第154話 両親への挨拶 後編
俺は緊張しつつも、美佳子の両親と向き合っていた。俺達は出会いからこれまでの話を伝え終えて、一旦相手の反応を待っている。
お義母さんは時折、話の途中で渋い表情を見せていた。お義父さんの方は苦笑いだったけど。何に対して何を思ったのかは分からない。
未成年を雇って働かせている事か、それとも家に招き入れた行為そのものを問題視したのか。
どちらも褒められた行いでは無いと言えばその通りで、この様な立派な家に住む人達から見れば尚更だろう。
だからなのかは分からないけど、こめかみを抑えながらお義母さんが俺の方を見た。
「どうやら随分と娘が迷惑を掛けてしまったみたいですね」
「いえ、迷惑なんて思っていません」
「何度も教えたのですよ? 家事ぐらい出来る様になりなさいと」
言いながらお義母さんは、チラリと美佳子の方を睨む。しかしそんな視線を向けられても本人は平然としている。
なるほど、そこが最初の問題点でしたか。良い所のお嬢様が私生活は滅茶苦茶なんて、あまり表には出したくない情報だろう。
と言うか美佳子レベルになって来ると、普通の家庭でも家族なら複雑に思うか。高校生に家事をさせている娘と考えると、頭でも抱えたくはなるのかも。
少なくとも俺の父親がそんな状態だったら恥ずかしい。結構適当だけど、ちゃんとしている父親で良かった。
「今は男性が家庭に入る事もありますから、それぐらい気にしませんよ」
「その分はちゃんと払っているし、そもそも稼いでいるからね」
「自慢げに言う事ですか! まったくこの子は」
早速から美佳子とお義母さんが、バチバチと火花を散らしている。いつもこんな感じだったのだろうなと、変な納得感がある。
そしてこれだけで分かったよ、性格が合わないのだなと。恐らくお義母さんは凄く真面目で、悪く言えば神経質?
多分だけど、そんな感じの女性なのだろう。前時代的という評価も、その辺りから来ているのじゃないだろうか。
今どきの若いもんは! とか言っているオジサンみたいなステレオタイプでも無さそうだ。
多分だけど、品格とかそう言うモノを大事にする人に見える。そして今度はお義父さんが、俺に向けて尋ねて来た。
「君はまだ若い、他に幾らでも相手が居るだろう? あまり言いたくはないが、娘は良い相手ではないだろう?」
「お父さん!? 酷くないかな!?」
「大事な話です、貴女は黙っていなさい」
抗議した美佳子だったけど、お義母さんに止められてしまった。良い相手ではない、と来ましたか。
俺から見れば、美佳子は確かに変わっているけど魅力的だ。でも両親から見れば、また違った見え方なのだろう。
どうやら交際を認めないと言うよりも、本当にこれで良いのかと心配をしてくれているらしい。
そりゃあ確かに、驚く程散らかすし掃除も出来ない。料理も洗濯も下手くそで、世間一般で求められる女性像とは大きく離れている。
そんな娘が未成年と交際するのは、親として複雑なのかも知れない。だけど俺はもう決めている、この人と生きて行きたいと。
「自分で選んだ事なので、不満はありません。新たに他の誰かを選ぶ気も無いです」
「娘より若い女性は沢山居るのにかい?」
「正直な話をすると、若さにあんまり興味がありません」
これが最近分かった俺の好みに関する回答だ。周囲の女子達も十分綺麗だったり可愛かったりする。
だけどそれでは恋愛対象にならない。若さというステータスが、俺にとっては重要では無かったのだ。
それは美佳子が若くないと言う意味ではなく、そもそも好きになる上での必須条件じゃ無かったという意味だ。
若い女性を好きになる人は、必須条件が若い事である筈だ。個性とか容姿とか、それより先に若さが重要になる。
ならその人はきっと、若ければ誰でも恋愛対象に見えるのだろう。でも俺は最初に来るのが個性だ。
明らかに常人とは違う生き方をしている美佳子が、俺には輝いて見えた。美佳子のアンバランスさが、俺はとても気に入っている。
面倒くさい部分も含めて、俺は美佳子が好きなんだ。これは個人的な意見だけど、欠点を認められない人とは関係が続かないと思う。
「美佳子さんは面白いなって思います。凄く個性的で、そこが好きです」
「ふむ……年齢は関係ないと」
「あ、いえ。どうも年上が好きみたいです」
以前に夏歩が言っていたし、それは俺も今では自覚している。始まりは和彦のお母さんに対する憧れで、今はこうして美佳子と居る。
もうこれは確実に俺の恋愛対象がそうだと言う事だ。学校で誰かを好きになった事が無かったのも当然だ。
だってそもそも恋愛対象に入っていない年齢なのだから。まあ俺もまさか、15歳も年上の人を好きになるとは思わなかったけどさ。
恋愛を苦手に思っていた時には、恋人の居る生活がこんなに楽しいなんて思ってもみなかった。
でも今は毎日が楽しくて、美佳子に会えるのが嬉しい。一緒に過ごす時間はいつも新鮮で幸せだ。
「……驚きました、貴方は本気のようですね」
「嘘じゃないって、分かって貰えた?」
「どうやら、そうみたいですね。ですがそれはそれとして、貴女は生活を改めなさい」
そこからはチクチクと小言を続けるお義母さんと、反論する美佳子のやり取りが暫く続いた。
その間にお義父さんが、こんな娘を宜しく頼むと言ってくれた。俺は素晴らしい女性だと思っていますと返して、美佳子と過ごした日々の話を披露した。
思っていたよりも、和やかに話が進んで良かったよ。イメージしていたよりもずっと、心優しい人達だった。
そもそもの人柄が良いんだろうな。だからこそ、美佳子がこの様な女性に育ったのだと納得出来た。
うんまあ、私生活がこうなった理由だけは謎のままだけど。




