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第200話 田村美沙都と篠原美佳子

連日ランキングに載り続けた結果、4日ほどで4万以上のPVを記録し20万PVを突破しました!

そして総合評価が1000の大台を超えました! 4桁なんて無理だよと思っていたのにこんなに早く到達するとは思いませんでした。

これも全ては皆様のお陰です! 本当にありがとうございます!

 田村(たむら)さんに真実を教えてから数日後、遂に面接の日がやって来た。7月15日の土曜日、19時からが面接と初顔合わせの予定時刻だ。

 美佳子(みかこ)の自宅への案内は俺が行い、玄関の前まで田村さんを連れて来た。俺にも伝わるぐらい、田村さんは緊張している様子だ。

 小学生の頃から応援して来た人物と会うのだから、そりゃあ当然の反応ではあるけれども。

 その上でバイトの面接も行うのだから、ちょっと俺には心情を推し量るのが難しい領域にある。

 俺が憧れているプロの陸上選手と、同じチームでリレーを走る様なものか? 多分そうではないけど、多少は近い緊張感じゃないだろうか。


「それじゃあ開けるよ?」


「う、うん……あ、待って! もう1回だけ深呼吸させて」


「良いよ。まだ約束の5分前だし」


 廊下で2度目の深呼吸を田村さんが行う。準備が出来て頷いたのを見て、俺がいつも通り合鍵でドアを開ける。

 俺には見慣れた風景でも、田村さんにとっては初めて見る景色だ。そしてあまりにも見慣れ過ぎた物体を発見した。

 今日が面接だからと昨日の内にしっかり掃除をしたのに、なぜ玄関に入ってすぐビールの空き缶がある?

 飲みながらネット通販の荷物でも受け取ったのか? 靴箱の上に一旦置いて判子を探したな?

 ありありとその情景が思い浮かぶ。とりあえず回収しておくとして、田村さんは大丈夫か? こんな玄関を見て幻滅は……する筈ないか良く知っているのだから。


「何でちょっと嬉しそうなの田村さん?」


「え? だって本当に汚部屋だったんだよ?」


「……園田(そのだ)マリアのファン的には、この反応が正解なのか?」


 確かにリスナーの大半が、美佳子のだらしない所を面白がっているけどさ。もしかして、昨日の内に頑張って掃除する必要は無かった?

 むしろ散らかっていた方が喜んだのか? いやいや、流石にそれはないだろう。ないと言って欲しい、俺の苦労が浮かばれ無さ過ぎる。

 でも聞いてそうだと答えられたら、地味なダメージを負うハメになるしなぁ。ここは触れない方向で行こう。

 世の中には知らない方が幸せな事は沢山あるのだから。来客用のスリッパを田村さんに渡して、リビングへと向かう。

 入るなり飛びついて来たマサツグを抱いて、本日の面接官で社長でVtuberの美佳子へと声を掛ける。


「美佳子、連れて来たよ」


「ありがとう咲人(さきと)


「しっ、し、失礼します!」


 ガチガチに緊張した田村さんが、入るなり深く頭を下げる。そんな勢い良くお辞儀しなくても良いのに。

 でも落ち着いてと伝えても、今の田村さんには難しいよな。ややテンパり気味な田村さんを宥めつつ、美佳子に田村さんを正式に紹介する。

 お互いに自己紹介も交わしつつ、田村さんと美佳子が対面した。片や10年近く人気Vtuberとしてやって来た女性。

 片や10年近くそんな相手を応援して来た、1人のファンの女の子。偶然か奇跡か、それとも神様の悪戯が働いた結果か。

 普通はそう簡単に起こらない出会いが、今目の前で繰り広げられている。この出会いが後に伝説に……なったりはしないか流石に。


「あっ、あの! 私、マリアちゃんが昔から大好きですっ!」


「……どうしよう咲人? JKの女子に告白されちゃった」


「いや普通にファンの子として接しなよ」


 美佳子は可愛い女の子を好む傾向にあり、田村さんの様な大人しいタイプが特にお気に入りだ。

 あまり心配はして居なかったけど、相性はそう悪く無さそうだ。良い意味でも悪い意味でも。

 ともかく一旦は、ただのファンとVtuberの演者として会話が続いた。俺にとってもそうだけど、美佳子にとっても貴重な古参ファンだ。


 小学生の時からずっと、園田マリアを推し続けてくれた相手。こうして会ってしまうのは、他のファンに悪いかも知れない。

 平等ではないかも知れないが、何事も縁というものはある。有名人と知り合いな人が、全員ズルをしている訳ではない。

 それに主目的はあくまで美佳子の負担軽減と、田村さんのバイトだ。結果的に活動に活かされるのだからトータルでプラスだ。


「ありがとうね田村さん。さて、ここからはお仕事の話だよ」


「は、はい!」


「先ず基本的な業務は、経費の記録やグッズの発送作業だね」


 事務的な雑用がバイトとしての業務だ。俺は良く知らなかったけど、そう言った諸々は全部外部に丸投げ出来ない場合があるらしい。

 勝手に全部、税理士とか会計士がやってくれると思っていた。でも実際は全部やっていない税理士や会計士の事務所もある。

 他にも料金が大きく変わるなどのデメリットも存在し、必ずしも丸投げがプラスとは限らないみたいだ。

 トータルで見ると、会計ソフトを使う方が良かったと聞いている。あとはその分を所属ライバーの収入に回したいとも言っていた。

 美佳子の事だから、後者の方が理由として大きそうだ。社員にはしっかりと支払え、と以前にも配信で言っていた。


「簿記3級なら、ある程度は分かるよね?」


「じ、実務経験はありませんが、知識としてはあります」


「最初から完璧を求めていないから、そこは安心してくれて良いよ。ちゃんとボクが教えるから」


 こうして経営者をやったり投資をしたりする等、美佳子の社会的な知識と経験は結構豊富だ。

 私生活に目を瞑れば、非常に優秀な女性だと言える。その私生活がかなり豪快と言うか、ハチャメチャと言うか。

 世の中には完璧な人間なんて居ないのだと、教えてくれていると考えれば二重の意味で優秀だ。

 …………いやよそう、都合良く考えるのは。どう考えてもそんな崇高な目的で美佳子は散らかしていない。

 普通に面倒くさいからやらないだけだ。ダメなものはダメと言える彼氏で居よう。まあそれも、最近は怪しい気もするけど。


「週3日から4日までいけるんだ? 大変だけど大丈夫?」


「えっと、将来Vtuber関係の企業に就職したくて」


「なるほどねぇ。じゃあ良い経験になるかもね」


 俺は今回の件では、あまり美佳子に情報を渡していない。志望理由などを全部俺が伝えてしまうと、余計なお世話になると思ったからだ。

 熱意とかそういう部分は、田村さんが自分で話すべき事だ。俺はマサツグが邪魔をしない様に抱いたまま、心の中で田村さんを応援しつつ見守り続けた。

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