表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/306

第156話 My beloved

 諸々の問題が片付いた俺達は、春休みを利用してスキーに来ていた。今回は長野県ではなく群馬県に来ている。

 何故行き先を長野から変えたかと言えば、同行者に理由がある。今回のスキーは美佳子(みかこ)の隣に住んでいる宮沢鏡花(みやざわきょうか)さんと、その彼氏である葉山真(はやままこと)さんが一緒だ。

 あの日のプール以来のダブルデートという訳だ。そして2人は美羽(みう)高校の卒業生なので、俺と同様に長野に修学旅行へ行っている。

 4人の内3人がここ数年以内に長野で滑っているので、また長野にするのも少々味気がない。

 美佳子の運転で群馬県のスキー場に来た俺達は、冬よりは温かい陽射しの下でゲレンデを滑っていた。


「あの、大丈夫ですか? 宮沢さん」


「だ、大丈夫だよ気にしないで」


「鏡花はあまり体力がないんだよ」


 2人は俺と同じ高校だったのだから、修学旅行でスキー研修は受けている。だから滑れない事はなくても、体力的な問題はどうにもならない。

 確かに宮沢さんは体育会系には見えないし、俺達と同じペースは無理だろう。同じ女性でも美佳子はジム通いをしているので、あんな私生活のわりに運動は出来る。

 そして現役で体育会系の葉山さんと俺の2人。暫く滑っていたからか、その差が如実に出ていた。

 宮沢さんは恋人である葉山さんにケアをされている。ゲレンデの隅に座って、宮沢さんは呼吸を整えていた。

 もう2時間は滑っていたし、普通の女性なら疲れるのも無理は無い。少しハイペース過ぎたかのかも。


「鏡花、ちょっと張り切りすぎたんじゃないか?」


「う……そ、そうかも」


(あずま)君、俺達は少し休憩するよ」


「わかりました、美佳子に伝えておきます」


 俺は2人から離れて、リフトの近くで待っている筈の美佳子を探す。スキーウェアを着ていると、本来は体格が判別しにくい。

 着込むので性別すらも間違えてしまえるぐらいだ。似た様なスキーウェアを着ている人も多く、声を掛けたら別人なんてパターンは良くある。

 本当ならその筈なんだけど、1人だけ妙に目立っている人が居る。オーラが違うと言うか、纏う空気感が別物だ。

 元モデルで人気Vtuberをやっている俺の恋人は、沢山のスキー客に混ざってもなお目立っていた。

 探すのが楽だと言うのはメリットだけど、変に1人にするとナンパされる危険があるのはデメリットだ。


「ねぇ咲人(さきと)、鏡花ちゃん達は?」


「ちょっと休憩するらしいです」


「そっか~じゃあ2人で上がろっか」


 合流した俺達は、リフトの待機列にならんで順番を待つ。ちゃんとしていれば超の付く美人である美佳子は、サングラスをした程度ではその美貌を隠せない。

 むしろ似合っているだけに、格好いい大人の女性に見えている。当然そんな人が居れば、注目を集めるのは避けられない。

 男女問わず、色んな人がこちらに視線を向けて来る。特に男性からの注目度は高いが、隣に俺が居るのを見て視線を外していく。

 散々そんな経験をしているだろう美佳子は無視しているが、俺はまだその領域に達していない。

 人の彼女をジロジロ見るなよと、少し複雑な気分になる。それを察したらしい美佳子は、器用に動いて腕を組んで来た。


「こらこら、今はボクに集中する時間だよ」


「あっ、いや、ごめんなさい」


「放っておけば良いんだよ、この程度の事は」


 相変わらずハートの強さは流石だなと思う。他人の視線よりも、自分の事を気にしろと言えてしまえるのは実に美佳子らしい。

 でもそれはごもっともだし、出来るだけ余計な視線は無視しよう。俺だって不作法にも見て来る見知らぬ男より、美佳子の方に集中していたい。

 何の関係もない他人より、隣にいる恋人の方が大事に決まっている。せっかく生まれた2人きりの時間なんだ、1秒でも無駄にはしたくない。


 ちょくちょく飛んで来る視線も、美佳子と会話をしていたら次第に興味を失っていった。

 気持ちの切り替えが終わったちょうど良いタイミングで、リフトの順番が回って来たので2人で並んで前に出る。

 乗ったらすぐにお互いにわざと片方の手袋を外して、冷たい空気の中で手を繋ぐ。寒いからこそ、相手の温もりをより大きく感じる。


「ねぇ咲人、ボク達ってもう親公認になったじゃない?」


「それはそうですけど、急にどうしました?」


「そろそろ敬語、止めても良いと思うんだよね」


 言われてみればそれもそうか? 付き合い始めて半年と少し経った今でも、癖で敬語を使用し続けている。

 恋人なのにずっと敬語は流石に変か。美佳子からすれば、他人行儀に感じるのかも知れない。

 ただやっぱり、相手が大人だという意識はある。年齢差がある故に、常識が働くと言えば良いだろうか?


 年上にタメ口で話すのは、少々心理的抵抗感があるんだよな。だけどこうして手を繋いでいるし、何度もデートをして来た。

 キスだってしたし、いずれはそれ以上の行為もする事になる。それなのに、いつまでも敬語で話すのもおかしな話だ。

 きっと名前で呼ぶのと同じで、やっていれば慣れるだろう。良い機会だと思って頑張ってみよう。


「えっと、分かり、じゃなくて。分かった」


「うんうん、良い感じだよ」


「変、じゃないよね?」


「こっちの方がボクは好きかな」


 こうして好きだとストレートに言われると少し恥ずかしい。だけど、嬉しそうにしている美佳子が見られたからこれで良い。

 俺にとって一番重要なのはそこだから。美佳子と出会ってから今日まで、色んな事があった。新しく得たもの、取り戻したもの。

 色んな変化が起きているけど、美佳子への気持ちが変わる事はない。むしろより深くなったし、前よりも好きな気持ちは大きくなった。

 この気持ちが愛と呼べる程なのか、まだ俺には分からない。だけど俺にとっては、とても大切な感情だ。


 美佳子が居てくれるから、俺は先に進む力を貰える。春休みが終われば、俺は2年生になる。

 受験や進路だとか、色々と考えないといけなくなるのだろう。きっと新たな課題も増えるだろうし、壁にぶつかる事もあると思う。

 だけどそれでも、美佳子が居てくれるから何とかなる。それだけの安心感を、俺は美佳子の笑顔から感じていた。

これにて3章は終了です。

まだまだ書きたい事があるので、200話ぐらいで完結予定だったのを250話から300話に伸ばします。

お前それ1作目でもやったなって? うん、また、なんだ。すまない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ