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第164話 2年目春の部活動

 晴れ渡る春空の下で、俺はただ走り続ける。美佳子(みかこ)に貰った新しいシューズを履き慣らしつつ、伸びた背に合わせて見直したフォームを意識する。

 筋肉の増量を始めて1週間ほどが経過した。その結果が出るには少なくとも1ヶ月ぐらいは必要だろう。

 これから夏までに適切な体重を見つける必要がある。思っている程時間的な余裕は残されていない。

 しかしだからと言って、今から焦ってもどうにもならない。減量や増量はすぐに成果が出ないもの。

 時間を無駄にしない様にしつつ、計画的に行動する以外に出来る事はない。


「はっ……はっ……」


 卑屈になる必要はない、別にタイムが落ちたのではないから。伸びが悪かっただけで、遅くなったのではない。

 今は自分のペースを維持しつつ、持久力をただ上げ続けるのみ。筋トレと走り込みの繰り返し、それが陸上選手に出来る全てだ。

 走って走って走り続けて、その先に結果と未来が待っている。シンプルな競技だからこそ、考える事もシンプルで良い。


 余計な事は考えずに、足を動かしただ自分の世界に入り込む。ランナーは基本的に孤独で、自分との戦いを繰り返す。

 好きな音楽を聴きながら、トレーニングをする人が多いのはそれもある。お気に入りの曲で外界を遮断し、鼓動と呼吸に意識を向ける。

 周りに流されない事、これが上手い人ほど強い。競い合うのと飲まれてしまうのは別物で、混同してしまってはいけない。


「はっ……はっ……」


 ペースに乱れはなく、大体想定通りの走りが出来ている。気を抜くとフォームが戻ってしまうので、姿勢と足の動きには注意をする。

 自分の体が新しい動きを完璧に覚えるまでは、常に意識を向けないといけない。無心で走っても勝手にそうなるレベルまで、徹底して肉体に叩き込む。

 そうでなければ、本番で良い結果を出す事が出来ない。何があろうと肉体が勝手に理想の動きをする体に仕上げていく。

 当たり前になるまで、馴染ませないと大会で競い合うのは難しい。何よりも相手は全国レベルの、同じ様に鍛えて来た者達だ。

 予選までには完全に仕上げておく必要がある。俺は流れる見慣れた風景を眺めながら、少しペースを上げる。広い池を迂回して、学校の校門前を目指す。


「はっ……はっ……はっ……」


 走る速度を1段階上げた事で、肉体に掛かる負荷が上がる。父さんが誕生日にくれたランニング用の腕時計を確認すると、想定通りのタイムになっていた。

 色々な機能の付いた便利な代物で、心拍数を表示させたり内臓のGPSでペースや走行距離を計測させたり出来る。

 練習の強いお供となっており、美佳子のシューズと共に俺を支えてくれている。ランナーは孤独だけど、俺は孤独ではない。


 支えてくれる人達の、物理的な証を身に着けているから。残る距離が1kmを切った所で、最後の追い込みをかける。

 更に心臓への負担が上がり、心拍数が早くなっていく。体が酸素を求めて、呼吸が荒くなりかける。

 でもそれをコントロールして、一定のリズムで息を吸う。遠くに校門が見えた所でラストスパートを開始。一気に走り抜けて、本日1回目の4km走を終わらせる。


「ふぅーーーーーーー」


「お帰り(あずま)勝本(かつもと)先生が呼んでいるから、息が整ったら来いよ」


「ああ……ありがとう柴田(しばた)……待ってくれてたんだな」


 ヒラヒラと手を振りながら、柴田は先にグラウンドへと戻って行く。このタイミングで顧問が俺達を呼んだとなると、駅伝に関する話だろうな。

 俺が入部した頃にも、そんな話が出たのを覚えている。聞いた話では、暫定のメンバーがこれぐらいの時期に告げられる。

 1年生に適正の高い者が居れば、5月から6月にかけて入れ替えが行われる。俺が去年選ばれたのもそのタイミングだった。


 これが所謂レギュラー争いってやつだな。つまりここで選ばれたからと言って、絶対に出られるという保証はない。

 今選ばれたからと言って、胡坐をかくなと言う事だ。俺は持って来ておいたタオルで汗を拭い、お茶を飲んで一息入れてからグラウンドへ向かう。

 俺が最後だったらしく、小走りで20人ほどの集まりに参加する。ここに居るのが駅伝大会に出場する可能性がある部員達だ。


「揃ったな。現在決まっているメンバーを発表する。1区は3年の藍田(あいだ)


「はい!」


「2区は2年の東」


「はいっ!」


 順番に担当する区間とメンバーが発表されていく。どうやら6区と7区の3年生に若干の入れ替わりがあった様だ。

 同じ2年生の柴田は、前回と同じ5区のままだ。これで一旦はメンバーが決定となり、入れ替わりが起きない限りは今日決まった7人で走る事になる。

 迫る県予選に向けて、程よい緊張感が周囲を包んでいた。今度こそは全国での区間1位奪還を目指して、自分を仕上げていかないとな。

 またメンバーに選んで貰ったからと言って、決して甘えてはいけない。ライバルは他校だけでなく、同じ部員だって枠を争う相手だ。

 1年生にも優秀な部員が居ると聞いている。自分の調整も続けながら、しっかりと実力をつけないと。


「話は以上だ。練習に戻れ」


「「「はい!」」」


 新しい1年が始まったのだなと、改めて実感しつつ再び練習に戻る。次は筋トレで、その後はまた走り込みだ。

 モチベーションは高い所で維持出来ているし、体調もメンタルも問題はない。先ずは県予選で、任された分の活躍をしないといけない。

 今年は夏歩(なつほ)和彦(かずひこ)も見に来てくれるらしいから、格好悪い姿は見せられない。さあ、いっちょ頑張りますか!

ゲロ回とスポーツ回の温度差が、現実世界の温度差みたいですね。それにしても暑過ぎる。

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