第191話 美佳子と行く温泉旅行 前編
遂に来てしまったというか、やっと来たというか。あっと言う間に日々は過ぎて、美佳子との温泉旅行に来ている。
隣の県にある海が近い温泉街で、長年続いている旅館に宿を取った。創業100年を超えるらしい立派な温泉旅館で、木と畳の香りが漂う良い部屋に案内された。
日曜日の朝に出発して、昼には到着する事が出来た。お昼は適当に食べ歩きをしながら、マサツグを散歩させながら過ごした。
夕食は旅館で海の幸を堪能し、高校生にしては贅沢な食事が出来たと思う。そこまでは良かったんだ、そこまではね。
問題はその後というか、今まさに問題が発生している。完全に日の落ちた20時過ぎ、宿泊している部屋のお風呂に俺は美佳子と一緒に居た。
「いやぁ~やっぱ露天風呂付きの客室は良いよねぇ。ゆっくり月見酒が出来るから」
「そ、そうだね。でもあんまり、飲み過ぎないでね」
「分かってるって~流石にボクも旅行先では控えめにするから」
そう言いながらもお盆に乗せた熱燗を、湯船に浮かべながら美佳子がお猪口でお酒を飲む。
俺達が居るのは露天風呂であり、2人で同じ湯船に入っている。まさか美佳子が一緒にお風呂に入ろうなんて、急に言い出すとは思っていなかった。
ただ元々そのつもりだったのか、水着を持参して来ていた。つまり今の美佳子は水着姿で、全裸ではない。
全裸ではないけど、美佳子の様なスタイルの良い美女が正面にいるのは変わらない現実だ。
彼女と一緒にお風呂だぞ? 水着の有無になんの意味がある? あっても無くても特別な状況なのは変わらないだろう。
「せっかくの温泉だからさ~、咲人と一緒に楽しみたかったんだ~」
「それで、こうなったと?」
「そうだよ。嫌だった?」
「嫌なんて事はないけど、目のやり場に困るというか」
見たいか見たくないかで言えば、そりゃあ見たいに決まっている。でも幾ら付き合っているからと言って、お風呂で相手の体をジロジロ見るのは失礼だ。
日本人的価値観からして、明らかなマナー違反だと思う。女性か男性かは関係なく、同性であっても褒められた行いではない。
まあぶっちゃけ女性である事が、何よりも大きい理由だけどね。仕方ないじゃないか、俺だって男なんだから。
ここで見たいと思わない男性が居るなら、どんな人生を歩んでいるのか教えてくれ。きっと俺には理解が出来ない日々を送っているに違いない。
「別に良いけど? 咲人になら見られても」
「いやでも、なんか悪いし」
「ほら、こっち」
そう言うと美佳子は、俺の頭を掴んでグイっと動かした。顔を少し横に逸らしていた俺の顔は真正面を向かされ、必然的に視界に美佳子の姿が入る。
アルコールの効果で少し赤くなった美佳子の白い肌が、異常なまでの妖艶さを醸し出していた。
水色の生地に花柄の入ったビキニとパンツで隠れていても、まるで全裸を見たかの様に感じてしまう。
むしろ見えない分余計にヤバイというか、更なる余剰効果が追加されている。恋人とお風呂って、こんなに危険な行為だったのかと新たな驚きが俺を襲う。
ただお風呂に入っているだけで、いやらしい意味はないのに何故だ? 美佳子にそんなつもりは無いと言うのに。
「せめて顔ぐらいは見てよね」
「そ、れは、ごめん」
「あのね咲人、無理に我慢しなくて良いんだよ?」
それはどう言う意味でおっしゃられています? あれ? 卒業する前から解禁に変更されました?
知らない内にアップデートされた? え、OKって事で良いのですか? もしかして俺の勘違いじゃなくて、やっぱり今日はそう言う日だった?
卒業前に卒業してしまう感じ? そんなまさか、いやでも……だったらマサツグをわざわざ連れて来るか?
本当にそれが目的なら、完全な2人きりにするのでは? いや美佳子がそう言うのは気にしない派の人である可能性もあるか?
だけど…………駄目だ煩悩が108では足りないぐらい浮かんでは消えていく。除夜の鐘でもこんなの祓えないぞ。
「2人きりの時に彼氏からエッチな目を向けられたとしても、ボクは嫌じゃないから」
「……あ、ああそう言う……え? 良いの?」
「好きでもない人に性欲を向けられたら気持ち悪いけど、咲人は恋人だから平気だよ」
魅力的だと思われているのだから、不快感はないと美佳子は言う。ムードを壊さない程度なら良いんだってさ。
分からねぇ、女性ってそうなのか? 普通は嫌がるものなのでは? だから悪いなと思って、いつも気を着けて来たんだけどな。
これが無理をしているって事になるのか? まあ確かに無理って言えば無理か? 強引に自分を律しているのだから、素直になってはいないか。
それを止めて良いと言うなら、お言葉に甘えて良いならそうさせて貰うけどさ。本当に良いんですね?
後からやっぱり無しは困るからね? 美佳子が言ったのだから、視線を逸らすのを止める。
「やっとちゃんと見てくれたね」
「……だって、美佳子が綺麗だから」
「そう思っているのなら、正直に示して欲しいんだよ? ボクだってこれでも女性だからね」
ああそっか。俺が無理に欲求を抑える事は、逆効果になってしまっていたのか。まるで俺が美佳子に、異性として魅力を感じていない様に思わせてしまうのか。
魅力的だと感じたのなら、ちゃんと示さないとダメだったんだ。どこでも所構わずは行き過ぎだろうけど、こう言う時は素直になって良いんだ。
自重が必ずしもプラスになるのではないと。これからは2人きりの時はもう少し、自分の気持ちに素直になる様にしよう。
という新たな学びもあったけど、そんな事より美佳子の姿が魅力的過ぎて色々と大変でした。
でもコレがピークでは無いんだよな。最後の難関がまだ残っている。そう、ダブルベッドでの就寝である。
15万PVを先日超えました本当にありがとうございます!




