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第180話 予選と少女と咲人の進歩

※5/12 一部ミスがあったので訂正しております。

 東咲人(あずまさきと)にとって重要な1日がやって来た。全国駅伝大会の県予選が行われる日だ。6月上旬の日曜日、県内にある競技場に沢山の高校生が集まっていた。

 30℃近い気温の中で、開会式が行われている。前回の県予選で1位通過を果たした美羽(みう)高校から、3年生の部員が選手宣誓を行う。

 咲人が入学する以前から、強豪校の地位に昇り詰めた美羽高校。文武両道を理念としている高校として、様々な部活動が好成績を収めている。

 流石に全ての部活動が強豪扱いをされてはいないが、いくつかの競技では有名になりつつある。


 運動部だけでなく文化部でも優秀な部があり、合唱部が近年では盛り上がりを見せている。

 数年前に全国優勝を達成しており、その界隈では有名な話だ。そんな優秀な高校として、看板を背負った男子7人女子5人ずつの選手達。

 合計12人の中には、当然咲人の姿があった。やる気に満ちた表情で開会式に参加し、式が終了するまで闘志を滾らせていた。

 会場を出て2区のスタート地点に向かう咲人に、クラスメイト達が声を掛ける。同じ陸上部の坂井一哉(さかいかずや)澤井朱里(さわいあかり)、そして帰宅部である田村美沙都(たむらみさと)の3人だ。


「咲人、頑張れよ」


「ゴールで待ってるね、東君」


「あっ、あの! が、頑張ってね」


「ありがとう皆、行って来る!」


 続いて出て来た柴田聡(しばたさとる)にも3人が声援を送り、咲人と聡の健闘を祈る。最近咲人達と仲良くなったばかりの美沙都は、まだ少しぎこちない所があった。

 それでも彼女なりに精一杯の声援を送っている。引っ込み思案な美沙都にとって、こんな風に誰かを応援したのはいつ以来か。

 過去を思い起こしながら、そんな事を美沙都は思う。自分にとって特に咲人と聡の2人が、特別な存在になりつつある。

 恋と言う程に強い気持ちではなく、同じ趣味を持つ友人としての想い。あまり友人が多いと言えない美沙都にとって、異性の友人とは非常に貴重であった。

 そんな1人の少女が思案している中で、咲人の下へと3人の来訪者が現れる。恋人である篠原美佳子(しのはらみかこ)と、幼馴染の三浦夏歩(みうらなつほ)馬場和彦(ばばかずひこ)だ。


「やあ咲人、調子は良さそうだね」


「期待してるぜ、咲人!」


「ああ! 任せろ!」


「陸上の事になると、自信満々なのは相変わらずだよね」


 4人で少しの間だけ言葉を交わしてから、咲人は2区のスタート地点へと向かった。その様子を見ていた美沙都は、あの3人は誰だろうと疑問を覚えた。

 しかし性格的に誰かに聞く事も出来ず、自分なりに消化していた。咲人に恋人が居るらしい噂だけは知っていたので、恐らくあの女の子がそうなのだろうと。

 溌溂とした明るさを感じさせる健康的な美少女の登場に、美沙都がそう誤解してしまったのも仕方がない。

 ただその美少女である夏歩は咲人の恋人ではなく、従姉か何かと判断した美佳子の方が恋人である。


 なまじコミュニケーション能力があまり高くない故に、学校内の噂を正確に把握出来ていなかった。

 美沙都は微妙な勘違いを抱えたままに、一哉達と2区のゴール地点へと向かう事になった。

 彼女達は2区で咲人を見届けた後、聡が走る5区のゴールへと移動する予定だ。


「おい田村、行くぞ」


「へっ!? あ、ご、ごめん! ボーっとしてた」


「ほら田村さん、行きましょう」


 まだ咲人達との交流が少なく、真実を知らない美沙都は()()()()している事に気が付いていない。

 小学生の頃からずっとファンをやっている人気Vtuber、園田(そのだ)マリアの中の人が数メートル先に立っていた事実に。

 もし美沙都に積極性があったなら、この人達は誰? と声を掛ける事も出来ただろう。そうすれば美佳子の話し声で、真実に気付ける可能性があった。

 推しの中の人と、咲人との関係性も含めて。しかしそんな未来は訪れず、ニアミスをしたままで終わる。

 一哉達が居る手前、古参ファンの話を咲人の方も出来ずに一旦この場を離れた。それから暫くして、駅伝大会が開幕する。

 歩道には沢山の人々が集まっており、声援が選手たちに向かって飛ぶ。


「頑張れーー!!」


「行けーー!!」


 声援を受けた1区の走者達が、真剣な表情で駆け抜けていく。規定のルートを走り抜け、2区の走者にバトンを繋ぐのが彼らの役目だ。

 美羽高校の1区担当は3年生の藍田守(あいだまもる)で、スタートを任されている優秀な選手だ。男性としてはやや小柄だが、その分体重も軽く長距離走向けだ。

 今どき珍しく坊主頭にしている守は、トップグループに着けていた。順調にペースを維持し続け、徐々に後続を突き放していく。

 1位争いを続けながら互角の戦いを見せる選手達は、守を含めて全部で5名居た。熾烈な争いを続けながら、10㎞という長い距離を走り続ける。

 順位は殆ど変化が無く、同時に近い形で上位5校が2区のスタート地点へ雪崩れ込んだ。


「東っ!!」


「藍田先輩っ!!」


 襷は咲人の手に渡り、2区の争いが始まった。伸び悩みを見せていた冬と違い、改善の兆候が見られ始めた咲人は絶好調で走っている。

 まだ完成形とは言い切れないものの、1ヶ月と少しの期間で増えた筋力が良い方向に影響した。

 ほぼ一塊だった5校の順位に少しずつ変化が起きる。滑らかな動きで速度を上げる咲人が、徐々に前へと突出して行く。


 順位の変動に地元のテレビ局やラジオ局では、1位に抜け出した美羽高校と咲人の話題で持ち切りとなる。

 4kmと短い区間の担当であるけれど、これからの活躍に期待出来る選手として紹介された。

 見事に2区を1位のままで走り抜けた咲人は、美佳子達が待つ2区のゴール地点へと軽やかに飛び込んだ。

 学校の友人達と和解した幼馴染、そして大好きな女性に迎えられた咲人。これまでの人生で一番気持ちの良いゴールを経験する事となった。

本戦は走っている咲人の主観で行くか、実況中継視点にするか迷い中です。毎回微妙に違う内容にしたいので。

そして明日からは通常通り日曜・祝日のみ10時更新に戻ります。

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