第203話 意外と面白い人?
7月の中頃、学校は夏休みに突入した。田村さんが頻繫にバイトをしてくれているので、随分と美佳子の健康状態は良くなった。
メイクで隠していたけど、目の下にクマがあるのは気付いていた。やはり簿記3級を持っていたのが大きいのだろう。
経費の入力や領収書の整理など、細かな作業を田村さんはすぐに覚えた。資格を取るのが趣味だというだけあって、新しい事を覚えるのが得意みたいだ。
とても羨ましい頭脳をしている。俺みたいな運動に全振りの男子高校生では、力仕事ぐらいしか手伝えない。
残るは家事での貢献だけだが、それはVBの仕事とあまり関係ないし。
「篠原さん、入力出来ました」
「OK! じゃあ次は発送の準備をお願い」
「分かりました」
俺が洗濯をしている間に、田村さんがどんどん仕事を終わらせている。Vtuberの運営で働きたいというだけあって、事務処理能力が高い。
元々そういうタイプだったのかな。黙々と作業を進めて行っている。学校に居る時は小動物みたいだけど、働いている姿は様になっている様に思う。
スーツとか着ていたら、仕事の出来る人に見えそうだ。ここ最近は田村さんの知らなかった面を色々と見て来た。
学校では目立たないだけで、大人になったら結構凄い女性になるんじゃないか? 大人になったら女性は変わると聞くしなぁ。
「そろそろ晩御飯作るけど、美佳子は何が良い?」
「ん~~~シェフのオススメで」
「了解、じゃあ自由に作るよ」
たまに使われるシェフのオススメ。この場合は特に今どうしても食べたい物が無い時に使われる。
一昨日はパスタをメインにしたから、麺類は避けようかな。日持ちがそれなりで、食べやすいもの。
栄養バランスを考えると、野菜は絶対に入れておきたい。美佳子の健康の為にも、十分に配慮しないとな。
そう言えば今日は水曜日だし、田村さんも一緒に食べる日か。何でも水曜日だけは親の帰りが遅いらしく、元々外食したりコンビニ弁当を買ったりしていたらしい。
だったら一緒に食べようよと、美佳子が誘って始まった習慣だ。今日で2週目になり、田村さんと一緒に晩御飯を食べるのは2回目だ。
「よし、サラダとカレーとポトフにしょう」
「にゃぁん」
「はいはい、野菜が欲しいんだな」
俺がキッチンに向かったのを見て、マサツグが催促に来た。適当に人参を食べやすいサイズに切って、マサツグ専用の器にいれてやる。
カリカリと人参を齧る音をバックに、俺は準備を始める。カレーとポトフとサラダを作るので、沢山の野菜を切らねばならない。
どれに何を入れるかのバランスもあるから、一旦ちょっと考えようか。カレーは人参とジャガイモ、タマネギと……アスパラガスがあったな。
サラダはレタスとパプリカ、ワカメにトマト、豆腐も入れるか。コンソメスープはキャベツとアスパラガスの残りと、ジャガイモとソーセージで行くか。
「うしっ、始めるか」
「にゃー」
「まだ食うのか? ちょっとだけだぞ」
おかわりを催促するマサツグに、キャベツを適当に千切って渡す。それから次々と野菜をカット、先にカレーから作り始める。
先んじてカレーを煮込んでいる間に、コンソメスープも調理開始。両方に余裕が出来たらサラダに手を付けて、先に完成させておく。
カレーをコンソメスープの鍋を交互に見つつ、コンソメスープも完成した。最後にカレーを完成させて、本日の晩御飯は完成した。
そうだ、次の料理動画はカレーにしよう。定番だしな、家庭料理としても。やらない理由もないし。
あっ炊いておいた白ごはんを更に盛る前に、田村さんがどれぐらい食べるか聞かないと。美佳子の食べる量は分かるけど、田村さんはまだ2回目でピンと来ていない。
「田村さーん、ご飯これぐらいで良い?」
「あ、うん、それぐらいで」
「了解」
最後に俺の分を入れて、本日の晩御飯は完成だ。調理器具に熱湯をかけて消毒しておき、一旦はキッチンを離れる。
リビングにカレーとコンソメスープ、そしてサラダを3人分運び入れる。時間は20時前と、そろそろ田村さんの業務は終わりだ。
帰宅部の彼女は俺と違って、部活に時間を取られる事がない。学校のある平日は17時から20時の3時間で、夏休み中はガッツリ5時間から8時間の仕事となっている。
今日は15時から開始だったかな? だから微妙に俺とは帰る時間が違うんだよな。
最近の俺は大体21時まで働いて、帰宅するか少し残って美佳子と過ごしてから帰る。配信がある時などは言うまでもなく帰宅一択だ。
「咲人、あーん」
「はいはい、一口だけね…………あっ、ごめん田村さんの目の前で」
「どうぞ続けて下さい、私はあずマリてぇてぇ勢なので!」
「は、はぁ?」
いまいち理解出来ない概念が登場したんだけど? 田村さんが言うには、マリアちゃんの彼氏はきっと優しくて素敵な男性だと想像していたらしい。
そんな脳内存在とのアレコレを聞いて、今まで楽しんでいたとか。凄い事を言い出したぞこの子。
まあ何かカップリング? とかでてぇてぇとか言う概念? を推す活動もあるらしいけどさ。
それで良いのか田村さん、俺はただのクラスメイトだぞ? 尊い要素が一体どこにあると言うのか。
俺には良く分からないけど、田村さんは喜んでいるみたいだ。どういう理屈かはちょっと分からないけど。
「えっと?」
「推しが幸せなら、OKです!」
「そ、そうなんだ」
田村さんって、やっぱり結構キャラが濃い気がして来たな。学校では大人しいから気付き難いだけで。
結構コミカルというか、美佳子に負けないユーモアがある。ちょっとだけだけど、柴田は本当に田村さんを好きなのかも知れないと思った。
だってこうやって話していると、結構可愛い所があるなと思ったし。もし本当にそうだったとしたら、その時は柴田を応援してやろう。




