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第188話 お昼休みと料理の腕

 美佳子(みかこ)と改めて話し合った結果、学校では一哉(かずや)澤井(さわい)さんに。そして幼馴染の夏歩(なつほ)和彦(かずひこ)にだけは、美佳子が配信者である事を打ち明けた。

 どちらの場合でも、それほど大きな驚きは無かった。むしろ納得がいったという空気であっさり終わった。

 Vtuberである事は伏せたが、そもそも4人共があまり興味のない分野だ。澤井さんだけはコスメ関連で少し質問をして来たぐらいか。


 本当に今更ながら、化粧品メーカーではないと分かって貰えた。余計な誤解を生む前に、さっさと話しておくべきだったかもしれない。

 ともかくこれで誤解も解け、一先ずは余計な気遣いをあまりせずに過ごせる様になった。あくまで一部の相手だけに限っての話だけど。

 他のメンバーが居る時は、これからも気を付ける必要はあるけど。今の様に、柴田(しばた)田村(たむら)さん達も一緒にお昼を食べている時とかね。


「相変わらず咲人(さきと)の弁当は美味いな」


「普通のから揚げだぞ?」


「いいや、これは金を取れるね」


 一哉がおかずの交換を申し出たから、俺のから揚げと一哉の卵焼きを交換した。有難い評価ではあるけど、まだまだ商売に出来るレベルでは無いと思う。

 あ、でも美佳子の家で家事代行としてお金を貰っているよな? そう思えば一応はお金になるだけの調理が出来ているのか?

 去年の文化祭でも出店をした訳だし。実際の所はどうなんだろうか? アマチュアぐらいは名乗れるのか?

 プロは当然有り得ないとしても、もしかして料理動画を出せばそれなりに観て貰えるぐらいには作れているのか?

 せっかく4人も近くに居るのだから、ちょっと他のメンバーにも聞いてみよう。主観だけでなく、他人の意見も大切だ。


「そんなに美味いのかな? 他の3人も食べてみてよ」


「分かった」


「ラッキー! (あずま)君の料理だ」


「じゃ、じゃあ、その、頂きます」


 これで俺のから揚げは無くなってしまったけど、皆の意見を聞く為だ。料理人も目指すと明確に決めた以上は、こんな風に人に食べて貰う機会も増やそう。

 皆の反応次第では、料理動画でも上げてみようか? それで反響があるのであれば、いい経験になるだろうし。

 味付けに関する意見も募る事が出来て良いかも知れない。身内だけの評価にならない分、厳しい意見もあるかも知れないけど。

 その辺りはまた美佳子に相談すれば良い。その道のプロが近くに居るから安心だ。撮影の仕方とかも、美佳子なら良く分かっているから。


「東、食堂で働いてた?」


「いやそんな経験は無いけど」


「す、凄い、東君。お母さんより美味しい」


 俺の料理を初めて食べた田村さんと、去年やった文化祭でのメイド&執事喫茶しか知らない柴田が驚いていた。

 澤井さんはいつも通りの反応で、美味しいと言ってくれた。高校生の感想と言ってしまえばそれまでだけど、それでもこんなに評価して貰えるのは嬉しい。

 やっぱりそれなりの腕前があるのかも知れない。調理師免許を取得する前段階として、料理動画を本気でやってみようかな。

 主婦の方々からの意見も貰いたいし。何よりシンプルに家事代行の質も向上させられる。美佳子により美味しい料理を提供出来るかも。


「な、なあ。俺が料理動画とか出したら、観て貰えるかな?」


「面白そうじゃん咲人! やってみろよ」


「東君は教えるのも上手かったし、私は有りだと思うな」


 概ね好評だったから、少し緊張するけどやってみるか。全国の主婦の皆さんに胸を借りるつもりで、やらせて頂くとしよう。

 これは帰ったらすぐ美佳子に相談だな。この後にでも連絡しておくか。寝ているかも知れないから、メッセージだけにしておこう。

 思いつきの行動である以上は、大人の意見も聞いておきたい。勢いだけで出来る事でもないだろうし、何より動画の作り方も知らない。

 先ずはそのスタートラインに立つ所から始めないと。あとは動画サイトのアカウントも有料版にした方が良いかとか、聞いておくべき事はまだまだ有る。


「あ、東君が配信者に!?」


「そんな大層な話じゃないから。大人のアドバイスとか欲しいなと思って」


「じゅ、十分凄いよ! 東君が投稿したら観るね!」


 動画は出しても、Vtuberにはならないんだけどなぁ。それで有名になって稼ごうとか思ってはいない。

 世間的に見て、俺がどの程度のレベルなのかを知りたいだけだ。一哉達の発言を全て鵜吞みにした訳じゃない。

 将来的に料理人をやれる素質があるのか、それを知る為に試してみたいだけ。配信者として有名になりたいのではないから、初期費用もそんなに必要ない。

 ちょっとしたお試しみたいな感じだ。今はインターネットを使えば、こう言う事も出来るというだけ。

 料理教室とかに通うより、安上がりで手頃な手段を選んだに過ぎない。プロに弟子入りと比べれば些細な事だ。


「広告収入で奢ってくれよな」


「そんな簡単に稼げるわけないだろ」


「大丈夫だって、咲人の腕前なら」


 いくら何でも楽観視が過ぎるぞ一哉。広告収入だとか収益化だとか、ある程度は美佳子から聞いている。

 その壁は一哉が思うよりも遥かに高い。配信で100円稼ぐ大変さを、以前に美佳子が教えてくれた。

 今でこそかなりの収入があるけど、最初は収益なんて一切無かった時代が美佳子にもある。

 まだ配信が今ほど当たり前になるより、少し前の時代を美佳子は経験済みだ。その苦労を知っているし、目的がそもそも違う。


 俺は収益化を目指すのではなく、目標はあくまで調理師免許の取得。一哉が期待する様な収入が入るのなんて、恐らく数年は続けないと無理だ。

 そしてそこまで続けるつもりは、今の所はない。やってみて面白かったら続けるかも知れないけど、まあその頃には俺達は高校を卒業している。

 一哉には悪いけど、そんな未来は先ず来ないぞ。捕らぬ狸の皮算用を始める一哉を落ち着かせつつ、俺達は楽しいお昼休みを過ごした。

これで動画投稿までやり出すとちょっと主人公の設定盛り過ぎか? と一旦は思ったのですよ。でも良く考えたら学生時代の大谷選手とか、将棋の藤井プロとか居るじゃないかと。

あとAdoさんとかtukiさんとか、若者の人間離れの実例が増えていくので咲人君程度では別にってなる現実世界君の方に問題がある。

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― 新着の感想 ―
確かに最近の現実世界バグってきてますよね… あれもこれもインターネットが発達したからなんでしょうね
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