第173話 水族館デート 昼の部
水族館デートを朝から続け、12時になった。時間的にはお腹が空いて来たけれど、レストランの予約は14時だ。
予約の時間が来るのを待つついでに、人気の高いショーを先に観て回っておく事にした。
ここ岩島マリンワールドでは、ショーが行われる大プールが複数あり色んな生き物のショーを観る事が出来る。
定番のシャチやイルカはもちろん、アシカやペンギンなど人気の動物達がその芸を披露してくれる。
今はちょうどペンギン達のショーが公開されており、専用のプールに美佳子と2人で来ていた。やはり人気の動物だけあって、見に来ているお客さんはかなり多い。
「急いで来ておいて正解だったね。俺達で最後だったし」
「全員が入れるだけのスペースが無いからねぇ」
「イルカとシャチはもっと人が凄そうだ」
水族館の1番人気を競い合っている二大アイドル的存在。見た目が可愛くて知性も高い海の象徴とも言うべき哺乳類。
紹介文を見るまで知らなかったけど、両方クジラの一種らしい。シャチやイルカと言う大カテゴリは無いそうな。
クジラとイルカは似ていると言えば似ているのか? 随分と顔や体格が違う様に思えるけれども。
逆にイルカとシャチが同類だと言うのは、見た目が近いからすんなりと受け入れられるけど。
でもそれで言うとシャチがクジラと同類なのも何となく分かるし、そうなるとイルカも間接的に納得出来るか?
どうしてもクジラは体が大きいってイメージが強いからだろうか? 小さいクジラと比べたら、イルカも似ている気もする。
分かり易い例はシロイルカだろうか。日本ではイルカと呼んでいるけれど、正確にはシロクジラらしい。
紹介文を読んだ時は、正直かなり驚いた。イルカとクジラを見極める基準が良く分からない。
「あっ、出て来たよ咲人」
「ホントだ。アデリーペンギンだっけ?」
「そうそう。毛の色がシャチっぽくて可愛いよね」
出て来たアデリーペンギン達は、背中側が真っ黒でお腹の方が真っ白だ。美佳子の言う様に、小さいシャチみたいで愛らしい。
飼育員さんの後ろを着いて歩く姿が、まるでカルガモの親子みたいで歓声が上がっている。
最前列に居る幼い子供達が大はしゃぎで拍手をしていた。結構な集団だから、多分遠足か何かだろうか?
俺にもあんな頃があったんだよな。幼稚園の頃に、夏歩や和彦と動物園に行って本物のライオンを見て感動したっけ。
ここではペンギン達と子供達という、可愛らしい2つの存在が共存する事により場を更に温めていた。
「おお! あのお腹で滑るの可愛いよねぇ~」
「可愛い見た目をしてるわりに結構速いな」
「そのギャップがまた良いんじゃん」
芸を披露しては飼育員さんから餌を貰うペンギン達。アジっぽい小魚が宙を舞い、器用にキャッチしている。
上手くキャッチをする度に、観客席から拍手が上がった。実際綺麗に受け止めているので、結構利口なんだなと感心する。
もちろん飼育員さんのコントロールが上手いのもあるだろうけど。それも含めてショーとしての完成度は高く、観ていて飽きない。
多少の失敗があっても、ペンギン達の愛らしさがカバーしてくれている。終始和やかな空気の中で行われたペンギンショーは、高校生の俺が観ても十分面白かった。
ペンギンって、カラスと変わらないぐらい知能が高いのかも知れない。それぐらい知性を感じさせられた。
「まだちょっと時間があるねぇ。予約時間ギリギリになるかもだけど、シャチも観に行く?」
「いいよ。美佳子が観たいなら付き合うよ」
「よし、じゃあ行こうか」
シャチのショーは13時過ぎからの枠があるので、今の内から行っておけば観られるだろう。
ペンギンのショーは12時10分から30分間だったので、13時過ぎまでまだ20分以上ある。
俺達はシャチのショーが行われる一番大きな大プールへと移動する。会場に近付くにつれて人が多くなり、まだまだ時間はあるのに既に結構な人数が並んでいた。
これは少し見積もりが甘かったかも知れないな。またしてもギリギリ入れるかどうかと言った状況だ。
とにかく来たからには並んでおこう。ロープで区切られた通路の最後尾に美佳子と2人で並ぶ。
「GWだもんな。凄い人だ」
「思ったより多かったねぇ。人気者は違うね」
「水族館の顔役だもんなぁ」
入場が開始されるまで美佳子と雑談をして過ごす。ショーが始まる10分前に開場が始まり、列は先へと進んで行く。
シャチ用のプールだからか会場も先ほどより広く、思ったほどギリギリでの入場では無かった。
とは言っても最前列はとっくに埋まっている。俺達が座れたのは結構後ろの席で、最後尾から3列目だった。
遠いけど見えない程ではないので、特に問題は無さそうだ。そもそもペンギンとは違ってシャチは巨大だ。
少々距離があったとしても大丈夫だろう。それに俺達はこれからレストランに行く予定だから、海水でビチャビチャになりたくはない。
観客席の殆どが埋まった頃に、シャチのショーが始まった。ダイバーの女性と2匹のシャチがプールに姿を現した。
「でけぇなぁ……何メートルあるんだ?」
「5、6メートルぐらいはあるんじゃない? 確かシャチってそれぐらいだし」
「うちの家ぐらいの高さか」
俺の家は3人暮らしの想定で建てられた、ごく一般的な2階建て。確か避難訓練で習ったのだと思うけど、2階って7メートルぐらいの高さだった筈だ。
それを思えばシャチの全長は、地上から俺の部屋の天井までの高さとほぼ同じだ。そりゃあデカいわけだよ、海の支配者は伊達ではないと。
こんなに可愛い見た目なのに、サメより強いのだから驚きだ。どう見ても顔の凶悪さで見ればサメの方が強そうなのにな。
そしてシャチはシャチで、この可愛らしさで実は凶悪でもある。海の生き物は本当に不思議な事が多いな。
「ちゃんとダイバーさんの指示を聞いているね。かしこいよねぇ」
「紹介文に書いてあったけど、頭の良さは地球の生き物でも上位に来るらしいよ」
「そうなんだ。マサツグもこれぐらい言う事聞いてくれないかなぁ」
猫にこのレベルは厳しいのでは? 分からないけど、多分犬や猫よりシャチやイルカの方が頭は良い気がする。
マサツグにこのレベルを求めるのは酷じゃないか? そんな会話も挟みつつ、俺と美佳子はシャチのショーを楽しんだ。
あんなにカッコイイフォルムなのにホホジロザメでもシャチが相手ならワンパンされる悲しみ。
でもサメ映画では最強だから……




