第201話 実は多才で有能な女子
結局面接に合格した田村さんは、VB初のアルバイトスタッフに決まった。面接の3日後から勤務開始と決まり、本日がその1日目だ。
基本的な業務の殆どが雑用仕事だけど、基礎的な経理の実務経験が積む事が出来る。
高校生としてはかなり良い境遇というか、ためになる環境を与えられた。普通に就職の面接で有利に働きそうな業務内容だ。
美佳子は時間が出来るし、田村さんは社会勉強が出来る。シンプルにウィンウィンの関係が成立していた。
ただまあその……美佳子としてはそれ以上の利益を得ているとも言える。何がって、可愛らしい女の子をゲットした事だ。
「うんうん、良いねぇ美沙都ちゃん。やっぱりJKは可愛いね」
「あっ、えっと、その……」
「美佳子、田村さんが困っているから程々にね」
これが男性であったら大問題になりかねない。そして一応同性でもセクハラは成立するので注意が必要だ。
美佳子が好きなものの1つに、可愛い女の子が含まれている。流石に性的な意味ではないけど、やっている事がおじさんっぽい。
配信でも女子中学生や女子高校生を優遇する傾向にあるし、自ら公言しているのでリスナーの間では有名な話だ。
では田村さんの方はと言うと、案外これが嫌ではないらしい。推しに褒められるのが恥ずかしいとは言っていたけど。
そう考えるとやっぱりウィンウィンなのか? 良く分からない関係性が構築されつつある。
「ほら美佳子、発送作業を教えるんでしょ?」
「おっとそうだった。じゃあ先ずは宛名の印刷だね」
「はっ、はい! お願いします」
VBの販売している公式グッズ類は、全て美佳子が発送している。大手Vtuber事務所と比べたら販売数は少ないけど、多い日は1日で100個発送する日もあるらしい。
宛名の印字から発送まで、2時間ほど掛かる日もあるとか。今では俺もたまに手伝うけど、それでも結構大変だ。
美佳子の睡眠時間を考えれば、結構な負担になっている。たった4時間程度の睡眠で活動している日も珍しく無く、本当に体調を心配していた。
でもそれが美佳子のやりたい事だから、止める事も出来なかった。俺に出来るのは快適な環境を整える事と、健康的なご飯を用意する事ぐらいだった。
「ダウンロードした購入者のデータを編集して」
「あ、これってこうしたら楽に出来ますよ?」
「田村さんもしかして、パソコンに詳しいの?」
「あっ、えっと、色々な資格を持ってて」
以前から資格を取るのが趣味と言っていただけに、面接してから様々な資格を披露している。
硬筆検定2級、書道準師範、整理収納アドバイザー2級など驚きの多才さだ。田村さん本人が言うには、自慢出来る所が何も無いから資格を取って来たらしい。
これまでは資格を色々と取る事で、親からの追及を回避して来たと言っていた。ただそれも、いつまでも通用しなかったからこその今があると。
確かに、取るだけで活用していないと親も疑問に思うか。なまじ書道準師範なんて持っているだけに、書道教室にでも行って働けという圧も生まれるか。
推し活で散財しているなら、尚更にそう思わせてしまったのかも知れない。あとは美羽高校に書道部が無いのも不幸な点か。
「へぇ、思っていた以上に良いね美沙都ちゃん。技能手当でも追加しようかな?」
「えっ!? そ、そんな!? 悪いですよ」
「ううん、成果に対して相応しい報酬が出るべきだとボクは思う」
それは俺も正しいと思う。ブラック労働が散々問題視される今、正当な給料が出ないのは不味い事だと思う。
まあブラック労働なんてやった事ないけど。大人は大変そうだなと思いつつ、自分がそうはなりたくないとも思う。
だからマラソン選手だとか、料理人ってわけじゃないけど。少々収入が少なくても、どうせやるなら好きな事を仕事にしたい。
大人が言うには甘い考えらしいけど、やってもみないで諦めたくはない。別にそれで大金持ちになろうなんて思ってはいない。
そもそも俺が美佳子と同等レベルに稼げるなんて、とても思えないしさ。こんな風に特殊な形で稼げる人が、お金持ちになるのだろう。
「で、でも……」
「大丈夫だよ田村さん。美佳子って凄く稼いでいるから」
「そうそう。それに馬鹿みたいな額は付けないよ。あまりに極端過ぎると、金銭感覚が狂うからね」
申し訳なさそうにしていた田村さんも、最終的には納得してくれた。美佳子は配信だけでなく、投資等でも収益を得ている。
本格的なFX取引ではなく、副収入程度の軽いものらしいけど。それでも相当余裕があるのは確かで、美佳子の懐はまだまだ温かい。
何より自由時間がその分増えるなら、美佳子が払う対価として十分な理由になる。田村さんの多才さによって生まれた分は、その報酬として貰うべきだ。
それにしても本当に色々と出来る子だな。動画編集も可能で十分な技術を持っていたので、最初から時給が高めに設定されている。
極端な額ではないけれど、美羽市の平均時給よりは高い。手当もつくなら、高校生のバイト代としてはやや高めかも?
「咲人も良い人材を連れて来てくれたよ」
「細かい作業とか、得意そうに見えたからさ」
「と、得意なんて事はないよ」
田村さんは謙遜をしているけど、かなり凄い女の子だと思う。それに真面目で人柄も良いと来ている。
ちょっと自信が足りない所はあるけど、それもいつかは改善されそうだ。美佳子と一緒に働く事で、自分に自信を持てる様になれたらいいよね。
自信満々な美佳子となら、結構バランスが取れて良い感じに見える。それに俺も内容は違えど、同じ場所で働くバイト仲間だ。
せっかくだし田村さんを応援しようと思っている。友達として仲間として、そして園田マリアのファン同士として。
俺と美佳子と田村さんの、ちょっと不思議な関係が出来上がりつつあった。俺達の新たな日常が、こうして始まったのだった。
もしもしポリスメン?




