第171話 GW2日目
GWに入って連休が始まった。初日は普通に朝から部活で昼は一哉達と遊び、夜は美佳子の家で家事代行と殆ど普段通りだった。
そして2日目の今日は部活が休みだから、朝から美佳子の家に来ている。配信者として連休の配信は外せないから、朝から美佳子は防音室の中に居る。
俺が作った軽食を食べてから、10時から2時間程度の配信枠を取っていた。暫くは出て来ないから、その間に軽く片付けをしつつ昼食の準備を始める。
途中で起きて来たマサツグの相手をしながら、キッチンのカウンターにスマートフォンを置いて園田マリアの配信を流しておく。
「今日も朝から飛ばしてるなぁ」
「うにゃあ」
「お前の飼い主が元気だなって話だよ」
どうも画面から美佳子の声がしているのは理解しているらしい。不思議そうに配信が流れている液晶画面をマサツグが覗き込む。
前足で画面を叩くも、状況に変化はない。スピーカーから変わらず流れているのは、美佳子の笑い声だ。
マサツグはじっと園田マリアの配信を観続けている。猫なりに状況が理解出来たのだろうか?
それとも意味は分からないけど、そう言う物と納得したのか。動物のこういう反応って面白いから見ていて飽きない。
昔飼っていたうちの犬も、鏡に写った自分の姿を見て吠える事もあったっけ。犬や猫はテレビや鏡を見て何を思っているんだろうな。
「ちょっとお昼には早いけど、ニンジン食べるか?」
「みゃー!」
「育ち盛りって事なのかな?」
下拵えの過程で切ったニンジンの残りから、一口サイズに切ってマサツグに渡す。起き抜けでも美味そうにペロリと平らげていた。
マサツグは現在生後10ヶ月となり、以前を思えばかなり大きくなった。抱き上げると少し重みを感じるぐらいだ。
その体重は4㎏ちょいと、子猫としてはやや重いぐらいか。平均体重を超えてはおらず、健康体の範疇だ。
先日連れて行った健康診断でも特に問題は無く、すくすくと順調に成長している。ただ現在ちょうど換毛期を迎えており、それはもう良く毛が抜けていく。
食事をしていたら、いつの間にか口の中にマサツグの毛が入っている事がある。犬や猫の毛が生え変わる時期特有のアレだ。
抜けにくい種類ならそう頻繫には発生しないけど、マサツグは長毛種のペルシャ猫である。
温かくなり始めた頃からは、コロコロの愛称で良く呼ばれている粘着クリーナーが手放せない状態だ。
「おっと、そろそろ美佳子が終わりそうだな。温め始めよう」
「にゃあ」
「分かってるよ。お前のご飯も用意するから」
だいぶここでの暮らしに馴染んだからか、俺が人間用のご飯を用意し始める前兆が分かる様になったらしい。
ただキッチンに立っただけでは反応をせず、電子レンジを使用したり冷蔵庫から料理を取り出したりすると反応を示す。
満1歳を迎える前の時点でこれは、結構頭が良い方なのかも知れない。マヌケで可愛いおバカタイプではなく、利口で聡い猫として成長してくれそうだ。
マサツグを抱き上げてカウンターから降ろし、餌用の皿に子猫用のドライフードを入れてやる。
カリカリとマサツグが餌を食べる音を聞きながら、俺と美佳子用に作った料理を温め直していく。
作る時間は十分にあったから、ミネストローネとロールキャベツをメインに作っておいた。
美佳子の栄養が偏らない様に、野菜は多めに入れている。ちょうど全部が温め終わりそうなタイミングで、園田マリアの配信が終了した。
「咲人ぉ~~! お腹空いたぁ~~!」
「朝少なかったしね。お昼は多めにしといたよ」
「助かる~~。一杯喋ってエネルギー不足なんだよねぇ」
朝から沢山食べて途中で眠たくならない様に、美佳子は朝食を少なめにする事が多い。特に朝配信をする日は大体このパターンだ。
夕方以降の配信をする時も同じで、夜は軽く食べて配信終わりの寝る前にしっかりと食べている。
人気配信として、その辺りの管理は徹底して行っている。俺はそんな美佳子のライフスタイルを考慮して、なるべく冷めても美味しい料理を作る様にしている。
夕食を一緒に食べない時は、基本的にその方針でメニューを決めている。美佳子から要望があった時はその限りではないけど。
「ごめんねぇ咲人、配信があるから出掛けられなくて」
「構わないよそんなの、一緒に居られるのは変わらないしさ」
「明後日は空けてあるから、一緒にどこか行こうね」
2人で出掛けるのも楽しいけれど、出掛けるから楽しい訳ではない。誰と一緒に居るかが一番大切な事で、行先はその次でしかない。
それに美佳子と出会ってからは、スポーツ以外の配信も楽しめる様になったし。特に園田マリアの配信は、ほぼ毎日視聴している。
食わず嫌いというか、自分が観る様なコンテンツではないと思っていた。アニメを好きな人達が観るものだと勝手に決めつけていた。
いざ観てみれば、素直に面白いと思えていた。意味が分からない用語も沢山あるけれど、それでも観ている時間はとても楽しい。
スポーツ観戦をした時のファン達との一体感と、そんなに変わらない世界がそこにはあった。
「咲人はどこに行きたい?」
「う~ん、そうだなぁ……あ、水族館とかは?」
「お、良いねぇ。イルカショーを観にいっちゃう?」
20度以上の気温が続く温かさだから、水族館に行くのも悪くはないかなと思った。2人で近場の水族館について調べながら、楽しいお昼を過ごした。
その後はまた睡眠を取った美佳子を見守ったり、家事をしたりして時間を過ごし夕方に美佳子を起こす。
配信に邁進する彼女をサポートしつつ、俺の1日は過ぎて行った。派手さはない1日だけど、俺は結構このスタイルが気に入っている。
やっぱり俺は、輝かしい活躍をする美佳子を観ているのがとても好きだからさ。
■告知
ネトコン13用に書き溜めている新作を、GW明けかGW最終日辺りから投稿を開始する予定です。
現在既に2万文字ほどあり、恐らくは投稿1日目に5万文字前後の大量投下になります。
もしよろしければ、そちらの方もよろしくお願いします。




