第152話 園田マリアの恋愛相談④
咲人が幼馴染達と和解を果たし、楽しい時間を取り戻していた頃。その裏では美佳子が配信をしていた。
咲人が和彦と和解を出来た件について、美佳子は既に聞いていた。助言しか出来る事が無かっただけに、普段から心配をしていた。
それが今では解消し、残すは両親への紹介のみ。母親が認めるかどうかは不安なものの、反対されたら押し切る覚悟だ。
今更になって美佳子が、必要以上に悩む事は無かった。わりと気楽な雰囲気で、美佳子はいつも通り恋愛相談を受けていた。
現在は中学生の女の子から来た相談で、相手の男子が自分を好きかどうかが分からないと言う相談だった。
「青春だねぇ~~。学生らしくて良いじゃん。まあねぇ、中学生男子の好意って分かり難いからなぁ」
『それぐらいの頃って恥ずかしいのよ』
『ストレートには言えないよなぁ』
『くっそ茶化されるしな』
『どうして男子ってああなの?』
『中学生でも恋愛をしているのに独り身のワイ……』
中学生の男子は、恋愛に対して非常に敏感な傾向がある。誰と誰が付き合い始めたとか、仲の良い女子が居るとかやたらと噂が回る。
興味がないからと無関心を貫く場合もあるものの、大なり小なり恋愛というモノを意識してしまう。
性教育の本格化や、女子の成長も影響するのだろう。一般的に中学生にもなれば大半の学生は制服であり、女子はブラジャーを着用している。
夏場になればどうしても下着の色が透けてしまうなど、何らかの形で性を意識させられる機会が増える年齢である。
成長期であるのも手伝って、非常に複雑な状況に陥る。それらの理由もあって、中学生の男子が女子と上手く付き合うのはかなり難しい。
特に好意を示すという点においては、下手である場合が多い。上手く言葉で伝えられるほどに、恋愛経験が無いからだ。
中学生の時点では、女子から見れば奇怪な行動に出てしまう男子も居る。何で? どうして? と言う想いをさせてしまいがちだ。
「これで分かるだろ? みたいな感じだよね。いや分からんよってなるやつ」
『好きって言って欲しいよね』
『好きなのか違うのかどっちなの? ってなったなぁ』
『ピュアなのかなぁ?』
『男性リスナーの肩身が狭い』
『許したって~中学生ってそんなもんやねん』
学生時代の男女の恋愛観に違いがあるのは、男性向け作品と女性向け作品の違いが大きいだろう。
主に男性向け作品のラブコメや恋愛描写は、付き合うまでが描かれる事が多い。最後の最後で結ばれてエンディングへ、という流れが一般的だ。
逆に女性向けは、付き合った後も描かれる事が多い。漫画作品だとお互いの好意を確認するのは最初の数巻だけで、あとは交際後のアレコレがメインになる。
もしくは交際までは行かずとも、お互いの気持ちを理解している事実上の交際状態になる展開もある。
最近の流行りで言えば婚約破棄などが有名だが、その場合も殆ど新しい婚約者がセットだ。つまり結婚生活が前提である物語構成になっている。
しかし男性向けはそこまで行かず、交際時のストーリーが殆ど無い。過程が一気に飛ばされる展開が多く、告白するのがゴールだと錯覚してしまう。
「って訳だからさぁ、直接ちゃんと聞いた方が良いよ。あと付き合いたいなら、その意思も伝えた方が良いよ」
『え、男子ってそこまで言わないと分からないの?』
『えぇ~~そう言う事?』
『気にした事無かったけど、確かにそうかも』
『言われてみたらそうだな』
『告白がゴールは確かにそう』
続いての相談は、結婚をする気はあるものの、上手く行くか不安だと言う都会で暮らすOLのお悩みだ。
これについては誰しもが不安に思う点であり、もしも失敗したらと考えない人はそう多くないだろう。
不安という感情は、人が踏み出すのを簡単に止める。悪い想像が頭の中から消えず、ふとしたタイミングで良くない方向に考えてしまう。
そんな事は微塵も考えずに、ポンポン先に進む人も中には居る。ただしその場合は、ナンパ等の良くない行為に手を染めてしまいがちだ。
出会い方は個人の自由ではあるものの、迷惑に思われる行為が許される訳では無い。その辺りのバランス感覚は、人によって違うので様々だ。
だからこそ恋愛や結婚は難しく、絶対の正解が存在しない。上手く行った誰かのやり方が、全ての人に適用出来るとは限らない。
「失敗をしない生き方ってね、その分挑戦もしないんだよ。上手く生きている様に見えるだけで得る物は少ないの。貴女が不安に思うのは仕方ないけどさ、前に進みたいなら踏み出さないと」
『ガチ効きするからやめて』
『ワイ氏、無事死亡』
『良い事を言っている筈なのに、素直に受け止められない』
『とりあえずニートニキはハロワ行ってどうぞ』
『コメ欄阿鼻叫喚で草』
恋愛をするには、先ず挑戦する心が必要になる。踏み出さない努力もしないでは、誰かに好かれるのは不可能に近い。
ある日突然、ありのままの自分を愛してくれる人が現れる事は無い。好いて貰える人になろうとしない限り、その先には進めない。
例えば人気配信者は、楽に稼いで楽にモテていると言われる事がある。しかし実際には、人気配信者になる為の努力をしている。
それに人間的な魅力が一切無い配信者では、人気者になどなれない。多くの人に好かれている理由は必ずある。
人としての魅力を磨いている期間なんて、外野からは目に映らないもの。その積み重ねを軽視して、人気者は楽で良いと勘違いをされる。
実際には楽なんてしていないからこそ、美佳子と咲人の関係性がある。そんな2人の節目、両親への挨拶がもうすぐ行われる。
「ボクなんて失敗だらけだよ。何回彼氏にフラれたか」
『可哀想』
『そりゃね、マリアは私生活がね』
『あの散らかり具合はしゃーない』
『申し訳ないが汚部屋はNG』
『ヤニカスと酒カスまでなら許容出来るけどね』
幼馴染との関係も戻り、新たな経験をした咲人。彼が美佳子の両親に示す意思は、もう既に固まっている。
15歳という年齢差があり、その上褒められた生活ではない美佳子。そんな彼女と結婚するつもりだと伝える為に、咲人は覚悟を決めていた。




