表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/306

第142話 夏歩に相談してみる

 とある日曜日の午前中に、夏歩(なつほ)と会う約束をしていた。昔から良く利用していた、町内にあるファミリーレストランで向かい合って座る。

 昔と違ってショートカットになった夏歩が、未だにちょっと見慣れない。とりあえず適当に軽食とドリンクバーを注文してから、和彦(かずひこ)に関する相談を始める。

 相談と言っても、大した情報量は無いんだけどさ。現状は俺が話し掛けて、和彦がただ聞いているだけだし。

 話を聞いてくれているだけ、前進はしているって程度に過ぎない。結局和彦が不登校になった理由は良く分からないままだ。


「実はさ、和彦が引き籠っているんだ」


「え!? な、なんで!?」


「理由はまだ分からないんだよ。おばさん達にも何も話してないんだ」


 昔から知っている和彦の人物像を考えれば、やっぱり意味が分からないよな。それは夏歩も同じ様で、心底驚いている。

 凡そ和彦とは無縁に思える状態に、ただ困惑するしかない。美佳子(みかこ)の予想通りならば、何かが理由で自信でも失ってしまったか。

 リーダーシップを発揮し過ぎて、病んでしまった線もある。最近のアイツがどうだったかは知らないけど、昔とそう大きく変化しているとは思えない。

 夏歩もそうだし俺もそうだけど、根っ子の部分は昔から変わらない。別人の様になってはいないし、そもそも簡単に変われたら苦労はしない。


「夏歩は何か知らないか?」


「和彦が夏の甲子園に行ったのは聞いたけど……それ以外は特に」


「そうなのか!? すげぇな」


 やっぱり野球を頑張っていたんだな。小さい頃から甲子園に行くんだって、ずっと言い続けていたぐらいだ。

 その夢を1年目から叶えていたのだから流石だ。もちろん競技の性質上は和彦1人の成果ではないけど、それでも凄い事だ。

 でもだったら尚更分からないぞ。夢も叶えて最高の気分になれた筈だ。いや待てよ? 優勝したのでないとしたら、自信を喪失する理由にはなるか?

 1年でレギュラーに選ばれていた可能性もゼロではないしな。そこで大きな失敗でもしていたら、心が折れたとしても不思議ではない。

 甲子園が終わって、結果が散々で無理をして10月にダウンした。結構有り得そうな話じゃないだろうか?


「なあ夏歩、結果がどうだったか知っているか?」


「えぇっと……確かベストエイト入り、だったかなぁ?」


「そこで負けたのが原因で病んだって、可能性はあるよな」


 十分な躍進だけど悔しい順位だし、可能性がより高まって来た。負けた理由が自分のミスだったりしたら、責任感の強い和彦がずっと気にしていた可能性はある。

 と言うか絶対にアイツなら背負い込む。自分を責めに責めて、責めまくってハードなトレーニングを繰り返すだろう。

 そして故障でもするか、伸び悩んでしまって絶望したとか? スポーツ選手なら誰にだって有り得る話だ。

 丁度この前シルバージムの山崎(やまざき)さんにも、教えて貰った所だ。オーバートレーニング症候群と言う、ハード過ぎるトレーニングのせいで不調を招く危険な症状だ。

 その中にはうつ病になってしまう事もあると聞いた。まあ俺が無理なトレーニングをしようとして、ただ怒られただけなんだけど。


「これなら有り得そうじゃないか!?」


「うーん、確かに。和彦ならやりそう」


「ただ予想はついても、どうすれば良いか分かんねぇよな」


 多分こうだろう、と分かったとしても現状が変わる訳では無い。何か良い気晴らしとか、そう言うリフレッシュが出来そうな所に連れていく?

 いやそもそも、部屋から連れ出すのが難しいか。ドアの所までは来てくれるけど、無言だし出て来る気配もない。

 じゃあどうやって出て来て貰うかって話になる。昔の様に食べ物で誘惑するとか、高校生になった今じゃ通じないし。

 夏歩に行かせるのも、うつ状態ならプラスになるか分からない。そもそも今でも好きなのか、俺達は知らないのだから。

 一体どうしたものか。これじゃ作戦すら立たないぞ。進んだ様で進めていない微妙な状況にある。


「話を聞く限りだと、咲人(さきと)が一番の鍵なんじゃない?」


「お、俺か? 夏歩じゃなくて?」


「一番長く一緒に居たのは、私じゃなくて咲人の方だし」


 そりゃあ俺達は男同士だから、夏歩が居ないタイミングでも一緒だったけど。幼少期ならともかく、トイレや風呂までは夏歩と一緒では無かった。

 何より男だけで遊びに行く事もあったから、そう考えると俺の方が一緒に居た時間は長い。だけどなぁ、本当に俺の方が良いのか?

 恋人が出来た今なら、好きな異性から得るパワーを知っている。自分でも思わぬモチベーションを発揮する事だってある。

 それにコールセンターが女性ばっかりなのは、担当を女性にした方が相手は会話をし易いみたいな例もあるしな。

 今でも夏歩が好きかは分からなくても、嫌いにはなっていないんじゃないか? 和彦はフラれたからと夏歩を憎む様な男ではない。


「あ、そうだ! 私の知り合いに和彦と同じ学校の子が居るよ!」


「本当か!?」


「ちょっと聞いてみるよ」


 夏歩がスマートフォンを使用して、通話アプリを開く。そして何人かの知人達にヒアリングをして貰う。

 甲子園まで行ったぐらいだから、和彦はそれなりに有名だったらしい。和彦の学校生活に関する話はすぐに集まった。

 そしてそれは、少々不可解な内容だった。俺の予想とはだいぶ違い、和彦は甲子園で代打出場しホームランを打っている。

 敗北に繋がる様なプレーではなく、しっかりと活躍していた。学校でも評判が良くて、急に来なくなった事を皆が不思議がっているそうだ。


 一体どういう事なんだ? それなら不登校になる理由がない。負けたのが悔しかったから、オーバートレーニングを?

 その線が絶対に有り得ないとは言えないけれど微妙だ。あと1つだけ気になる情報としては、甲子園の後から和彦は少し様子が変だったらしい。

 気の抜けた様子だったとの事だけど、何故そうなった? 活躍したのに? 少しだけ情報が手に入ったけど、結局真相は和彦に聞くしかない様だ。

次回から美佳子の向き合うべき過去編に入り、そこから2人が過去と向き合った結果の話になって行きます。

予定では155話ぐらいで3章が終了です。

4章からは2年生編になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ