第197話 部活後に食うラーメンは美味い
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部活終わりの夕方、一哉と柴田の2人と一緒にラーメン屋に来ている。こってり系で有名な『麵屋 一品』は地元の人間なら麺一と呼ぶ。
少しドロッとした濃いめのスープが特徴で、濃厚なラーメンが食べたい時に良く食べに来る。
麺一は学校の最寄り駅である美羽駅から、徒歩15分ぐらいの距離だ。駅前の繁華街から少し離れた裏通りだが、純粋に美味しいので知っている人は多い。
夕食には少し早い時間だけど、既に順番待ちの待機列が出来ていた。19時や20時に来ると、整理券が配られるぐらいには並ぶ程の人気店だ。
「げっ、見ろよ咲人。もう並んでるぞ」
「仕方ないさ、並ぼう。柴田は時間大丈夫か?」
「問題無い」
陸上部の男子3人組で、列の最後尾に並ぶ。雑居ビルが建ち並ぶ一角で、脇道に逸れた狭い路地の間に麺一はある。
隣のビルに設置された、室外機の生温い風がまた絶妙に涼しくない。蒸し暑い気温の中で、ただひたすらに待つのみ。
2号店の方なら大型商業施設の中にあるから涼しいけど、学校からは二駅離れた場所にある。
それにこの本店の方が美味しいと専らの評判だ。俺もそう思うし、どうせ食べるなら本店の方が良い。
少し蒸し暑くて辛いけれど、3人で雑談をしながら順番が来るのを待つ。結局20分ほど待った頃、俺達の番が回って来た。
「お次お待ちの東様―! カウンター席にどうぞ」
「はい! 俺達だ、行こう」
「おっしゃー! 食うぜ」
空いているカウンターに3人で並び、各々注文を頼み始める。一哉はノーマルの魚介豚骨ラーメンの特大で、俺は旨辛豚骨つけ麺を注文。
柴田が最後に味噌豚骨ラーメンの大を頼んで注文は完了した。なお3人共ライスを別途頼んでいた。
何だかんだ言って、部活帰りは腹が減る。帰ったら食う晩飯のカロリーを計算しないと、俺も山崎さんに怒られてしまう。
頭で分かってはいても、食欲に抗えない時はあるんだ。それに麺を3玉にせず、2玉で済ませた所にちゃんと計算が含まれている。
そんなの大差ないと指摘されたら、何も反論は出来ないけど。だけど食べたい時に食べないのは、健康に良くないって誰かが言ってた。
「おい柴田、お前ネギ嫌いなのかよ? 抜きで頼んでたけど」
「アレルギーなんだ」
「へぇ~、大変だな」
柴田の意外な一面を知りつつ、再び雑談に戻る。暫くは陸上部に関する話をしていたけど、途中から学校の話に変わった。
一哉のいつもの女子に関する話題が始まり、美術部の先輩と仲良くなったとの報告が入る。
お前は大人の女性と付き合いたいのでは無かったのか? とツッコむも、これはこれらしい。
結局はそれまでの主張と関係ない女子と付き合う事も多いから、話半分ぐらいで聞くのが丁度良いんだよな。
一応年上ではあるから、大きくは逸れなかったって所か。まあまだ付き合い始めたわけでは無いらしいけど。
でもどうせ付き合うんだろうな、という予感しかない。モテる男は選び放題で羨ましい限りだ。
「そういや柴田って、今彼女は?」
「いないよ」
「そうなんだ? モテてるのに?」
勝手に居るイメージがあったけど、3月に前の彼女と別れて以降は恋人を作っていないらしい。
駅伝大会に向けて、春から忙しかったのもあるのだろう。俺も伸び悩んでいたから、気持ちは少し分かる。
今では俺にとって美佳子が精神的な支えになっているけど、もし出会っていなかったら恋人を作る機会なんて無かった可能性は十分あるよなぁ。
そんな会話をしている内に、俺達の注文が続々と運ばれて来たので食べ始める。真っ赤な唐辛子の色に染まったスープが実に美味そうだ。
暑い時に敢えて辛い物を選ぶ、これが中々良いんだよな。それぞれ食べながらも、一哉が今度はクラスの女子に話題を変えた。
ここでは修羅が現れる危険がないので、一哉は言いたい放題だ。そう言えば丁度良い流れだし、柴田に田村さんの事を聞いてみよう。
「なあ柴田、田村さんって何かあったのか? あんまり元気なかったけど」
「母親に条件を付けられたんだって」
「条件? 何の?」
柴田が聞いた話では、これからも推し活を続けたければ部活に入るかバイトをしろという事だった。
前にも確かそんな事を言っていたけど、遂にそれがより厳しくなったという事か。まあ親ならそんな感じの対応をするよな。
ゲームばかりするなとか、良くある話だし。俺も昔に何度か言われた事があった。陸上にハマってからは、陸上一辺倒だったからゲームは殆どしなくなったけど。
でも田村さんはそうじゃないから、何かしらやれと言われてしまったと。就職の事を思えば、高校の間に何かしておけって事かな?
部活かバイトって定番だもんな。大学の面接では、高校時代に何をしていたかって聞かれるらしいし。
「ま、今から部活は厳しいんじゃねぇ?」
「そうだな」
「2年の夏からじゃあ中途半端だしなぁ」
高校生でもやれるバイトって、あんまり多くないけど無くはない。俺だって今も家事代行を続けているし、バイトさえやれば良いのならそう厳しくも無いのか。
幾ら稼げと金額を指定されていないのなら何とでもなる。それにグッズを買う軍資金にもなるんだから、推し活がしたい田村さんに丁度良いか?
例えば新聞配達なら接客でも無いし、他人に話し掛けるのが苦手な田村さんでも出来ると思う。
少し可哀想ではあるけど、メリットがあるのだから気持ちを切り替えれば何とでもなりそうだ。
それが出来ない人間性でもないし、その内に復活するんじゃないかな。……ん? あれ? なんだろう……何かが今俺の記憶を刺激した様な?
「どうした咲人、手が止まってるぞ?」
「いや、うん、すまん。何でもない」
「なら良いけど」
この時感じた違和感が、思い出されるのは数日経った後だった。そこで改めて、田村さんとの出会いには意味があったと思い知る。
見かた次第では、運命的な出会いとも言えるのかも知れない。思ってもみなかった形で、新しい関係に発展する事になる。




