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第202話 園田マリアのゲーム配信⑧

カクヨムコンテスト10、最終選考落選! 知ってた!

 夏休みが近付いて来た頃、園田(そのだ)マリアのゲーム配信が行われている。しかも内容は久しぶりのホラーゲームであった。

 夏とホラーゲーム配信の組合せが定番である事と、リスナー達からの強い要望があった事から渋々ながら美佳子(みかこ)は了承した。

 リスナー達が望んだのは、最近流行りの絶叫系インディーズ作品だ。ゲームプレイにマイクを使用し、叫ぶ声の大きさで敵を撃退する内容となっている。

 逆に声を出すとおびき寄せてしまうタイプも人気だ。今回プレイするのは『スクリーマー』という洋ホラーで、タイトルの通り叫ぶ事が求められる。


「ねぇコレほんと大丈夫? ボクもう怖いんだけど」


『大丈夫いけるいける』

『マリアなら余裕やって』

『いつもの感じでやればええ』

『あの音圧ならクリア出来る』

『みんな音量注意だぞ』


 薄暗い森の中でゲームがスタートし、偶然迷い込んだ主人公の青年が彷徨い歩くオープニングムービーが始まる。

 方角も分からず歩いていると、森の中で洋館を見つける。中に入ると白衣を来た血塗れの研究者が倒れており、声を掛けると意味深な言葉を残して息を引き取る。

 そして研究所から逃げ出したモンスターが、音に敏感なので大声を出して撃退しろというチュートリアルが始まる。

 今からモンスターが出て来ますよと言わんばかりの、怪しい雰囲気になり事態が進行していく。

 窓ガラスが割れる音と共に飛び込んで来た、二足歩行の半魚人を思わせるモンスターが主人公に襲い掛かる。


「うわああああああああああああああああ!?」


『これを聴きに来た』

『流石過ぎる』

『瞬殺で草』

『いや声デカwww』

『爆音にも程がある』


 音量のメーターが画面の下に表示されており、声量に合わせてバーが伸び縮みする仕様だ。

 当然の様にメーターが振り切れる程の声量を出した美佳子は、チュートリアルのクリーチャーを一瞬で撃退した。

 ちなみにこれでもマイクの入力を殆ど最低に設定している。元々ハッキリとした喋り方をする美佳子は、声が通り易く声量も大きい。

 歌の為に鍛えた肺活量と腹式呼吸の賜物であった。普通ならばもう少し苦労する所だが、難なく突破した美佳子の成果を見てコメント欄が盛り上がる。

 リスナー達が観たかった通りの展開に、満足気な様子だ。爆音の絶叫でクリーチャーを倒す姿は、彼らの期待を裏切らなかった。


「あ、でもコレならボクでもクリア出来そう。叫ぶだけだからマウスが吹っ飛んでも倒せるし」


『まあ普通はマウスが飛ばんけどな』

『どんだけ怖いねん』

『私もホラー苦手だから分かる』

『音量調整がムズ過ぎる』

『マリアにしてはスムーズに進めている方だな』


 倒せるとは言っても、ホラーが怖く無くなったのではない。その探索速度は牛歩戦術が如き遅さである。

 しかしリスナー達はその大袈裟な程に怖がる姿を観たいので、需要と供給はちゃんとマッチしているので問題はない。

 探索中のちょっとした物音で驚く度に、美佳子が叫んで音量メーターが振り切れる。

 そこがまたリスナー達の笑いを誘い、同時にイヤホンで聞いている者達の鼓膜にダメージを与えていく。

 鼓膜をやられた被害者達の報告もまた、相乗効果で笑いへと繋がる。本来はホラーゲームなのに、最早ギャグの様な配信となっていた。


「もう分かんないよっ! 次の鍵どこっ!? 探すの怖い!」


『さっき目の前にあったやんけwww』

『あれ見えてないマ?』

『思い切り光ってたのに』

『ほんまホラーやるとポンコツ化するよな』

『バトロワ系なら強いのになぁ』


 ホラー演出にキレ、リスナー達のツッコミにキレ、ほぼ半狂乱になりつつもゲームが進行していく。

 難易度自体はそこまで高くないゲームであり、ホラーが平気な人なら大体1時間でクリア出来るボリュームだ。

 しかしホラーが大の苦手な美佳子では、1時間プレイしても半分終ったかどうかの進行度だった。

 それでも中盤まで進めただけマシであり、クリアまで出来ない事も少なくないのが園田マリアのホラーゲーム配信だ。

 1時間で中盤ならだいぶ良い方であると言える。凄まじい大絶叫を上げながら、少しずつ物語が佳境に向かっていく。


「ねぇもうやだ! これあとどれぐらい?」


『もうちょいやって』

『頑張ろう!』

『あと30分ぐらいかな』

『珍しくクリア出来そうだし続けよ?』

『今日は良く叫ぶなぁ』


 リスナー達の励ましで、美佳子は怖がりながらもゲームを進めていく。終盤に相応しく敵のクリーチャーも強くなって来た。

 瞬殺とまでは行かなくなったものの、相変わらず大きな叫び声で襲い来るクリーチャーを倒していく。

 物語の核心である実験の真相を解き明かし、救助要請を出して脱出を試みる事が決まる。

 後は脱出するだけだと言う所で、最後のクリーチャーがボスとして立ちはだかる。今までで一番巨大な体を持つ、3m程ある蜘蛛型の醜悪な見た目だ。

 本来ボリュームはそこまでない作品だが、配信時間は2時間を過ぎていた。配信としてもゲームとしても、クライマックスを迎える。


「どけえええええええええええええええええええええええ!!」


『今日一が出たな』

『うっさwww』

『人間に出せる声量やない』

『もう実質スピーカー』

『あまりにも必死過ぎて草生える』


 これで終われると思った美佳子渾身の大絶叫と、ラストの洋館の爆発音とどちらが大きいかでリスナー達が盛り上がる。

 久しぶりにホラーゲームをクリアした美佳子は、達成感よりも精神的疲労感の方がやや上回っていた。

 エンディングトークと共に投げ銭をくれたユーザーにお礼を言って回り、この日ホラーゲーム配信は終了した。

 なおこの配信の切り抜き動画が、結構な伸びを見せるのは数日後の話だった。

ほなネトコン13に出すわね~の精神で切り替えると同時に、アルファポリスオンリーだった作品を予約投稿で昨日から順番になろうにも投稿し始めています。

先行して昨日から女性向け作品『フィジカル系令嬢が幸せを掴むまで~助けた年下王子からの溺愛~』というイロモノばかり書く私にしては珍しいテンプレ王道モノ。

そして、青春ボカロPカップに出した『あの日、君の本音に気付けなくて』という男子高校生の青春モノを本日から予約投稿で最終話まで投稿しております。両方とも完結作です。


どちらもコンテストに合わせて書いたので、本作とは微妙に作風が違います。もし興味を持って頂けたのであれば、そちらもよろしくお願いします。

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