第165話 園田マリアの懺悔室①
園田マリアは一応キャラクターとして、シスターという設定だ。やっている事は清楚とは程遠く、むしろ破戒僧の類である。
しかしそれでも、デフォルト衣装はちゃんと修道服を着ている。シンプルなデザインの紺色のワンピースに、コイフと呼ばれるフードが付いた典型的な修道服だ。
せっかくそんな出で立ちながら、シスターらしい企画はやって来なかった。それが最近の配信で話題となり、新たに『園田マリアの懺悔室』という企画が生まれた。
言ってしまえば人生相談総合の様な内容で、駄目な事にはしっかりと叱責し迷える子羊は救う方針だ。
企画の内容は中々にシスターらしい内容であった。実に今更ではあるが。
「という訳で、記念すべき第一号だよ~。え~と、高校1年生の男子です。今同じクラスの気になる女の子が居て、でも別のクラスにも気になる子が居ます。僕は浮気性なのでしょうか? なるほどね」
『若いなぁ』
『青春ですなぁ』
『おっちゃんには眩しいよ』
『あるあるやな』
『そう言うものよ学生なんて』
10代の頃は非常に多感であり、異性に惹かれる機会は多い。相談者の様に、複数の女子が気になってしまう事だってある。
それは男子女子に関わらず、往々にして起こり得る心の動きだ。身も蓋も無い言い方をするなら、思春期なんてそんなものである。
一途に1人を想い続けられる人も居るけれど、そうでない人も少なくない。特に学生は10年以上も、学校という狭い世界に詰め込まれる。
限られた環境下で、誰かに惹かれてしまうのは正常な心の動きだ。少しずつ大人になって行きながら、徐々にコントロールが出来る様になっていく。
とは言え心の全てを思い通りにする事は、大人になっても簡単には出来ないのだが。
「それぐらいは浮気性とは言わないかな~。どちらかと付き合ってからもフラフラしたら駄目だけど」
『それはそう』
『浮気のラインって人それぞれよな』
『アイツは妹みたいなものだから』
『出たそれ最悪www』
『何が妹やねん』
どこから浮気と感じるか、その辺りを10代の内から明確にするのは難しい。本来なら最初に話し合う方が良いけれど、聞く事で余計に拗れてしまう場合もある。
最初にそんな事を聞くなんて、浮気をするつもりに決まっている。そんな勘違いを生んでしまう可能性を秘めている。
それもそう低くない確率で。言い方や話の持って行き方にもよるけれど、一番は相手の性格や価値観次第だ。
ただそれも10代の間から、正確に推し測れる程の学生は多くない。どちらかが浮気をされてしまうのでは? と感じてしまい揉めるパターンは非常に多い。
「ちょうど良いから、ボク流の極力浮気を疑わせない立ち回りを教えよう」
『期待』
『そんなのあったの?』
『気になる』
『はよ』
『1回目から随分と真面目やな』
美佳子式の浮気を疑われない付き合い方、それは恋人と他の異性で明らかな扱いの違いを付ける事である。
決して他人に冷たくするのでは無く、恋人の待遇を他者より上に置く事を意味している。
例えば他の男性には絶対にボディタッチを避け、咲人にだけはボディタッチを頻繫にするとか。
咲人だけは名前で呼ぶけれど、他の男性は絶対に苗字呼びにするとか。そう言ったアナタは特別な相手ですよ、という待遇の差をはっきりとさせる事だ。
その積み重ねを普段からやっていれば、余程疑り深い相手でない限りは不安にさせる事はない。
浮気を疑わせてしまうのは、基本的に相手を不安にさせるからだ。付き合えたからと、途中で気を抜かないし悟ってムーブもしない。
普段から相手へと、愛情を向け続ける。口で言う程簡単ではないけれど、意識しておくだけでも違って来る。
「後は他の異性と2人になる機会を減らす事と、恋人以外に特別扱いする人を作らない事だね。同性の友人と家族以外で」
『納得だけどむずくない?』
『いやでも、ここまでしてたら疑わないわ』
『私もマリアと一緒だ』
『私生活はアレなのに、恋愛はしっかりしてんだな』
『凄いけど、ちょっと重くない?』
浮気や不倫は無くならない問題であり、今でも必ず日本のどこかで起きている。やらない人は人生で1度もやらずに終わるが、やる人は1回では済まない事が多い。
一度やってしまったら、理由を付けて2回目に手を出す。そこからはもう負の連鎖が続いていく。
最悪の場合はいつまで経っても辞められず、ズルズルと続け離婚や破局を繰り返す人になる。
離婚の方はまだ記録が残るけれど、恋人との破局を繰り返している場合は判断が難しい。
同じ学校や職場であれば噂が立つけれど、全く別のコミュニティに所属していると外見だけでは分からない。
結果とんでもない相手に捕まってしまい、振り回されて酷い目に遭う人が男女問わず出てしまう。
「え、重くて悪いの? 良いじゃん別に重くても。だって重い方が浮気しないよ? 軽い方が嫌じゃない? 愛情が足りてなくない?」
『いや圧よw』
『ヒェッ』
『怒らないで』
『早口になるなw』
『こりゃ彼氏大変やな』
もちろん美佳子は浮気をする様な女性ではないし、咲人もまた同様の人間性をしている。
2人にその心配は要らないが、少々……いや結構な重さを美佳子は持っている。ヤニカスで酒カスで汚部屋暮らしのお姉さんは、愛が重くて面倒くさいタイプである。
そんな美佳子から咲人に向けられた愛の矢印は、巨大かつ高速ドリル回転をしている。
もはや半分兵器の如き愛情を向けられた本人はと言うと、自宅でこの配信を観ながら照れていた。
この男子高校生、案外ビックな男かも知れない。そんな裏舞台での出来事も起こりつつ、第1回園田マリアの懺悔室は無事成功を収めた。




