第199話 田村さんに紹介出来るアルバイト
5/24の連載中の注目度ランキング1位になっていました。小説家になろうのトップページに本作が居るなんて……しかも日間ランキングやら週間ランキングやら色んな所にまで……皆様のお陰です! クソお世話になっております!
美佳子とVBが必要とするバイトの話をした翌日、俺は早速田村さんに話をする事に決めた。
朝練の終わりに声を掛け、お昼に2人で話しがしたいと伝えて一旦終了。スマートフォンからメッセージで合流する場所を送信しておく。
後は午前の授業が終わるまで待って、昼休みに弁当を持ってとある場所へ向かう。少し前に一哉から教えて貰った、とある人物が居る筈の場所。
それは学校の屋上であり、本来は鍵が掛かっている場所だ。しかしお昼休みだけは特別で、阿坂先生がタバコを吸っているらしい。
何故そんな事を知っているのか一哉に尋ねたら、調べたとだけ言っていた。執念は素晴らしいけど、若干ストーカー臭い。
それはそれとして、今は田村さんだ。階段を上がって屋上に出る扉の前で、待機していると少し遅れて田村さんが来た。
「ご、ごめん東君。待たせちゃった?」
「大丈夫だよ、全然待ってないから」
「それで、話って?」
「あ、ちょっと待って」
扉が開いているか、一応確かめたい。一哉の情報がただのデマだったら、扉の前で話すしかない。
ここは人があまり来ないけど、絶対に誰も来ないとは言えない。余計な情報漏洩のリスクを残すのは避けたい。
阿坂先生しかいない屋上が、現状では最も内密な話をするのに向いている。それで、一哉の情報は正しかったのか……良かった鍵は開いていた。
扉を開ければ白衣の美女が1人、屋上でタバコを吸っている。いつだったかを思わせる、懐かしい光景が目の前に広がっていた。
そう言えば、阿坂先生に相談してから結構経ったな。あの日の事が、随分昔の様に感じる。
「またか東。ここはお前専用の逢引きスポットじゃないぞ」
「変な事言わないで下さいよ! 真面目な話し合いがしたいだけです!」
「ふっ。立ち入り禁止の場所に入る不良生徒が、真面目な話とはなぁ」
相変わらずの対応だったけど、屋上を使う事は黙認してくれるみたいだ。少し日陰になっている位置に田村さんと移動して、お互いに昼食を食べながら話を始める。
暑いけど少し風があるから、昼休みの教室よりは少しだけマシだ。先ずはまだバイトを探しているのかを確認する。
既に決めていたら意味がないからだ。その答えはまだ決まっていないとの事で、応募すらまだやっていない様だ。
どうやら丁度良いタイミングだったらしい。先ずは事務系の仕事に興味があるかや、事務に関わる資格の有無を聞く。
「資格を取るのが好きって言ってたよね? 簿記は持ってる?」
「も、持っているよ。まだ3級だけど」
「なら行けるか? 実は、田村さんに紹介したいバイトがあるんだけど」
美佳子が望んでいた最低ライン、簿記3級以上又は取得してくれる人という条件はクリアしている。
Vtuberに関する知識は聞くまでもなく持っているし、色々と理解があるのは言うまでも無いだろう。
そして本人としても、事務の様な接客の少ない仕事が良いらしい。尚更こちらの都合と合うし、きっと本人も遣り甲斐がある筈だ。
これは良いチャンスかも知れない。美佳子の負担が減れば、俺も過剰に心配しないで済む。
後は田村さんがやりたいと言うかと、実際に出来るかどうかだ。田村さんが推しに近付きたくないタイプだったら、この話は終わってしまう。
やってみて出来なかった場合も、やはりそれで終わる。それでも先ずは、伝えてみないと何も始まらない。
「まあその、面接に行けば全部分かるから言うけどさ。Vtuberの事務所で働かない?」
「ぶっ!? えぇっ!?!? ど、どういう事!?」
「いやまあ……何て言うかな。今まで黙ってたけど、恋人が事務所の社長をやっててさ」
田村さんが今までに見た事がない程に、表情がコロコロと変わっていた。こんなリアクションもするんだなぁとか、少し考えてしまった。
思っていた以上に可愛らしい女子なのかも知れない。普段から怖がらずに、これぐらい感情を見せれば良いのに。
ともかくそんな訳で、今まで隠していた俺と美佳子の事情と関係性を少しずつ説明していく。
本人もVtuberをやっていて、大手企業ではないけど人気はある事など、なるべく丁寧に話を進める。
間違いなく田村さんにとって、衝撃的な内容になるのは分かっているから。情報の嵐になり過ぎない様に、なるべく注意を払う。
「え? え? 去年の夏休みに交際をスタート? えっ!? それって!?」
「そう。俺が紹介したいバイト先はVirtual Boxで、園田マリアを演じている人が俺の恋人なんだよ」
「うぇええええええええええええええええええええええ!?!?!?」
まあそうなるよね、ごめんね何か驚かせて。ただ将来Vtuberの運営に就職したいと言っていたから、これはきっといい経験になると思うんだよ。
それに俺としても、感謝の気持ちをより示し易くなる。美佳子だって助かるし、誰も損をしない皆が幸せになれる最高の形だ。
もちろん田村さんが嫌じゃなければなんだけど、反応は…………ああ、田村さんが驚愕のあまり固まってしまった。
そして煩いぞと言わんばかりに、鋭い視線を遠くから感じる。すいません今だけなんで、そう睨まないで下さい。
視線の主に向かって頭を下げつつ、田村さんの復活を待つ。暫くフリーズしていた田村さんが、どうやら意識を取り戻したらしい。
「あ、あのっ! その……本当、なんだよね?」
「俺がこんな嘘をついても仕方ないだろ? ちなみに俺は彼女の家事代行をやっている」
「こ、こんな身近に凄い人が居たなんて……」
「いや俺は凄くないからね? 美佳子が凄いだけで」
何だか良く分からないけど、尊敬の眼差しを向けられている。本当に俺は何も凄くないし、多分きっと美佳子の話だよね?
まあ一応は、園田マリアの生活を支えていると言えるかも知れないけど。……支えられて、は、いる……のか?
いやうん、美佳子がそう言ってくれたから多分支えている。そして一番肝心な田村さんの答えは、面接を受けたいとの事だった。
これで後は美佳子の判断がどうなるかだ。面接と顔合わせの日時が決まったら、また連絡すると伝えて今日の話し合いは終了した。




