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第184話 旅行の予定と男の性

「よし、温泉に行こう咲人(さきと)


「……え? 今なんて?」


「ボクと2人で温泉に行こう」


 えっと、急に何を言い出しているんだろう? 季節的には初夏であり、特別温泉旅行に向いている時期でもない。

 真夏に行くよりは暑く無いから良いか? と言うぐらいだろうか。突然言い出すから雑巾がけの手を止めてしまった。

 リビングで事務処理を進めていた筈の美佳子(みかこ)は、ノートパソコンから完全に手を離していた。

 突拍子もない事を言い出すのは珍しくないけど、それでも突然温泉に行こうはあまりにも急だった。

 ここ最近の配信ではそんな話題になっていなかったし、本当に唐突だった。てか俺と美佳子が? 2人で? 温泉に?


「と、泊りがけ、じゃないよね?」


「どっちでも良いけど? ボクとしてはゆっくり入りたいから、1泊はしたいけど」


 いやいやいや、男と女ですけど? 恋人同士だって言っても、それはどうなんだ? もしその……俺が暴走してしまったら大変だ。

 美佳子の魅力に抗い切れず、何かしらの行動に出てしまったら不味いだろう。でも温泉旅館の中で、美佳子を見られるなら見たい。

 風呂上りで浴衣姿の大人の女性、絶対に魅力的に決まっている。恋人と温泉に行きたくない男がどこに居る?


 非常に男心を刺激させられる提案だけに、正直言ってノーとは言えない。俺の中の天使と悪魔が、壮絶な大戦争を始めている。

 もしかして…………いやいや。俺が高校を卒業するまで、そう言う行為は無しだと約束したのは美佳子だ。

 勝手な勘違いをしてはいけない。旅行に行く事が、イコールそう言う意味だとは限らないだろう。


「えっと、急にまたどうして?」


「頑張っている咲人への労いと、2人で旅行に行ってみたいなって」


「な、なるほどね? 良いと思うよ」


 同様のあまり少し声が震えてしまった。落ち着け、とても健全な理由だ。あくまでデートの延長線であり、特別な意味は無い。

 美佳子からは特にそう言った空気も感じない。普段通りの言動しかしていないじゃないか。

 変に意識する方がおかしいのであって、俺も普通の対応をするべきだ。この提案にエッチな意味は全くないのだ。

 だがしかし悲しいかな、思春期男子の欲望は消えてくれない。普段のお風呂上りだけでも、かなりの魅力を感じているんだ。

 普段でも大概大変なのに、温泉旅行なんて耐えられるのか? あまりにもハードじゃないか?


「咲人ってさ、再来週の連休って部活なの?」


「えっ!? あ、ちょっと待って……休みと、自主練だから2日休めるよ」


「じゃあそこで行こっか。1泊にして良い?」


「もっ、もちろん良いよ、全然それで。うん」


 完全なる理性の敗北だった。気が付いたらオッケーしていた。だって見たいと思ってしまったのだから仕方がない。

 普通の浴衣姿とは違って、温泉旅館での浴衣姿はまた違うだろう。花火大会で浴衣姿、それぐらいなら仲の良い女子でも目にする事が出来る。

 だけど温泉での浴衣姿は、そう簡単に見る事は出来ない。修学旅行で一応は見られたけどコレとは意味が全く違う。

 男女2人だけでなんて、恋人でも無ければ先ず無理だ。大人になればまた違うかも知れないけど、高校生の身でそんなシチュエーションは中々訪れないだろう。


「1泊で行ける距離なら、隣の県かなぁ」


「う、海の幸とかね、良いよねうん」


「確かに~今だとアジのお刺身とかあるよね~」


 嘘です全然適当な事を言いました。それっぽい話題を提供しただけで、最早美佳子と1泊する事しか頭に無い。

 気が付けば手元の雑巾が乾き始めていた。動揺した素振りを見せない様に、出来る限り平静を装って掃除を続ける。

 雑巾をバケツに入れて絞り……ってダメだ水を変えないと。美佳子に一言告げてから、バケツの水を交換しに行く。

 ハッキリ言おう、俺は浮かれている。間違いなく浮かれている。まだ駅伝大会の本戦が残っていると言うのに、こんな調子では非常に不味い。

 一旦落ち着いて深呼吸をしよう。ついでに軽く顔を洗ってから、一息吐いて再びリビングに戻る。


「ねぇ見て咲人、ここペット可だよ。マサツグも一緒に行けるね」


「えっ、そうなの?」


「ここにしても良い?」


「そ、そりゃもちろんOKさ」


 そうだ、あくまでこれは家族旅行みたいなものだ。そんな感じの温かでハートフルな旅行なんだ。

 下世話な考えは捨てて、冷静に考えよう。単純に美佳子と2人でマサツグを連れて旅行するだけ。

 ただそれだけで深い意味なんて無い。美佳子がそんな事をする筈がないんだ。思春期男子の出番では無い。今はお呼びでない。

 ほらHPの画像を見ろ、ハートウォーミングな写真と綺麗な旅館が映っているじゃないか。

 愛犬や愛猫を連れて楽しく旅行、実に素晴らしい健全さだ。写真に載っている小型犬が可愛くて良いね、うん本当に。


「ありゃ、結構予約が埋まってる。うーん、ダブルベッドの部屋しかないけど良い?」


「ダッ……うん。べ、別に良いよ」


「ボクは寝相が良いから安心してね」


 よりよってダブルベッドって……俺と美佳子が同じ布団で? ハハハ、ヤベーわ。どうすんだよコレ……でも今更嫌とは言えない。

 何より今更嫌と言ったら、美佳子と一緒に寝たくないみたいじゃないか。それはそれで不味いだろうし、ここは大人しく受け入れよう。

 多分きっと緊張して眠れないだろうけど。だって同じ布団だぞ? こんな綺麗な大人の女性と?


 魅力溢れるお姉さんと同じ布団? 新しい精神修行か何か? 凄く楽しみだけど、凄く大変そうな旅行の予定が急に決まった。

 俺の理性が耐えきれるのか今から不安だ。でもなぁ、絶対に綺麗だよな温泉上がりの美佳子。

 欲望と理性のせめぎ合いが、今から始まりそう。そんな複雑な精神状態のまま、本日の家事代行は終了するのだった。

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