表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/306

第176話 美佳子と幼馴染達

 東咲人(あずまさきと)にとって、三浦夏歩(みうらなつほ)馬場和彦(ばばかずひこ)は大切な幼馴染である。そして篠原美佳子にとっては恋人の親友だ。

 いつかはどこかで顔を合わせる定めにある。何より避ける様な存在ではなく、早い段階で知り合っておいた方が良いぐらいだ。

 何より和彦と夏歩には、咲人を通じて間接的に恩義を感じていた。和彦は自身の件で、夏歩は咲人の恋愛面に関して。

 もし美佳子が居なければ、3人が和解する機会が訪れなかったかも知れない。幼馴染の2人はその件でお礼を言いたいと考えていた。

 そしてその機会は5月半ばに訪れた。もう殆ど夏の様な陽気に包まれた日曜の昼、咲人の幼馴染2人と美佳子が対面を果たした。


「よろしくね、2人とも」


「お姉さんのお陰で立ち直れました! 本当にありがとうございました!」


「私の幼馴染を助けてくれてありがとうございます」


 自己紹介を互いに済ませるなり、先ず和彦が頭を下げた。続いて夏歩がお礼を述べて同様に頭を下げる。

 咲人達3人にはお馴染みのファミリーレストランで、4人はテーブル席に座っていた。夏歩と和彦が並んで座り、対面に美佳子と咲人が居る。

 特にこれと言って何か出来たと思っていない美佳子は、大した事はしていないからと頭を上げる様に伝えた。

 そうして改めてお互いに顔を合わせた時、美佳子はとある記憶を思い出す。それはかつて咲人とプールに行った時の事だ。

 当時は勝手に勘違いをして、ナーバスになった事があった。今思えば愚かだったなと美佳子は過去の自分を振り返る。


「あんまり気にしないで。これからよろしくね」


「はいっ! 俺の方こそよろしくお願いします!」


「よろしくお願いします」


 夏歩にとっても、美佳子はある意味特別な相手だ。かつてプールで見た、幼馴染の見た事もない楽しそうな表情。

 自分は咲人の恋愛対象ではないと、内心では分かっていた。小学生時代の咲人が、和彦の母親を特別視している事実にも薄々気付いていた。

 きっと年上が好きなのだろうと、飲み込む事も今では出来ている。こうして近くで対面してみれば、如何にも咲人が好みそうな女性だと頷けた。


 落ち着くべき所に収まったであろうと納得が行く。それでもやっぱり夏歩にしてみれば、自分以外の女性を選んだ事実は変わらない。

 今では咲人をただの幼馴染として見ていても、1人の女性として咲人の脛を蹴ってやりたくなった。

 しかし残念ながら夏歩の正面に座っているのは美佳子だった。なので夏歩はジトっとした目で咲人を睨む程度に留めておいた。

 当然ながら咲人は何故睨まれたのか理解していない。そんな空気を察した美佳子は、敢えて触れる事にした。


「ねぇ咲人、どうして三浦さんみたいな可愛い子を選ばなかったの?」


「えっ!? 今その話する!?」


「いやだってねぇ? 大体の男子ならOKすると思うし」


 美佳子は要らぬ駆け引きをしないタイプだ。変に本音を隠しておいて、後に尾を引く様な関係にしたくなかった。

 だって相手は恋人の大切な幼馴染達だ。これから何度も顔を合わす事になるのは間違いない。

 だったら最初から、(わだかま)りの元になり兼ねない要因はさっさと消化するに限る。今この場だけ取り繕っても仕方がない。

 それに同じ相手を好きになった者同士、分かり合える筈だと言う美佳子の予測もあった。何より夏歩が可愛いと思ったのは美佳子の本音だ。

 嘘偽りない言葉で、夏歩に向けて表明しておく。一度は勝てないと思った相手だ。同じ女性として、そこは敬意を示しておきたかった。


「昔からそうなんですよ。咲人ってば綺麗な大人の女性ばっかり気にして」


「ばっかりは誇張じゃないか夏歩!? 見境がない奴みたいだろ!」


「……そう言えば咲人って、俺の母親とかなり仲良かったよな」


「俺の味方がいない!? 何で急に3対1なの!?」


 突然の事態に慌てふためく咲人を見て、美佳子達3人は楽しそうに笑っていた。彼女達のその笑顔に嘘はない。

 美佳子の敢えて踏み込んだ発言によって、4人にとって楔になり兼ねない話題が笑いに変わった。

 元々幼馴染3人組は、既に許し合っている。お互いがお互いの想いに対して、自分なりに咀嚼した後だ。


 今更になって恨み言をぶつけ合う理由は無い。それは美佳子にしても同じ事で、夏歩と争う意味は無い。

 何故なら今はもう自分が身を引く気なんてないし、ライバルになるかも知れないという懸念も会ってみれば消えた。

 明らかに夏歩が咲人に向けている感情には、恋愛的なモノが含まれていない。そして和彦もまた、口ではこう言っていても理解出来ていた。

 親友の咲人が恋心を抱く相手が、どの様な相手であるのか。なるほどこう言う女性が好みだったのかと、和彦なりに納得していた。


「だって結局相手は美人なお姉さんじゃない」


「いやそれはっ、結果的にそうなっただけだ。顔で選んだわけじゃ」


「えぇ~~咲人はボクの顔が好きじゃないんだ?」


「厄介だなぁ! この組み合わせ!?」


 結論から言って、幼馴染2人は美佳子と仲良くなれそうだった。そもそも咲人と上手くやれる以上は、和彦や夏歩とも上手く行く確率が高かった。

 事実として美佳子は、自己紹介をした時とは違って『私』ではなく『ボク』に切り替えている。同時に外出時の取り繕った態度を消してみせた。

 そうしても大丈夫な相手だと美佳子は判断し、咲人達も美佳子が態度を変えた事に気が付いた。


 見ず知らずの他人を相手にしているのではなく、もっと近しい相手として柔らかい態度を見せている。

 その空気が伝わった事で、夏歩と和彦も歩み寄り易くなった。元々美佳子はフレンドリーな女性であり、人と仲良くなるのはかなり早い。

 最終的には咲人の応援には美佳子が車を出す事になり、夏歩と和彦を連れての現地入りが決まる程に話が弾んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ