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第141話 ジェラシー

 和彦(かずひこ)の件について、俺は夏歩(なつほ)にも相談しておく事にした。今すぐ和彦と会わせるのは不味い気がするから、現状分かっている情報を共有するだけだ。

 もし可能なら、また3人で過ごせる様になりたいと思う。昔から一緒に過ごして来た想い出は、今も忘れた事はない。

 あの頃と全く同じ関係は無理かも知れないけど、それでも幼馴染としての関係は大切にしたい。

 ただそれはそれとして、今は目の前にある現実の問題と向き合わねばならない。


「ふぅん……ボクの()()()()女の子と会うんだ」


「いやそれはその……今度紹介するんで」


「それは別にどうでも良いけど、その子は咲人(さきと)の事が好きだったんでしょ?」


 美佳子さんに黙って会うのは駄目な気がしたので、正直に話した結果こうなった。少し責める様な視線を美佳子さんから向けられている。

 今も俺は夏歩については、友人と言う感覚しかない。俺と美佳子さんの関係も知っているし、今更どうこうするつもりは無いだろう。

 プールで再会して以来、夏歩とは普通の幼馴染としての関係が戻っている。昔と全く同じではないけれど、まあ悪い関係ではない。

 ただ美佳子さんからすると、それでハイ納得とはいかないらしい。本当に今の夏歩とは何もないんだけどなぁ。


「今はもう違うみたいですし」


()()()、なんだ?」


「ああいえ、明言はされているので」


 おかしいぞ、恋人には隠し事をしない方が良いんじゃないのか? 正直に話した方が怪しい空気になっているんだけど。

 でも内緒で会う方が、相手に不誠実な気がしたのは確かだ。俺の感じた感覚が間違っているのか? 

 今までにあまりない雰囲気になってしまっている。似た状況で言うと、澤井(さわい)さんについての話になった時だ。


 澤井さんが同じジムに通う様になって暫く、美佳子さんは観察していたらしい。何となく感じるモノがあったと言っていた。

 女性の直感力とは、こうも鋭いものなのかと驚かされた。ちなみに澤井さんは限りなく白寄りのグレー判定らしい。

 判断基準がいまいち分からないが、どうもそう言う事だった。最近はどんどん白に染まりつつあるとか。


「俺に浮気する気はありませんから」


「咲人は信用しているけどね、その子はまた別」


「夏歩は人の恋人に手を出す様な性格じゃないですよ」


 夏歩はそう言った、性格の悪い行動に出る様なタイプではない。やるなら正々堂々と正面から行くだろう。

 だからアイツとは2人で会ったとしても、何かをして来る事はない。それに夏歩は頻繁に連絡をして来ないし、俺も気が向いた時に連絡をする程度だ。

 幼馴染故に気安いやり取りが出来るだけで、恋愛を感じさせる空気になる事は一切無い。

 そりゃあ最近までろくに恋愛を知らなかった奴に、一体何が分かるんだと言われたら反論の余地はないけれども。

 しかしそれにしても、この場はどうやったら乗り切れるのだろうか。やっぱり彼女という立場からしたら複雑なのか?


「その子は名前で呼ぶんだね。ボクはまだ『さん』を付けたままなのに」


「え? あ、いやそれは……昔からの癖って言うか」


「ボクは恋人なのになぁ~~~!!! まだ『さん』付きなのになぁ~~~!!!」


 ああ、そこが一番のネックだったのか。と言うかこんな嫉妬の仕方をするんだ美佳子さんって。

 申し訳ないけど、ちょっとだけ可愛いなと思ってしまった。恋人が嫉妬をすると言う状況は、申し訳なさもあるけど嬉しい気持ちも少しある。

 好きで居てくれるから、嫉妬という感情が生まれるのだから。ほんの僅かだけど、彼氏に嫉妬をさせるタイプの駆け引きをする女性の気持ちが理解出来た。

 やろうとは思わないし、やるつもりも無いけれど。それにしても呼び方の問題かぁ。正直言って、呼び捨てにするのは少し恥ずかしいぞ。

 そうして欲しいって意思表示なのは分かるんだけど、初めての恋人なだけに心理的ハードルが高い。

 俺とは違って、何人も恋愛をしている人ならサクッと出来るんだろうけど。これはまた厄介な課題を出されてしまった。


「じゃ、じゃあこれからは『さん』は付けないので」


「だったらホラ! 今すぐホラ!!」


「うっ…………み、美佳子」


 結局言わされてしまったな。好きな女性の名前を呼び捨てにするなんて、人生で初めての経験だった。

 そこそこの気恥ずかしさと、特別な呼び方を許された喜びが同時に襲い掛かって来ている。

 そして恋人として、少し先に進んだ気もして来るがどうなのだろうか。名前で呼び合うなんて、実に恋人関係らしい特別なモノ。

 多分きっと世の中のカップル達は、当たり前にやっているのだろうけど。それでも俺にとっては、少しだけ大人に近付いた様な感覚がしている。

 相手が年上の女性だから、余計とそう思えてしまえるのか? 敬称付きで名前で呼び始めた時以上の、何かを感じている。


「今日はこれぐらいで許してあげる」


「え、それじゃあ」


「事情が事情だからね。ボクもそこまで咲人を縛る気はないよ」


 何となく掌の上で転がされていた気がする。なんせ先ほどまでの微妙な空気は、あっという間に消え去っているのだから。

 嫉妬心については演技では無いのだろうけど、名前で呼ばせたのは意図しての事だろう。

 だって夏歩の説明を始めた当初から、微妙な反応を見せていたから。あれはきっと、何度も俺が夏歩の名前を呼んでいたから気になっていたのだろう。

 こう言う事にすぐ気が付ければ良いのだろうけど、まだまだ俺には難しい。ただ恋人の嫉妬するポイントについては1つ学べた。


 結局美佳子さ……美佳子に許された俺は、夏歩に相談しに行く事になった。どうにか目的が達成出来て良かった。

 ちなみにだけど、過去の女性関係については一切知りたくない女性と、全て知りたい女性の両方が世の中には居るらしい。

 そんなの判別出来るわけないって。女性の心理は複雑過ぎるよ。

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