第148話 お祝い会(?)
全国駅伝大会の結果、美羽高校は2位で終わった。前回が3位だったから、1つ上がったと言う意味では誇らしい。
ただ区間1位は逃しており、今回は3位まで落ちてしまった。全体としてはプラスだったけど、俺個人としては課題が残る結果だった。
俺の後ろにいた選手の1人が、7位から4位まで押し上げる活躍を見せたらしい。もし藍田先輩が3位で到着してくれていなければ。
区間2位の選手とほぼ同時にスタートしていれば、2位を取れなかった可能性は高いだろう。
メンバー全員で勝ちに行く競技とは言え、今回は周囲に助けられた結果だ。その事実は重く受け止めなければならない。
勝って兜の緒を締めよって言うアレだ。まあ優勝は逃しているけれども。それでも2位は十分勝者側だ。
「咲人ったらまた気にしてる~~今はお祝いの場だよ?」
「す、すいません。どうしても反省点が気になって」
「反省ってのは、引き摺るって意味じゃないからね?」
大会後の恒例となりつつある、美佳子とのお祝い会をホテルのレストランでしている。マサツグを隣の女子大生2人に預けて、数時間だけの大人なディナーだ。
祝う時はしっかりガッツリが美佳子のスタンスだから、毎回こうして祝って貰えて嬉しい。
だと言うのに、俺は反省点を考えてしまっている。ここは反省会の場では無いのだから、美佳子の言う通りだ。
課題は課題として、それはまた練習の中で考えよう。今はそんな事よりも、美佳子との夕食を楽しまないと。
そうでなければ彼女に対して失礼だろう。しかも近所のファミレスではなく、高級なホテルのレストランだ。お金を出して貰う側としても相応しくない。
「ごめんなさい、もう大丈夫です」
「真面目なのは良い事だけど、息抜きもちゃんとしなきゃダメだよ」
「はい。甘えさせて貰います」
普段の言動はアレだけど、こうして大人らしい対応も出来る人だ。せっかく機会を与えてくれているのだから、今は甘えさせて頂こう。
それに考え過ぎても良くはないと、何度か父さんにも言われた事があった。ある程度適当な方が、人生上手く行くと言うのが父さんの口癖だ。
実際それで出世しているし、その観点で言えば美佳子もそうだ。手の抜きどころを分かっていると言えば良いのだろうか?
その辺りを上手くやれるのが大人なのかな。まあ美佳子の私生活を大人と表現しても良いのかは分からないけど。
凄い人なのは間違いないけどね、色んな意味で。どんな教育をされたら、こんな極端な人に成長するのだろうか。
「そう言えば聞いた事が無かったですけど、美佳子の両親ってどんな人なんですか?」
「…………う~~ん、それを今聞いちゃうかぁ」
「あ、あれ? もしかして聞かない方が良かったですか?」
美佳子にしては珍しく、困った表情と歯切れの悪い返答だ。亡くなっている様な事は配信でも言っていなかった筈だ。
両親健在と思える言い方をしていた筈だけどな。生まれ故郷の特定を避ける為に、実家に関する情報を曖昧にしていたのではないのか?
もし亡くなっているのなら、確かにお祝いの場でする話ではない。その場合は完全に話題を振った俺が悪い。
美佳子はどうしようか悩んでいるらしいけど、見た感じは暗い雰囲気でもない。今まで見た事のない悩ましい表情を見せている。
そして何度か視線を交わし合った後に、決心したらしい表情で美佳子は言う。
「今日話すつもりじゃ無かったけど、話題に出たから言っちゃうね。咲人に無関係ではないし」
「あの、もしかして重い話ですか?」
「重く、はないんじゃない? 母親にお見合いさせるって言われただけだし」
「クソほど重いんですけど!? 俺からしたら!?」
なんだそれ!? もう課題とかどうでも良くなったよ。そんな事より遥かに重要な話が飛び出して来た。
お見合いをするって、結婚する為にやるアレだろ!? 今の時代にそんな事をさせる家庭があるのかよ!?
って言うか、もしかして美佳子の実家もお金持ちだったりするのか? 資産運用とか詳しいのはそれが理由?
でも本人からはそんな雰囲気は…………いや今思えば、あんな生活でも美しさを保っているし外出モードの時は上品さがある。
元モデルだからと言うよりも、そっちの比重が大きいとしたら? もしかして俺、これでサヨナラ?
何処かの御曹司とお見合いするの? え、ここから別れ話が始まるのか!? 俺の恋愛はこれにて終了!?
「彼氏が出来たから嫌って断ったらさ~~証拠を見せろって言われてね」
「び、ビックリした~~~! 別れ話をされるのかと」
「別れ話なんてする訳ないじゃん。もうボクは咲人に死ぬまでお世話をして貰う気満々なのに」
ああ良かった。いや良かったのか? 何か聞き捨てならない発言があった様な気がしたけど。
でもそう言う事なら、敢えて黙っていた理由も分からなくはない。あまり良い話とは言えない内容だった。
どうにも美佳子は母親と、恋愛観や結婚観が合わないらしい。どんなは母親かと言われたら、前時代的な頑固者だと説明された。
お父さんの方はそうでもない普通の人だと言っている。そしてどうやら、俺は美佳子のお見合いを阻止する為に挨拶に行かねばならないらしい。
まさか17歳で娘さんを下さいと言う、定番の台詞を言わねばならないとは。下さいって言っても、俺はまだ年齢的に結婚する事が出来ないのに。
それでもお見合いをさせない為なら、俺は頑張れる。美佳子を誰かに譲る気なんて一切ない。
「まあ面倒くさい人だよ。価値観が昭和で止まってる」
「あ~まあ、そう言う人も居ますよね世間的に」
「大体さ~所有資産で勝負したら圧倒的にボクの勝ちなのに、偉そうな事言わないで欲しいよね」
所有資産でバトルが出来る女性は、そもそも世の中にそう多くはないのではなかろうか。
未成年だから想像でしかないけど、美佳子レベルで稼いでいる人は男性でもそう多くは無いと思う。
1千万円の車を、大した額じゃないと言い切れる人だ。そんな人の所有資産はどれ程か…………ま、知らない方が幸せな事ってあるよな。
何にしろお祝い会は半分美佳子の愚痴大会へと変わってしまったけれど、彼女の新たな一面を知る事が出来たので良しとする。
いや良しとして良いのか? まあ兎も角、日程を調整した上で近い内に美佳子の実家に挨拶しに行く事が決まった。それにしても何か最近、忙しくない?
次回から体育会系には少し辛いかも知れない話が3話ほど続きます。
私は心を抉られながら書いてました。辛さが理解出来るので。
そんなわけで読むタイミングにはご注意ください。




