第195話 マサツグと新たな出会い
6月下旬の日曜日、夕方から俺は美佳子の家に居た。この前気になっていた、猫用の自動給餌器が美佳子の家に届いたからだ。
ネット通販でちゃんと注文していたらしい。獣医師が監修した立派な商品で、なんと2万円もしていた。
随分高いなと思ったら、暗視機能付き見守りカメラまで付いているみたいだ。専用アプリで確認が出来るので、美佳子の配信中や俺が行けないタイミングでも安心だ。
また飼い主の声を録音する機能もあり、餌の時間になったら自動でマサツグを呼ぶ事が出来る。
今はこんな便利な物があるんだなぁ。うちで犬を飼っていた頃には無かったし。知らなかっただけの可能性もあるけど。
『マサツグ~ごはんだよ~』
「うん、これで良いかな」
「凄いな。ちゃんと美佳子の声だ」
当たり前なんだけど、実際に動作の確認をしてちょっと感動した。そして当のマサツグは新しい装置を見て、不思議そうな表情をしていた。
機械から美佳子の声が聞こえたからか、それとも別の理由なのか。ジッと自動給餌器を見つめていたけど、餌が出て来たので結局は食べていた。
もしかしたら少し警戒していたのかも知れない。猫は警戒心が強い生き物だから、新参者の様子が気になったのだろう。
早速インストールしたアプリを起動してみると、マサツグの餌を食べる姿が映っていた。これは便利で良いな、自宅に居てもマサツグの様子が確認出来るし。
「へぇ、1日に最大で20回も自動で餌を出せるのか」
「そうだよ~。でも基本は朝昼晩の3回で良いかな」
「食べすぎは良くないし、それで良いと思う」
マサツグの反応を録画する為なら、6回ぐらい設定したい所だ。しかしそれでは太ってしまい兼ねない。
ペット系配信者なら有効に使うのだろうけど、美佳子はそのタイプではない。普通にマサツグが今まで食べていた時間にセットして終了だ。
これで美佳子の負担も減って丁度いい。どうしても美佳子は不規則な生活になりがちなので、とても心強い味方である。
まだ少しマサツグが警戒しているけど、その内慣れてくれるだろう。最終的に爪で傷だらけになる可能性はあるけど。
大人になったマサツグの爪は、猫科として申し分ない鋭さだ。爪とぎで段ボールなどが良くボロボロにされている。
「あ、そうそう。新しい爪とぎも届いたんだよねぇ」
「また新しいの買ったんだ?」
「今回はね~リスナーさんがオススメしてくれたヤツだよ」
そう言えばこの前、配信でそんな話をしていたな。美佳子が移動させて来たのは、人の足よりも太くて、俺の腰ぐらいまである長方形の段ボール箱だ。
開封すると中には、爪とぎ用のシートが巻かれた円柱形のポールが入っていた。付属の土台を組み立てて、床に立てて設置するタイプの様だ。
これまでにも壁に設置するタイプや、床に置くソファタイプも使って来た。このポールタイプは今まで使っていなかったけど、マサツグは気に入るだろうか。
2つの新しい道具の登場に、マサツグは興味津々の様子だ。新しい段ボール箱まで増えて、沢山遊ぶ事が出来るからだろう。
待ちきれないとばかりに、空いた段ボール箱に早速マサツグが突撃した。先にそっちから行くのかと、思わず笑ってしまった。
「ちょっとマサツグ~? そっちじゃなくてこっちだよ」
「ホント好きだよな、段ボール箱」
「猫は空き箱が好きだからねぇ」
猫は箱の中等の狭い空間を好む傾向があるらしい。安心出来たりリラックス出来たり、単純に好奇心から来る面もあるそうな。
猫には猫の色んな習性があるんだなと、新たな学びになったのを覚えている。ただそれはそれとして、今は新しい爪とぎを使って欲しい所だ。
爪とぎ用ポールの天辺には、猫が遊ぶ為のボールが付いている。それを使ってマサツグの興味を誘い、ポールの方に向かわせる。
矛先を変えたマサツグが、爪とぎポールで遊び始めた。結構な太さがあるので、ポールの天辺に乗る事も出来る。
飛び乗ったマサツグが、付属の紐が付いたボールに猫パンチを繰り返す。一心不乱にバシバシと叩くたび、ボールがマサツグの方に戻っていく。
「気に入ったみたいだ」
「良かった~両方受け入れてくれて」
「これで美佳子もだいぶ楽になるね」
「それもあるんだけど、マサツグを留守番させる機会が増えるからねぇ」
おっとそうだった。マサツグが成猫になるまでは、あまり2人で遠出をしない様にして来た。
だけど来月訪れる夏休みには、去年よりも2人で遊びに出掛ける機会を増やす予定でいる。
マサツグを連れて行ける所は良いけど、行先が海やプールだと難しい。夏だからこその定番イベントだから、泳ぎに行くのは外せない。
となるとマサツグには、家で大人しく待っていて貰う必要がある。それを思えば今回の新しい道具達は、理に適った商品揃いだ。
特に自動給餌器の見守りカメラ機能は大きいだろう。今家でどうしているか、遠く離れていても確認出来るのだから。
「もうすぐ7月だからねぇ~今年は2人で色んな所に行こう」
「今年は花火しない? 見るだけじゃなくて」
「おお! 良いねぇ。だったら鏡花ちゃん達も誘おうか!」
まだ少し先だけど、夏休みの予定が早くも色々と出始めた。去年とはまた違った夏の予感に、期待感が高まっていく。
もちろん夏は楽しい予定だけじゃない。全国駅伝大会の本戦も待っている。今日もついさっきまで、ジムでトレーニングをして来た所だ。
着実に調整は進んでいて、タイムも良い感じに伸びて来ている。後はこの調子で続けて、本番で成果を出すのみだ。
そう言う意味では大会の方も楽しみとも言える。どう転ぶかは分からないけど、少しずつ近付いている夏本番。
どんな未来が待っているか、この時はそこばかり気にしていた。だから忘れていたんだ、少し前に起きた出来事すらも。
今更ですが総合評価が670を超えました! ブクマや評価を入れて下さった皆様、本当にありがとうございます!
500を超えるだけでも作品全体の数%みたいで、正直驚いております。なろうテンプレとかだいぶ無視しているにも関わらず、まさか1年と2ヶ月程でこうなるとは思ってもいませんでした。
また誤字報告も非常に助かっております! ありがとうございます!




