第166話 時代の変化と現在と
これまでにも何度かやって来たのだけど、俺と美佳子でお互いの世代で流行ったモノを共有する時間がある。
例えば美佳子が学生の頃にやっていたアニメを一緒に観たり、昔流行ったゲームのリメイク版やリマスター版をプレイしたりする。
そうする事で、年齢差がある為に生まれる価値観の違いや知識の埋め合わせをするのが目的だ。
例えば俺はガラケーを持った事が無い世代だから、昔のアニメを観ると新鮮な気持ちになる。
長期連載の現代がテーマの作品だと、わりと良くそれが起こる。今回観ているのもサブスクで配信されている昔のラブコメだ。
画面には主人公とヒロインが、一緒にテレビを観ているシーンが映されていた。美佳子と2人でソファに座っている俺達と、殆ど同じ様な体勢だ。
「そう言えば前から思ってたけど、ブラウン管と今のテレビって何が違うの?」
「おっと、急に難しい質問を出して来たね」
「専門的な知識が必要なの?」
小学校の理科で先生が何か言っていた様な気がしたけど、今となっては覚えていない。当時はあんまり興味が無かったから、適当に聞き流してしまった。
今もそこまで興味は無いけれど、美佳子はその時代を知っているから聞いてみたくなった。
美佳子が言うには、テレビには幾つか種類があったらしい。歴史で習うモノクロのテレビと今のカラーテレビが先ず大きな違いだ。
更にそのカラーテレビの中に含まれる1つが、ブラウン管のテレビだと言う事らしい。
その進化系が今の液晶テレビや液晶モニターで、10年ぐらい前に無くなったプラズマテレビという種類もあったそうな。
「なんだったかなぁ? 正直ボクも昭和生まれでは無いからねぇ」
「あ、知らないなら別に良いよ」
「いや、せっかくだし調べてみよう」
何となく聞いてみた結果、ネットで検索する事になった。ササッと美佳子が調べて答えを教えてくれた。
どうもブラウン管は電子ビームを放つ機構が必要で、どうしても分厚くなってしまうし消費電力も大きい。
逆に液晶の場合は全く違う方法で映し出しており、薄くするのも簡単だそうな。なるほどそんな違いがあったのかと、素直に感心させられた。
知ったからどうなる訳でもないけれど、昔のテレビがやけに分厚い理由が分かった。いや、もしかしたら公民でテストに出たりするか?
もしそうだったらラッキーだ。美佳子が見つけたサイトでは図解もしてくれていたので、大体の構造を知る事が出来た。
「色々あるんだなぁ」
「咲人が知らない家電は沢山あるからねぇ」
「他にどんなのがあるの?」
そう聞くと楽しそうに美佳子は教えてくれた。MDプレイヤーだとかMP3プレイヤーだとか、昔のゲームハードなんかも画像を検索して詳しく説明された。
この良く分からない音楽を聴くヤツって、MP3プレイヤーと言うんだなぁ。昔のアニメに出て来て、良く分からなかったんだよね。
スマートフォンではない何かで、音楽を聴く物って事だけは分かっていたんだけどさ。
MDってやつは、今回初めて見る事になった。マイクロSDカードと比べたらだいぶ大きいのに、容量はもっと少ないらしい。
不便そうだなぁコレと思ったら、1枚で10曲ちょいぐらいしか入らないらしい。昔はそれだけしか入れられなかったんだ。
「学生時代はMDを何枚も持ち歩いていたんだよね~。友達と貸し借りもしてさ」
「へぇ~今は無い文化だ」
「今はサブスクもあるからね。買うのも基本ダウンロードだろうし」
CD自体をあんまり買わないもんな。何か特典でも付かない限りは、基本的にデジタルで済ましている。
スマートフォンにデータを移行するのが面倒くさいし、移したら大体CDそのものは放置だし。
実物を持っておきたいって考えもあるらしいけど、俺は別に実物を持たなくても良いかなぁ。
ゲームソフトなら飽きて売りに行ってもお金になるけど、CDは200円もすれば良い方で凄く安いし。
漫画はまだ人気のある作品なら、売れば多少お金になるから買っているけど。それでも最近は電子書籍で買う事も増えて来た。
あれはあれで、本棚を増やさなくて良いから便利だと思う。飽きたとしても、売る事は出来ないけどね。
「ボクぐらいの世代は、凄い速度で社会が変わって行ったんだよ」
「子供の時にスマートフォンが無かったんだよね?」
「そうそう。流石にガラケーはあったけどね」
スマートフォンが無い学生時代というのが、正に今観ているアニメの時代だ。この頃は配信者なんて居なくて、サブスクも無い時代の学生達が描かれている。
俺がこんな時代を生きていたら、ちゃんと適応出来たのだろうか? 今は知りたい事があれば、ネットで調べるだけで色んな動画が出て来てくれる。
だけどこの頃はきっとそんな簡単じゃなくて、少し調べたぐらいでは分からないのだろう。
どうしてネットで調べないの? と思ってしまう様な行動も、そう言う時代だったからなのかな。
美佳子がこんな時代を生きていたからこそ、今の様に色んな経験を元に話が出来るんだと思う。
配信中にしろ現実にしろ、人として美佳子が持っている凄い部分の秘密はきっとそこにあるんだろうな。
「もし俺が美佳子と同じ時代に生まれていたら、好きになって貰えたのかな?」
「どうだろうねぇ。でも今の咲人そのままだったら、きっと好きになったと思うよ」
「そ、そうなんだ」
ストレートな発言に動揺した俺の右肩に、美佳子が軽く頭を乗せて来た。流石にこれだけ一緒に居れば言われなくても分かる。
これは要するに甘えたいという表明であり、察した俺は右腕で美佳子の細い腰に回す。
俺の右手と美佳子の左手が、彼女の太股の上で繋がれた。俺達はそのままの体勢で、暫く配信を視聴し続けたのだった。
技術の進歩が早過ぎる。




