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第183話 馴染んで来た女子とブレない男

 田村(たむら)さんと俺達陸上部メンバーが話す様になってから、2年2組ではちょっとした変化が生まれていた。

 普段はあまり話さない柴田(しばた)が、結構な頻度で田村さんと会話をする様になっている。やっぱり趣味が合ったのだろうか?

 俺はそこまでVtuberに詳しくないけど、柴田は結構詳しいらしく楽しそうに話している様子だ。

 澤井(さわい)さんとも仲良くなったみたいで、お昼を一緒に食べている姿を見る機会が増えて来た。今では随分とクラスに馴染んでいる様に思う。

 俺は一哉といつもの様に自分の席で雑談をしつつ、そんな風に楽しそうな2人を見守っている。


「なあ咲人、柴田ってやっぱり」


「お前はまた……仲が良い=恋愛で考え過ぎだって」


「結構俺の予想は当たるんだぜ?」


 またしてもいつかの様に、一哉が恋愛と結び付けている。そんな事を言い出したら、お前と澤井さんも恋愛をしている事になるんだがな。

 ジムの送り迎えを今も続けているみたいだし。その点柴田はあくまで学校でしか接触はない。

 連絡先ぐらいは交換しているだろうけど、そんなの俺だって変わらない。クラスメイトと連絡先を交換する程度、大した事ではないのだから。

 単純にVtuberに詳しくない俺や一哉より、同じ趣味を持つ者同士の方が盛り上がるってだけだろう。

 どう見てもおかしな所はない。もし仮にそうだったとしても、恋愛をするならすれば良い。そんなのは柴田と田村さんの自由だ。


「他人の事よりお前はどうなんだよ? 何だっけ? 例の女子大生」


「あん? 美奈(みな)の事か? この前別れた」


「は!? 何で? 良い感じだったんじゃ」


 どうも喧嘩をして別れてしまったらしい。原因は向こうの嫉妬から来る揉め事だそう。一哉はこの通り、沢山の女子と仲良くしている。

 そりゃあ嫉妬ぐらいするだろうさ。なまじモテる上にこのノリの軽さだ、誤解を招く事もあるだろう。

 かと言って一哉が一方的に悪いかと言えばそうでもなく、浮気自体はやらない男だ。あくまで女性に甘いと言うか、欲望に正直なだけで。

 人によってはそれを浮気だと言う人も居るだろうけどね。深入りするつもりは無いけど、多分今回もそんな感じだったのだろうな。

 恋人に嫉妬させてしまう事が多いからな一哉は。去年1年だけで3回も恋人が変わっているぐらいだから。


「次は俺も咲人を見習って、大人の女性を狙おうかな」


「まるで俺が(そそのか)したみたいに言うな?」


「俺は褒めてるんだぞ? あんな美女を射止めた咲人を」


 そりゃ確かに美佳子(みかこ)は美人だけど。ただ下心が前提にあったのではなく、本当に偶然が重なってこうなっただけで。

 ワンダーパークの件とか考えると、運命的なものを感じなくもないけど。だいたい俺の恋愛対象が年上だっただけで、意図して狙った訳じゃない。

 美佳子が好きになってくれたから今があるだけだ。俺の真似をしたからと言って、上手く行く保障なんて全くない。

 本来なら美佳子の様な女性からは、相手にすらされない可能性の方がずっと高いぐらいだ。

 学生よりもちゃんと稼いでいる大人の男性の方が良いだろう。美佳子が特殊な例ってだけだと思うぞ。


阿坂(あさか)先生に汐里(しおり)さんと、候補は2人も居る」


「いや候補って。教師が生徒を恋愛対象に見る訳ないだろ」


「分からんぞ? 生徒と結婚する人も居る」


 居るには居るけどさぁ、どう考えても阿坂先生はそのタイプではないぞ。まだ諦めない心の強さは凄いけど、先ず無理だろうさ。

 まだシルバージムの山崎(やまざき)さんなら、分からなくもないけど。ただそっちも厳しそうな気はするけどなぁ。

 男性利用者からの人気は高いみたいだし、大人と高校生じゃ勝負にならない。そう考えると俺は本当に運が良かったよな。

 本当に今更だけど、良くもまあ交際まで至れたよな。その点に関しては改めて美佳子に感謝したい。

 俺みたいな高校生を相手に、真剣に向き合ってくれたのだから。家事代行をクビになってもおかしくは無かった。


「同級生や女子大生だって良いじゃないか」


「いいや違うね! やっぱり大人のエロスは別格よ」


「エロスてお前……」


 分からんでもないけどね? セクシーさと言うか、妖艶さみたいな? 成熟した魅力とでも言えば良いのか、色気は確かに凄いけれども。

 それでも女子大生がトータルの魅力で劣るって事は無いし、同級生だって同じだ。最近の一哉は何をそんなに拘っているのか。

 この間からどうにも、この話題になりがちだ。女子大生の元カノと何か他にもあったのか?

 年上の女性が良いと言う話なら付き合えるけれど、俺はそこまで年齢に拘っていないからな。

 同級生に欠片も興味が無いとまでは思っていない。澤井さんにしろ田村さんにしろ、それぞれの良さがあるのは分かる。


「何で最近そんなに年上に拘っているんだよ?」


「シンプルにお前が羨ましい! 俺も大人のお姉さんとしたい!」


「バカ語弊がある発言をするな! まだしてねぇよ!」


 教室内でなんて事を言うんだお前は。皆が各々会話しているから、聞こえた人は少ないだろうけど。

 こんな会話、せめてグラウンドに居る時にして欲しい。いやそれでも前回の事故があるから危険な話題ではあるけども。

 にしても羨ましいってお前さぁ……性的な理由で美佳子を選んじゃいないって。性的な魅力があるのはそうだし、俺だって恋愛的な意味で先に進みたいけどさ。

 ただ根幹にあるのは性欲じゃなくて、あくまで恋心がベースだ。致したい気持ちはあるけれど、それが全てではない。

 後それから、俺は学習する男だから同じミスは犯さないぞ。このデジャヴ、はっきりと感じ取りましたとも。


「澤井も乳だけなら合格なんだけどな、やっぱちょっとな」


「いやぁそんな事は無いぞ一哉! 澤井さんはとても魅力的だと思うぞ俺は!」


「は? 急にどうした?」


 俺は頭がそんなに良くないけど、馬鹿ではないからな。俺の目には一哉の背後に立っている修羅の姿が、ハッキリと認識出来ている。

 巻き添えで怒られるのはもう勘弁だからな。悪いが今回は見捨てさせて貰うぞ。何よりそろそろお前も、学習した方が良いんじゃないか。

澤井さんと一哉のコンビは結構お気に入りです。

お互いに別々の相手と恋愛を散々した後、30歳ぐらいで結婚してそう感。

ちょっと違うんだよなぁと思い合っていたけど、なんやかんやで最終的に落ち着く相手みたいな。

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