第205話 Cultivating Love
5月のひと月だけで10万PVもあり、現実世界恋愛カテゴリの日間・週間・月刊と注目度ランキングに本作が載りました。本当にありがとうございます!
※後書きに重要な告知があります。
田村さんが働き始めて、美佳子に出来た時間的な余裕は大きい。睡眠に取れる時間もそうだし、2人で過ごす時間だってそうだ。
今までにもちょっと出掛けたり、デートしたりする為に美佳子は無理をしていた。それだけ社長としての仕事が多く、色んな人とのやり取りがある。
予定なんて基本的に数ヶ月先まで決まっているし、自分の為に割ける時間は本当に少ない。
こうして俺が美佳子の家にほぼ毎日来るから、2人で一緒に居られるだけだ。もし俺が普通に働いていたら、こんなにも時間は取れていない。
「いつも思うけど、やっぱり逆じゃない?」
「え~別に良いじゃんボクが膝枕される側でも」
「いやまあ、良いんだけどさ。ただ不思議な感じだなって」
ちょくちょく美佳子に要求される膝枕。もちろん俺がする方で、やってもらう方ではない。
今もソファの上で、膝に美佳子の頭を乗せている。当たり前に様に、頭を撫でる事もセットで求められるので今では手慣れたものだ。
疲れているのは知っているから、労いの気持ちを込めて優しく撫でている。普通のカップルとは違う感じが、どうにも俺達らしいなと。
何から何まで普通とは言えない俺達の交際は、ついに1年を超えた。ただ美佳子が忙しくてそれらしい事が出来ていなかった。
だから当日から少しずらして、今やっとこうして1日中ゆっくりと2人で過ごしている。
「1周年、早かったよね」
「そうだねぇ。咲人があんなに真剣に告白してくれたのが1年も前なんてね」
「ま、まあね。必死だったから、勢い任せにしか出来なくて」
あの時はもう本当に、計画性もなくて全部滅茶苦茶だった。とにかく美佳子に本気だって伝えたくて、好きだと分かって欲しくて。
恋愛なんてまともに出来ていなかった俺が、無い知恵を絞ってがむしゃらに行動した。
結果こうなれたから良かったけど、大人の女性への告白としてはわりとダメな方じゃないか?
今思えば赤点ものじゃないだろうか? もっとこう、オシャレなホテルのレストランで~とかさ。
綺麗な夜景をバックに、ワインを片手にみたいな。まあ俺はまだお酒を飲めないけどさ。
「凄く嬉しかったよ。この子、本気なんだなって思えた」
「そ、そう? あんまり格好良くは無かったと思うけど」
「そんな事ないよ。ボクには最高の男の子に見えたよ」
絶賛二日酔いだったのだから錯覚では? と思えなくもないけど、本人が喜んでいるなら良いか。
変に格好を付けようとしても、失敗する事が多いらしいし。まあ美佳子から聞いただけなんだけど。
いずれにせよ俺達は1年間、こうして喧嘩もなく幸せに過ごせたと思う。出会いも始まりもハチャメチャな俺達だけど、無事2年目に突入している。
後で買って来たケーキを囲みながら、2人でささやかなお祝いをする予定だ。来年はもっと楽になっているだろうから、その時はもう少し派手に祝いたい。
今年は本当に美佳子の予定が詰まり過ぎていて、事前にどうしようも無いのが分かっていた。
「来年もさ、一緒にいような」
「当たり前だよ。もう同じ墓にまで着いて行くからね」
「ちょっとホラーなのやめて?」
そんな会話を交わしながら、これからの未来を考える。2年目に入って、美佳子と色んな事をしたい。
今まで行けなかった所にも行く、時間的な余裕も生まれたのだから。想定よりも沢山の時間を過ごせそうな予感がしている。
2人で色んな光景を見て、様々な写真を残したい。壁に飾られたフォトフレームには、まだまだ写真が入れられる。
アレが一杯になって、次の分を買わないといけないぐらいに想い出を残そう。いつかその内、俺が学生で無くなったら今よりもきっと時間は無くなる。
それまでの間に、出来るだけやれる事をやっておきたい。悔いが残らない様に、毎日を大切に過ごそう。
「もうすぐ駅伝だね。今回も応援に行くからね」
「見ててくれ、次は1位を取り返す!」
「うん、楽しみにしているね」
駅伝大会の方だけど、実はちょっとしたトラブルがあって日程がズレた。会場である京都市内の複数個所で、道路下の水道管が破裂する事故があった。
翌日には漏れ出た水は収まったけど、各道路の緊急点検が行われている。駅伝大会開催中に事故があっては大変なので、当然の措置と言えた。
走るこちらとしても、危険はない方が嬉しいし賛成だ。本来ならもう行われていた筈だが、8月頭の開催へと変更になった。
それはそれで遠方から来る学校が大変だけど、何か起きてしまってからじゃ遅い。沢山の観客と大勢の選手が集まるのだから。
「あ、そうそうせっかくだし」
「え? 何? どうしたの美佳子?」
「よっと」
大人しく膝枕をされていた美佳子が、突然起き上がった。何をするのかと思ったら、そのまま俺の方へ向けて体の向きを変えた。
正面から見つめ合う形になり、そのまま美佳子にハグをされた。嗅ぎ慣れた香りに包まれて、美佳子の女性らしい柔らかさをダイレクトに感じる。
暫くされるがままだった俺は、続いて数秒間に渡るキスをされた。突然だったから驚いたけど、嫌な感じなんてする筈ない。
何の意味があったのかは分からないけど、満足感の方が大きいから問題はない。温かな気持ちに包まれている。
「えぇっと?」
「1年間ありがとうと、2年目もよろしくねのチュー」
「あ、ああ。なるほどね?」
そういうのも有りなんだ? そっかじゃあ俺も返さないとなって、何故かこの時は思ってしまい俺からもキスで返した。
何でだろうな? 意味が分からないよ。多分きっと浮かれていたんだと思う。だって俺はこの時、最高に幸せを感じていたからさ。
章タイトルの意味は『愛を育む』です。これにて4章は終了します。そして活動報告にある、『カスカスお姉さん5章について』を読んでおいて下さい。
5章は序盤から本作で最もしんどい展開になるので、何故そうなっているのかの詳細を書いています。共感性の高い人は特に目を通しておく事をオススメします。
後書きに書いたら1話分ぐらいの文章量になったので、この様な対応を取らせて頂きました。




