋とかラーメン屋の印象を受ける名前だけど。

 でも喫茶店として経営しているから不思議だ。店主のネーミングセンスが絶妙に変としか言えない。

 まあ美味しいから別に良いんだけどさ。学生に優しいお値段設定で続けてくれているしな。

 そこはもうただ感謝しかない。お昼時だったからか満席で少し待つ事になったが、結局10分程で席につけたので良かった。

 浜屋の店内は一般的なファミレスより少し狭いぐらいだ。色んな年齢層の男女が店内に各々座っている。

 窓際の席に通された俺達はメニューを選んで注文を済ませる。


「ねぇ咲人、この後どうする?」


「必要な買い物は済んだしなぁ。あ、コスメ見たいかも」


「お、良いねぇ。実は新しい店舗が出来たんだよ」


 これまで関東の一部でしか展開していなかったブランドが、先日駅前でオープンしたらしい。

 元モデルなだけにファッション関連の情報に詳しい美佳子は、既に店の場所まで把握済みだった。

 そのブランドは男性向けも同時に展開しているらしく、カップルで来店する客も結構居るそうな。


 面白そうだし興味も湧いたし、せっかくだからいつものデパート以外も見に行くか。

 今使っているのより良い商品があるかも知れないし。何より30代から下の若い世代向けに力を入れているというのが気になる。

 美佳子と商品ページを確認しつつ、注文した品が来るのを待つ。休憩も兼ねてゆっくり食べた後、俺達は目的の店舗へと向かう。


「あっつ~これ40℃あるだろ絶対」


「ボク溶けそう」


「日傘を差しててもこれだもんなぁ」


 当然だが日傘を差しているのは美佳子だけではない。スキンケアを始めた俺が、日焼けを気にしない筈がない。

 学校に行く時は日焼け止めを使うし、こうしてプライベートなら日傘も差す。何より多少なりとも、日差しを直接浴びないだけマシだ。

 暑いのは変わらないけど。この辺ではまだ男性で日傘を差す人は多くない。東京だともっと多いのかな?

 男性でも日傘を差すメリットは多いのになぁ。日傘なんて女々しいとか思っているのだろうか?

 雨傘だって使うのだから、日傘だって同じだと思うけどな。良く分からない男はこうあるべき! みたいな思考が働くのかな?


「ここの信号長いんだよなぁ、早くしてくれ~」


「あづい~死ぬ~」


「死なないで美佳子、もうちょっとだから」


 美羽駅前の一番大きな国道は、交通量が多くて信号も沢山ある。右折レーンが渋滞している所なんて何度も見た。

 信号が赤になっても無理やり右折して行く車もいるので、歩行者的には結構危ない場所でもある。

 信号無視で母さんを亡くしているので、そういう車を見ると本当に腹が立つ。ちゃんと守れよなって言いたくなる。

 車に乗っているのなんて殆ど大人なんだからさぁ、しっかりして欲しいよ本当に。ほら見ろ、今も赤になっても右折して行った。

 免許を取り上げろあんなの。暑さも相まって、イライラとしてしまう。おまけに改造バイクでも近くを走っているのか、ブンブンブンブンと煩い。


「やっと青になったか」


「もう無理~あづい~」


 信号が青になったので渡り始めた俺達。少し歩いた所で強い風が吹き、美佳子が日傘を飛ばされてしまった。

 大丈夫かと問いかけようと振り返った時、少し離れた所から激しい車のクラクションと怒号が聞こえた。

 ふと目を向けると、赤信号なのに明らかに止まる気のないスピードで走って来るバイクが見えた。

 そしてそのバイクの進む先には、日傘を拾いに行った美佳子が居て。他の人達は蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。

 だけど暑さに参りながら日傘を拾おうとした美佳子は、()()()()()()()()()()()()。気が付いたら俺は、全力で駆け出していた。


「美佳子ぉー!!」


 どうにかして美佳子を突き飛ばす事に成功した。ただその後に感じた激しい衝撃以降の記憶が、俺には無い。

次回、美佳子視点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ